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礼儀正しく私に声を掛けてくれたのは……推し!
しかも美しくお辞儀をしながら手を差し出している。
もうキュン死しそうになりながら「殿下は席をはずしており、よかったらお相手いただけると嬉しいです」と、何とか平静を装い、答えると……。
「かしこまりました。殿下不在の代役を務めさせていただきます」と、推しが応じてくれる。
あくまで席を外しているジョセフ殿下の代役。それ以上でもそれ以下でもないという絶妙アピールで、推しは私が重ねた手を引き、エスコートしてくれる。
周囲の令息から様々な思惑の視線を浴びるが、こういう時、動いた者が勝ち。かつ推しは騎士の礼服を着ており、高潔な精神の持ち主と察せられる。それに家紋を示すハンカチーフをつけており、侯爵令息、しかも次期当主と分かるので、「仕方ない」という雰囲気が漂う。
そこでダンススペースに向かい、王女たちの後ろの列に並ぶ。
ゆったりした三拍子で、ダンスが始まる。
ポロネーズは行進曲に近い。列を作り、進みながらのゆったりダンスなので、腕や手に軽く触れるが、ワルツのように距離が近まるわけではない。
適度な距離をとり、その代わりに交差する視線。まさに目と目で会話する感じだ。その目の会話はこんな風に――
「フィッツロイ公爵令嬢、公の場では初めてのダンスですね」
「そうですね。こうやってダンス出来ること、夢見ていました」
「それは僕も同じです。とても光栄で、嬉しく思っています」
声には出さないが、そんな気持ちがお互いから伝わってくる。
相手のことを想い合う、まさに相思相愛。でも深く触れ合うことはなく、優雅に、礼儀正しくダンスを行う。
ポロネーズはワルツなどに比べ、ダンス時間が長い。でも推しとの夢のような時間はあっという間に終わり、そして──
「フィッツロイ公爵令嬢、申し訳ありませんでした!」
ダンススペースからはけると、「待っていました!」とばかりにジョセフ殿下が近づいてくるので焦ってしまう。
ヒロインと劇的な出会いをして、私どころではないのでは!?
そう思ったが、ジョセフ殿下はイラついた様子でちらっと推しを見る。すると推しは礼儀正しくお辞儀をして、素早く身を引いた。
「殿下、大丈夫ですよ。この通り、問題なく、ダンス出来ましたから」
「どこかの田舎者の貴族の娘が迷子になっていて……。レストルームに行きたいと焦っていたので仕方なく案内しました。しかも靴擦れまでしていたようで、医務室にも連れて行くことになり……。近衛騎士に任せて戻ろうと思ったのですが、第二王子としての名誉のため、付き添いました。そのため、間に合わなかったのです」
ギリリッと歯を噛み締めてそう話すジョセフ殿下からは怒りのオーラが溢れている。
どこかの田舎者の貴族の娘……ヒロインとばったり出会ったと思ったら違っていたの!?
「そのご令嬢は、さっき見かけた異国の令嬢ではなかったのですね」
一応、念のため確認すると……。
「あぁ、フィッツロイ公爵令嬢が可愛らしいと言っていた異国の娘、そう言われるとそうでした。でも全く可愛くなかったです。正直、迷惑でした」
ジョセフ殿下の言葉に驚愕する。
何をどう掛け違えてこうなったのかしら!?
私の知る物語の進行と違うことに戸惑いながら、何とかヒロインをフォローすることになる。
「殿下、そのご令嬢はあまり慣れていなかっただけで、悪気はないかと」
「……そうでしょうが、僕としてはフィッツロイ公爵令嬢とダンス出来ず、忸怩たる気持ちでいっぱいです!」
「いや、そんな、そこまで!?」と言いたくなるのを、これまた呑み込むしかない。
ジョセフ殿下の恨み節は続きそうだったが、この後、彼も私も社交として次のダンス相手が待機しているのだ。
「後ほど必ずもう一度ダンスしましょう」
ジョセフ殿下から悔しそうに言われた私は「げっ」と心の中で思いながらも、表向きは笑顔で「はい、分かりました」と応じた。
◇
おかしなことになっている。
あの舞踏会で、ジョセフ殿下はヒロインと劇的に出会い恋に落ちる……はずが、出会いはしたが、それは最悪なもの。
えっ、これはどうなるの?
元の世界で読んでいた物語を思い出すと、舞踏会の次にヒロインとジョセフ殿下が出会うのは……。
そうだ! キャロラインの誕生日プレゼントを買うためにジョセフ殿下が外出した時だった。
ジョセフ殿下が向かうのは、元の世界にも存在していたスタッドファーム。牧場主はフォーリー男爵である。そう、ヒロインをこの世界で娘のように可愛がる男爵だ!
ヒロインは偶然、フォーリー男爵夫妻と牧場に来ており、そこでばったりジョセフ殿下と再会。舞踏会の時のことをお互いに思い出し、楽しく会話しながら、馬の話をするわけだ。
でも舞踏会の思い出で二人の会話が盛り上がる気がしない。むしろあれだけジョセフ殿下は苛立っていたから、不機嫌になりそうな……。
現状で再会しても、二人の距離が縮まる邂逅になるとは思えない! ここは私もその場にいて、二人が仲良くなるように画策すべきでは!?
そう思った私はちょうどジョセフ殿下とお茶会で顔を合わせた時、自ら誕生日プレゼントをリクエストすることにした。
「……ジョセフ殿下」
「どうしましたか、フィッツロイ公爵令嬢!」
私から話しかけるなんてほぼないので、応じるジョセフ殿下のテンションはとても高い。
「もうすぐ、私、誕生日なんです」
「知っています! もしや何か欲しいものでもありますか?」
「実は……その通りです! 子どもの頃に父に買ってもらった愛馬も元気なのですが、年齢も十四歳と元気に走り回る感じではありません。そこでもう一頭、馬を手に入れたいと考えていたのです」
「なるほど。では王宮牧場で飼育している馬から選びましょうか」
王宮牧場で育てられている馬は全て血統書付き。王族はもちろん、近衛騎士たちが乗る名馬であり、他国へのギフトにもなる馬でもあり、絶対的な格があった。
「王宮牧場の馬……! 大変ありがたいのですが、もしも公爵邸の厩舎で育てて何かあったら困ります。王宮牧場の名馬は王族の一員になってからで、今は普通のディーラーの馬で十分です」
ヒロインを保護したフォーリー男爵のスタッドファームに行って欲しいので、そう伝えると……。
なぜかジョセフ殿下は頰を赤くして嬉しそうにしている。
な、なぜ……?
「フィッツロイ公爵令嬢は僕と結婚して王家の一員になる……。確かに王宮牧場の馬は、僕と家族になってからで良いですよね! うん、そうだ。王宮牧場ではなく、牝馬の名馬が揃っているスタッドファームで手に入れましょう!」
「牝馬の名馬といえば、フォーリー男爵のところの牝馬が人気と聞いています」
「そうなのですか!? 僕は馬については調教師任せなので……。ではそこでフィッツロイ公爵令嬢にぴったりの牝馬を選んでおきます」
「お待ちください、殿下!」
私の言葉にジョセフ殿下は「?」となる。
「若い成馬となると、実際に騎乗する人間との相性を見る必要があります。せっかく殿下にプレゼントして頂いても、相性が合わず、騎乗することなく終わってしまうのは……。残念過ぎます。私も同行したいのですが、いかがでしょうか?」
王宮牧場は王家が所有するものだから、ジョセフ殿下は普段からそこの馬を使い、乗馬の練習もしていた。私も何度かジョセフ殿下と乗馬をしたが、その際、大変よく訓練されている王宮牧場の馬に乗せてもらったことがあった。つまり相性のいい馬は分かっている。ゆえに改めて試乗するまでもないが、スタッドファームで手に入れるとなると、そこが違うのだ!
「ああ……! なるほど。確かにフィッツロイ公爵令嬢の言う通りです。では僕と……一緒に牝馬を見に行きますか?」
「ぜひ!」
これまでにない前のめりな私の言葉にジョセフ殿下の顔がぱあぁぁぁっと輝く。
あまりにも眩しいその表情に少し良心が痛む。
今のところ、まだヒロインと恋に落ちていない。今の顔は純粋なジョセフ殿下の気持ち。それなのに私は……。
いや、バッドエンドを回避するために必要なことよ、これは!
私は改めてそう自分に言い聞かせた。
お読みいただき、ありがとうございます!
推しとダンスできた~(⁎˃ᴗ˂⁎)
続きは明日の夜頃公開予定です
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