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彗星が今晩現れる……。
遂にヒロインがこの世界に登場するのだわ。その知らせがまさかのジョセフ殿下からもたらされることになるなんて。
原作の小説にはそこまで書かれていなかった。でもヒロイン登場前、キャロラインとジョセフ殿下は宮殿の庭から彗星を見上げていたのだろうか。
もしそれが小説通りならキャロラインはどんな気持ちで彗星を眺めていたのかしら?
キャロラインはヒロインが登場するなんて知らなかった。そしてジョセフ殿下はこの時、確かにキャロラインを好きだったはず。
「まるで孔雀の尾のようですね」
「確かに。こんなものが現れるなんて、驚きました」
肩を寄せ合い、二人は彗星を見て、感動していたの……?
だが今回、キャロラインとジョセフ殿下が肩を寄せ合い、仲睦まじく語らうなんてことは……ない。
お互いに王子教育、妃教育が忙しく、会うのは週に一度のお茶会のみ。そこでも私は言葉少なめで、主に話すのはジョセフ殿下だった。彼が嬉しそうに話していることを上の空で聞き、曖昧に微笑む。その繰り返しで十年以上をやり過ごしてきた。
夜に宮殿まで行き、キャロラインにとっては凶報となる彗星を見なければならないなんて……。
というかいよいよヒロインが登場することでキャロラインの死のカウントダウンも始まるようなもの。どうしたって緊張が高まる。
いや、大丈夫。布石は打ってあるのだから、きっと上手く行く。
そう自分に言い聞かせるが、この日は一日、朝から心あらずになる。妃教育の授業でも……。
「お嬢様、どうされましたか!? こんな凡ミスをなさるなんて」
「ごめんなさい! 少し集中できていなかったようだわ」
そんな状態だったがなんとかやり過ごし、この日の授業を終える。外出を踏まえたロイヤルパープル色のドレスに着替え、あまり食欲はないが夕食をとると――
「ではお嬢様、宮殿へ向かいましょうか」
「……そうね」
もし何のしがらみもなく彗星を見るだけなら、喜んで出掛けただろう。でも今はいろいろと気が重い。
「彗星とは本当に尾がついているのでしょうか。楽しみですね、お嬢様!」
同行する侍女のマリエットはワクワクした様子をしているが、私はズンと沈んでいる。
「旦那様にお聞きしたら、王太子殿下の学友も集まっているのだとか。意外とにぎやかな感じで彗星を眺めることになりそうですね」
マリエットのこの言葉には「そうなの!?」と喜びそうになる。
近衛騎士や従者、マリエットがいようと、ジョセフ殿下は平気で私にボディタッチしてくるのだ。でもさすがに王太子殿下の学友もいる中、婚約者に対してであっても、イチャイチャは許されない。つまりギャラリーが多ければ多い程、ジョセフ殿下によそよそしくできると分かり、私には安堵しかない。
こうして何とか気分が少し盛り返したところで、宮殿に到着した。
◇
宮殿のエントランスホールに着くと、大勢の人がいて面食らうことになる。
王太子の学友も彗星を見に来ると言っていたけど、こんなに沢山!?
学友……と言ってもどうやら子どもたちだけではなく、両親たちも同行しているようだ。
「フィッツロイ公爵令嬢!」
声にハッとして振り返ると、そこに近衛騎士を連れたジョセフ殿下の姿が見えた。今日も純白のテールコートを着て、新郎みたいに見えるジョセフ殿下はニコニコと私に歩み寄る。
「舞踏会でもないのにこの時間に会えるのは……なんだか特別ですね!」
彼はとても嬉しそうにそう言うと、私の手を取り、甲へと挨拶。
もうお互い社交界デビューをしているから、こうやって手の甲へ挨拶するのも……問題なしだった。
「こんなに大勢が集まっているなんて……驚きました」
「あ、ごめんね! 僕としては落ち着いて彗星をフィッツロイ公爵令嬢と見るつもりでいたのだけど……。兄上が『自分も友を呼ぶぞ!』となって、そうしたらこの通り。兄上は人気者だから」
ジョセフ殿下の兄……王太子なのだ。学友の数は多いし、その両親も少しでも王太子とお近づきになっておこうと必死なのだろう。
でも大勢の人がいた方がジョセフ殿下のスキンシップも減るし、気も紛れるというもの。
「驚きましたが、気にはしていませんので」
「そう言っていただけて安心です。では行きましょうか」
「はい」
そこでジョセフ殿下にエスコートされ、歩き出したまさにその時。
ホールのシャンデリアの明かりを受け、煌めくアイスブルーの髪が見えた気がして、ハッとする。
「どうしましたか、フィッツロイ公爵令嬢?」
「……なんでもありません」
そう答えながらも心臓がトクトクと高鳴ってしまう。
あの髪を見間違えるはずがなかった。
推しも……今日の彗星を見るために宮殿にいるのでは……!
兄は王太子の学友として過ごした時期もあったが、遊学に出てしまい、今回の彗星鑑賞には呼ばれていない。
そして推しは次期侯爵家当主という立場もあり、王太子の学友に選ばれていたことは兄から聞いていた。
それでも学友として共に学ぶ時期はとっくに終わっている。王太子の親しい友人の一人として、彗星鑑賞に推しは招待されたのだろう。
推しは……どんな風に成長したのかしら?
前世で見た小説通りであれば、推しはまごうことなきイケメンに成長しているはずである。美しく長いアイスブルーの髪。切れ長の銀色の瞳。しかもこの世界では小説では書かれていない騎士見習いをしていたのだ。きっと兄同様で体もしっかり出来て、一目見てで騎士と分かる凛々しさを合わせて持っているかもしれない。
見たいなぁ。美しく成長した推しの姿を。
不思議とこれまで晩餐会や舞踏会に参加しても推しと遭遇することはなかった。
と言っても私はこの春に社交界デビューしたばかり。ジョセフ殿下の婚約者として、それなりに社交はしているが、全ての晩餐会や舞踏会に顔を出したわけではない。それに王家側にいると次々と貴族に囲まれ、推しの姿を探す暇なんてなかった。
「!」
庭園を見下ろす回廊に出ると、まるでこれから舞台でも観劇するかのように、噴水前広場に椅子がいくつも並べられ、街灯に灯りもともされている。
「特等席を用意しています。ガゼボの中の席です」
ドーム型の屋根と4本の柱で囲まれたガゼボを見ると、柱と柱の間にベールが貼られている。
なっ、あれでは半個室みたいなものじゃない! しかも屋根がついていたら、彗星が見にくい!
ジョセフ殿下の目的が彗星より、私へのスキンシップであることがじわじわ伝わってくる。
「殿下」
「何ですか、フィッツロイ公爵令嬢?」
白々しく応じるジョセフ殿下に心の中でため息をつきながら答える。
「屋根があっては夜空が見えませんよね?」
「彗星が見えてきたらガゼボから出れば良いですよね」
「それでは見逃してしまうかもしれません。あちらの椅子、沢山用意されているので……」
そこで突然ジョセフ殿下が腰を抱き寄せるので「!」と驚くことになる。
「あちらは兄上の学友のための席です。どうかガゼボで我慢してください。飲み物や軽食、スイーツも用意してありますから」
ここは頷かないと解放してもらえない!
そう悟った私は分かりましたと応じる。
食べて飲むことに夢中のフリをして、ジョセフ殿下のボディタッチをかわすしかないわ!
お読みいただき、ありがとうございます!
ジョセフ殿下があざとい!
続きは明日の夜頃公開予定です
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