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衝撃的だった。
だって私、いつの間にかアラサーから赤ん坊になっていたのだから!
何が起きたのか。考えたいが、赤ん坊はとにかく眠い。起きている時間なんて、一日二十四時間のうち、ほんの数時間のみ。しかも起きているならミルクを飲むことに夢中になる。そしてミルクを飲むと満足してまたすぐに眠くなってしまう。
よってまともに考え事なんてできやしない。
それでも少しずつ考え、理解できた。
私は……どうやら元の世界で死亡し、この世界へ転生したのだと。
会社帰り、橋の上から、まるで読んでいた小説と同じように、川へドボンしたんだわ……!
浅い川なので、ドボンではなくグキッと首の骨が折れた可能性が高い。そしてこの西洋な世界に転生していた。両親は美男美女、兄は美少年という貴族らしき家族の長女として誕生したようだ。
そして私の名前はキャロライン。キャロライン・アメリア・フィッツロイという何とも舌を噛みそうな長い名前。父はエドワード・ジェームス・フィッツロイ、母はマーガレット・メアリー・フィッツロイで、兄の名はオーランド・ハロルド・フィッツロイだ。他に乳母のモリー、母の侍女のクロエ、執事長のセバスなどがいることも把握している。他にも料理人やパティシエもいるフィッツロイ家はどうやら公爵家ということも掴んだ。
断片的にそれらの情報を得ていた時は「そうなんだ」だったが、トータルで整理した結果、ようやく気付く。
知っている。フィッツロイ公爵家。そしてキャロラインという名前! 私がスマホで読んでいた小説の可哀想すぎる悪役令嬢、それこそがキャロラインではないですか……!
◇
私が読んでいたスマホの小説『目覚めたら異世界転移していた私 右も左も分からないのですが、どうやらイケメンから溺愛されているようなのですが!』は、典型的な異世界恋愛ものだと思っていた。だが、どうも違う。
主人公は女子高校生で、ある朝、学校に向かう途中で謎の光を目撃。そのまま異世界へと転移してしまう。右も左も分からず困っていたら、子どもがいない男爵夫妻に保護される。ここでよくあるご都合展開では、男爵夫妻の養女になる……だが、この小説は違う。血統を重視するこの国では、養子縁組は認められていない。そこで主人公は男爵夫妻の侍女として住み込みで屋敷で働くようになる。そしてある日、舞踏会へ行くという夫妻に同行。
「せっかくなので、ドレスを着て行くといい」――男爵夫妻は主人公を娘のように可愛がっており、侍女とは思えない高級なドレスを着せ、舞踏会へ向かった。すると主人公は舞踏会の会場で、この国の第二王子と偶然出会う。
美しく、どこかミステリアスな主人公に心惹かれた第二王子は、婚約者に「フィッツロイ公爵令嬢、わたしは真実の愛に出会ってしまいました。申し訳ないのですが、あなたとの婚約は解消させてください。わたしの真心はここにいるマーイ・アンジェ・フォーリー嬢へ捧げたいのです……!」と告げることになるのだ。
その結果、第二王子の婚約者、フィッツロイ公爵令嬢……キャロラインは婚約解消を受け入れたものの、自分がこれから社交界でどのように噂されるのか。また両親がどう思うのか。ショックで橋の上から身投げしてしまう――ここまでは私がスマホで読んでいた話だ。
それ以降は最後まで読んでいた友達にざっくり教えてもらったあらすじになるが、こんな展開が繰り広げられる。
キャロラインの遺体は一週間後、河口付近で発見された。するとフィッツロイ公爵夫妻と長男、キャロラインの幼なじみの侯爵令息が第二王子に反逆。第二王子&主人公はフィッツロイ公爵らと戦闘になる。
第二王子はそこで怪我を負うが、主人公の前世知識のチート設定により、事なきを得て二人の愛は深まるのだが……。フィッツロイ公爵夫妻と兄、侯爵令息は全員捕まり、処刑されてしまうのだ。
フィッツロイ公爵らの悲劇はサラッと数行程度で終わらされており、メインは困難を乗り越えたヒーロー&ヒロインの愛の深まりとその後の溺愛展開。そして小説の中では反逆をする公爵家一族の娘――悪役令嬢としてキャロラインは描かれているが、彼女自身はヒロインへ意地悪などこれっぽっちもしていない。ただ自分の身の上を嘆き、身投げした結果、残された家族が復讐の鬼になったに過ぎなかった。それでも諸悪の根源はキャロラインにある――ということになっていたのだ。
小説を読んでいた時は、ヒロイン目線だった。でも自分がキャロラインに転生していたとなると……。
キャロラインは何も悪くない! 悪役令嬢!? そんなことはない! ただの可哀想な公爵令嬢! 婚約者がいるのにヒロインに心惹かれた第二王子が悪い!
もう思うことはそれに尽きる。そしてとにかく寝て、ミルクを飲んで、寝てを繰り返す状況の中、来る悲劇の回避方法をじっくり考えるのは……無理なこと。
転生していると気づいても、赤ん坊のうちは何もできないわ!
そう悟り、もうここは赤ん坊に徹して過ごすことになる。すなわち、寝て、ミルクを飲んで、寝るをひたすら繰り返す。
こうして我慢すること一年。ようやく起きている時間が十時間程度になってきた。さらにそこから三カ月ほど経つと、自分でも歩けるようになってくる。
ようやく。ようやくだわ! どうやったら悲劇を回避できるか、考えられる……!
私が回避したい悲劇は二つ。一つ目はキャロライン自身が身投げする未来を回避すること。二つ目は家族と幼なじみの死を回避すること――だった。
特に幼なじみの侯爵令息であるウィリアムは私の最推し! 絶対に死なせないわ……!
そのためにできること。それは家族とウィリアムが復讐の鬼にならないようにすることだ。
婚約解消される未来は変えられないと思う。そうしないとこの世界においおい現れるヒロインがハッピーエンドになれないから。そして第二王子との婚約を回避するのは……回避できればいいが、望み薄とも感じている。
たいがい定められた役割とストーリーの大筋から逸脱する行動は、物語の正しい進行を後押しする抑止の力により、なかったことにされてしまうはず。
そうなるとどうしたってキャロラインは第二王子の婚約者となり、そこで婚約を解消される必要がある。そこでキャロラインが身投げすれば家族と推しは復讐の鬼になってしまう。
婚約解消されても身投げしなければいい……と思うが、そうできるかは謎。それだったら……。
そこで思いついてしまった回避策。それはこうだ。
私はみんなが嫌うような悪役令嬢になればいい。両親にも兄からも、推しである幼なじみの侯爵令息からも嫌われるような悪役令嬢に。そしてヒロインいじめもしっかり行い、婚約破棄される。
そうなれば世間も家族も推しも「ああ、あの悪役令嬢なら婚約破棄されても仕方ない」となるだろう。悪役令嬢のために復讐の鬼には……ならないはずだ。
その上で、私は「わたくしと婚約破棄ですって!? そんなこと、許しませんわよ~」と第二王子とヒロインへ反逆する。二人は私を倒すために手と手を取り合う。そして私は……むざむざとやられるつもりはない。国外へ逃げ延びてみせる。
どうせ第二王子は私が逃げ延びようが、怪我を負い、ヒロインのチートな設定で助けられるのだ。そこで二人の絆は深まり、ハッピーエンド&溺愛へ向かう道筋は……きっと変わらないはず!
よし。このプランで行こう……!
お読みいただき、ありがとうございます!
本日、もう一話、公開します~


















