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昼食を摂るようにジョセフ殿下に何と言って説得しようかと思案したまさにその時、顔を見せたのは……。
「ジョセフ第二王子殿下、本当に失礼いたしました。心からお詫びいたします。殿下、今回フィッツロイ公爵令嬢が選んだ馬は、お詫びとして無償で贈らせて頂きます。どうかお許しください」
フォーリー男爵が平身低頭で頭を下げると、ジョセフ殿下はチラリと私を見て、口を開く。
「今日購入する馬は、フィッツロイ公爵令嬢へのバースデープレゼントです。ですからちゃんと僕が購入します。お詫びということであれば、購入する馬の馬具一式をプレゼントとしてください。僕自身は今日、馬を手に入れるつもりはありません。王家の牧場に何頭も愛馬はいるので十分です」
ジョセフ殿下の言葉にフォーリー男爵は「承知いたしました、ジョセフ第二王子殿下。寛大な御心に感謝します」と深々と頭を下げる。
「では試乗を」
「殿下!」
「どうしましたか、フィッツロイ公爵令嬢?」
「私、飲み物と、もう少しデザートをいただきたいです」
私の言葉にジョセフ殿下は「……!」としつつも、フォーリー男爵を見る。
「勿論でございます! すぐにご用意いたします。……ジョセフ第二王子殿下の昼食もお待ちしてよろしいでしょうか?」
「……そうですね。お願いします」
ジョセフ殿下が笑顔で答えた。
◇
「ではこちらの馬と馬具一式、準備を整えて、フィッツロイ公爵令嬢の御生誕日に、お屋敷に届くよう手配させて頂きます」
「頼みました、フォーリー男爵。その日まで、馬の健康に気を配るように」
「かしこまりました。……ところでジョセフ第二王子殿下はなぜ我がスタッドファームをご利用頂いたのですか?」
フォーリー男爵の言葉に、ジョセフ殿下は私を見る。
「フィッツロイ公爵令嬢が牝馬であればフォーリー男爵のスタッドファームがお勧めであると教えてくれたのです」
「そうだったのですね……! それはフィッツロイ公爵令嬢、ありがとうございます!」
フォーリー男爵は心からの言葉で私に御礼を伝えてくれる。
私を死に追いやるヒロインの養父のようなフォーリー男爵だけど、彼自身は悪人ではない。こうやって接すると普通にいい人ね。
結局、ヒロインとヒーローの仲が一段と深まるはずのスタッドファームでは、そうはならず、むしろ……。
ジョセフ殿下は自身の半裸にも近い状態をヒロインに見られ、かなり怒っていた。
ここで不敬罪を持ち出さないところはジョセフ殿下が怒り心頭になっている相手がヒロインだからなのか。
「では帰りましょうか」
「はい」
行きと同じように、ジョセフ殿下は私が馬車に乗り込むのを手伝ってくれる。
パタンと扉が閉じられ、ジョセフ殿下が別の馬車に乗り込むのをマリエットと共に待つことになったが……。
窓から外を見た私は「……!」と驚くことになる。なぜなら建物の柱の影からヒロインがこちらを見ていたのだ。
潤んだ瞳が見つめているのは……。
ジョセフ殿下の馬車だわ。
ヒロインのその顔はまさに恋する乙女そのもの。
間違いない。ヒロインの方はバッチリ、ヒーローであるジョセフ殿下に恋をしている。それなのに殿下はなぜかヒロインが眼中にない。
どうしてなのかしら?
ヒロインではなく、私への執着が強い気がする。
そこでガタッと馬車が大きく揺れ、ゆっくりと動き出す。
「一時はどうなるかと思いましたが、無事、素敵な馬が見つかって良かったですね」
「そうね。性格も大人しいのに、私に懐いてくれて。誕生日が楽しみになったわ」
「ジョセフ殿下もとても嬉しそうでしたよね」
マリエットの言葉に私は思わず尋ねてしまう。
「ねえ、マリエット」
「はい、お嬢様」
「どうして殿下は……私のことが好きなのかしら?」
「え……それは……」
「私の見た目が好きなのかしら?」
何気にスキンシップも多めだし、年齢的にもそっち目的の可能性も高い。目の前に美味しそうなチョコレートケーキがある。ずっとそれを食べたいと思っていた場合、突然イチゴのショートケーキを出されても、まずはチョコレートケーキと思っている可能性が高い。
もしかして私とすることをしたら、ジョセフ殿下は心変わりしたりする……?
「殿下はお嬢様の見た目もお好きかと思いますが、それだけではないと思います」
「そうなのかしら!?」
「はい。お嬢様は淑女として殿下と距離をとられていますよね。でも殿下はその距離がもどかしそうで……。お嬢様の懐に入り込みたいのに、それが許されず、想いを募らせているように見えました」
「それはつまりジョセフ殿下は本気で私を好き、ということ……?」
「そうだと思います。少なくともお嬢様にお仕えするようになり、殿下のこともそばで見ることになりましたが……。お嬢様といる時、殿下はその……もうお嬢様に夢中、という感じで、周囲の令嬢のことなどまったく目に入っていないように思えます」
これには「そんな……!」と叫びそうになる。
どうしてそうなったの!? どうせ婚約解消になるからと、デレなしのツンで通したことで、ジョセフ殿下の執着心を目覚めさせてしまった……とか?
私のこの疑問の答えは、まさかのジョセフ殿下本人からもたらされる。
◇
「フィッツロイ公爵令嬢、休憩にしましょう」
馬車の休憩所に到着し、最初の休みとなった。この休憩場は大きめなので、二十分ほど休むことになる。
マリエットと共に馬車を下りると、「お嬢様、レストルームは大丈夫ですか?」と聞いてくれるので「大丈夫よ」と答えると、すぐに丸太のベンチに敷物を敷いてくれる。そこにちょこんと座り、マリエットが差し出す果実水で喉を潤す。
するとレストルームから戻ったジョセフ殿下が、従者が持つ箱を私の前に置く。
「フォーリー男爵がお土産で持たせてくれました。蹄鉄の形をしたバターキャラメルです。一緒にいただきませんか?」
「はい。いただきます!」
ジョセフ殿下が蓋を外すと……香ばしいバターと砂糖の香りが漂う。
「どうぞ、フィッツロイ公爵令嬢」
「ありがとうございます」
一口サイズの蹄鉄の形のバターキャラメルを口へと運ぶ。
元の世界のミルクキャラメルと違い、硬いが甘みは強い。それでいて焦がしているのでほろ苦さもあるが、それをバターのコクが包みこむ。
一度食べるとその味わいが癖になり、一個、二個と食べたくなる。しかもサイズもそこまで大きくないので食べやすい。
「何だか紅茶が飲みたくなるわ」
独り言のように呟くと「ご用意します!」とマリエットが動いてくれる。休憩所には共同利用できる竈と井戸が用意されているのだ。勿論、井戸の水の調査は既に済んでいる。
マリエットが竈に向かい、ジョセフ殿下の従者は井戸に水を汲みに行ってくれた。近衛騎士は少し離れた場所に待機しており、二人きりではないが、ジョセフ殿下と会話しやすい状況だった。
これってもしかしたら、なぜ私を好きなのかと聞くチャンスでは……?
気まずくなってもそれぞれの馬車に乗り移動となる。そうやって移動していたら、気まずい雰囲気も落ち着くだろう。
そこでバターキャラメルが口の中で溶け切ったタイミングでジョセフ殿下に声をかける。
「ジョセフ殿下と私は政略結婚ですよね」
「えっ」
「王家と公爵家の結婚、そう珍しい話ではないですよね」
私の言葉にジョセフ殿下は寂しそうな表情を浮かべる。
「僕は政略結婚だとは思っていません」
「えっ、違うのですか!?」
「違います! 僕は初めてフィッツロイ公爵令嬢と出会ってからずっと、あなたに恋しています」
「殿下の誕生日を祝ったお茶会で、私はちょっとやんちゃだった気がします。本当に私のことが……」
「好きです!」
恥ずかしがる様子もなく、ジョセフ殿下は真っ直ぐの眼差しで私に告げる。
「それにフィッツロイ公爵令嬢に出会ったのはそこが最初ではありません!」
お読みいただき、ありがとうございます!
なんだかジョセフ殿下が語り出しそうな!?
続きは明日の夜頃公開予定です~
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