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回避プランが決まったが1歳児ではほぼ何もできない。みんなに嫌われる悪役令嬢になりたいと思うが、元の世界で読んでいた小説に登場するような悪役令嬢がやるような悪戯をすることは……まだできない。
ならばと1歳児でできる体力で暴れまくるが……。
「キャロラインは元気ですね、お父さま、お母さま」
「オーランド、この年齢の赤ん坊はね、歩けるようにもなるし、自分でいろいろやりたくなるのよね。でもまだまだ小さいから、やりたくてもできない。そこでイライラしちゃうのかしら? いろんなことに対して“イヤ!”になっちゃうの。オーランドもこのぐらいの時期にそうだったのよ」
「え、お母さま、ぼく、そんな……ごめんなさい!」
「いいのよ、オーランド。それが子どもの正しい成長の流れ、と乳母も言っていたわ」
両親と兄との会話から分かる通り、1歳児はイヤイヤ期の始まりと言われている。いわゆる第一次反抗期! ゆえに私が嫌われ者の悪役令嬢になるべく「これはイヤ!」「あれもイヤ!」と大騒ぎし、抱っこもご飯もイヤがっても、「仕方ないわね」で済まされてしまうのだ……!
くっ、悪役令嬢になりたいのに、まさかのしょっぱなから失敗だなんて……!
上手く行かない事態と第一次反抗期が重なり、私は床に大の字で泣きわめくが……。
「あらあら、お嬢様、どうされましたか。大丈夫ですよ~」
優しい乳母に宥められる始末。
む、無理だ。絶対、1歳児では悪役令嬢なんてなれない!
ここは大人しく成長を待つしかなかった。
その成長も周囲の大人は「まあ、また歯が生えましたね」「見てください、奥様。スプーンをこんなにぎゅっと握りしめていますよ」と、些末なことで大喜びしてくれる。しかし前世記憶があり、アラサーな私はそんなことでは成長が実感できない!
いまだオムツをつけた状態だし、外にも出られないのだ。せっかく転生したのにまだ推しと会うこともできていない。不便過ぎる。もっと早く成長して……!
◇
私としては成長の遅さが歯がゆくて仕方ないが、周囲は違う。
小さな変化にも大喜びしてくれている。そしてこの日、朝から屋敷の中はなんだかそわそわしている。
どうしたのかしら?
気になって乳母や母に尋ねても「さあ、何かしら?」とかわされてしまう。何かあるのかもしれない。だがキャロラインが第二王子と婚約するのは確か五歳だった。今は何か大きなイベントがあるわけではない。ということでそわそわした雰囲気を感じつつも、ここは我関せずで乳児らしく過ごすしかなかった。
つまりちゃんと朝食を摂り、その後は乳母と日光浴、それが終わるとピアノの先生の演奏を聞いたり、家庭教師から勉強を教わったりして過ごす。そしてそれも終わり、昼食前の自由時間になった。
「キャロライン、遊ぼう!」
三歳年上の兄は両親の言いつけを守り、私を可愛がってくれる。私とは別の家庭教師に勉強を習い、自由時間になると私のところへ来て、人形遊びにも付き合ってくれるのだ。しかも――
「見て、キャロライン。これ、ぼくが作ったんだ」
そう言って兄が見せてくれたのは、シャンパンやスパークリングワインのコルクを押さえる金属のワイヤー付きの蓋で作ったオシャレな椅子!
「まあ、お坊ちゃまは手先が器用ですね」
「おにいたま、しゅごい!」
乳母と私は大絶賛。
「良かった。キャロラインが喜ぶと思って、頑張って作ったんだ」
兄はハンサムな上に優しい!
推しに会えないが、この優しい兄がいれば……。
「キャロライン」
部屋にやって来たのは父。しかもその手には――
「わあ、お父さま、すごいです!」
「おとうたま、しゅごい~!」
「オーランドがミュズレを使い、キャロラインに何か手作りのものを贈ろうとしていると聞き、父さんも作ってみたぞ。これはコルクで作った建築模型だ」
コルクで作られた神殿のような建築物は、まるで前世に存在したアクロポリスのよう。
兄だけではなく、父も私を可愛がってくれる!
床に置かれた兄の作ったミュズレの椅子と父によるコルク栓のアクロポリス。どちらもアートとも言える見事な品であり……。
あ、でも、これを壊したら、私、悪役令嬢認定されるのでは?
そこで手を振り上げるが……。
……いや、無理。さすがにそれは……!
兄も父も忙しい。こんなものをのんびり作る時間はないはず。それでも私、キャロラインのために作ってくれたのだ。それを思うと、これを壊すなんて……できない。
というかそもそも乳児の私の力では完全破壊は難しいし……。
そんなことを思っていると、母まで顔を出す。
「今日はいつもより早いけれど、昼食にするわ。みんな、いいかしら?」
◇
昼食と言ってもまだ乳児の私と兄はそれぞれ自室で食べることになる。刻んだ野菜がたっぷりのスープに柔らかいパン。骨をとって細かくほぐした白身魚には、バターがかかっている。
パッと見ると、これだけじゃ足りないと思うのはアラサーの感覚。実際に食べると、これで程よく満たされるのだ。
ということで乳母に口を拭いてもらいながら、昼食を終えたものの、何かが足りないと気づく。
「モリー、デタッ!(デザート!)」
「ふふ。お嬢様、今日は特別なデザートがありますよ」
そこで扉がノックされ、両親と兄が入って来たが、ロイヤルパープルのドレス姿の母が大事そうに持つお皿には……。
「ハッピーバースデー・トゥー・ユー~」
お皿にはふかふかのスポンジケーキ、そこに刻んだフルーツのコンポートとカスタードクリームがかかっていた。さらに2本の蝋燭の炎がチロチロと揺れている。
「ハッピーバースデー・ディア・キャロライン! ハッピーバースデー・トゥー・ユー!」
そこでようやく気が付く。自分が2歳を迎えたのだと!
「おめでとう、キャロライン!」と濃紺のセットアップの父と、ワイン色の上衣を着た兄が声を揃える。「蝋燭は一緒にふーっで消しましょうね」と母がケーキのお皿を前に出す。
私は乳母に抱っこされ、少し距離を取りながら「ふーっ」と息を吹きかけた。乳児のひと吹きでは炎は消えない。でもそこに母の援護もあり、蝋燭は無事に消え、「おめでとう!」と母が笑い、父と兄が拍手してくれる。
「さあ、ケーキをどうぞ、キャロライン」
まだ乳児ということもあり、砂糖を使った甘いデザートはあまり食べさせてもらえず、フルーツが多かった。それもあり、目の前の乳児向けケーキが宝物に思えてしまう。もうスプーンを握りしめ、もぐもぐといただいてしまう。
控えめな甘さ。でもカスタードクリームなんてこの世界で初めて食べたわ……!
思わず感動していると、目の前に巨大な真っ白なうさぎのぬいぐるみが差し出される。
「父さんからの誕生日プレゼントだよ」
「!」
「私からはドールハウスよ」
「!!」
「ぼくからはキャロラインが大好きな飛び出す絵本だよ」
「!!!」
1歳になった時もきっとお祝いをしてくれたと思うが、私はまだまだ眠ることが生活の中心で、その時の誕生日のことはほとんど覚えていなかった。でも2歳となり、こんな風に家族に祝われ、私は実感する。
キャロラインは……本当に家族から愛されていた。そんなキャロラインが婚約解消され、身投げなんかしたら……家族は鬼にもなるだろう。
でもそれでこの優しい家族が全員、処刑されるなんて。ダメ。そんな未来は絶対に回避してみせる!
私は沢山のプレゼントと愛情に囲まれ、心から誓った。
お読みいただき、ありがとうございます!
次話は明日のお昼更新です~
ちなみに明日は2話更新頑張ります!
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