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開始の合図と共に、ジョセフ殿下が笛を鳴らす。
「よし。僕は迷路庭園へ向かうぞ!」と兄が宣言。
「では僕は温室へ行こうかな」とジョセフ殿下。
「僕は……噴水前広場から探します」と推しが控えめに告げる。
男性陣は単独で、それぞれが目的とする場所へ歩き出す。
「ポーレット侯爵令嬢はどこを探すの?」
「私は……まあ、のんびり今いる場所から探そうと思います」
私は特別な一個を見つけたい……というがっつきたい気持ちがあるものの、貴族令嬢としてあまりがっつくのもどうかと思うと自制する気持ちもある。そこを天秤にかけた結果、エリザベスとのんびり、イースターエッグを見つけることになった。
「あら、見てください、フィッツロイ公爵令嬢。とても小さなイースターエッグがありますわ」
噴水前広場にはギリシャ神話に登場しそうな女神や男性神の像がいくつかある。その台座のくぼみにコロンと小さなイースターエッグが置かれていたのだ。
「これは……うずらの卵ね」
私は小粒ながらレース模様があしらわれたうずらの卵のイースターエッグを手に取る。
「あら、見て。お兄さまがすごい場所にあるイースターエッグを見つけたようですけど……あれは取れないわよね?」
「そうね。まるでクリスマスツリーのトップスターみたいだけど……。あの木は三メートルぐらいあるから……梯子がないと取れないわよね」
すると思案した推しは近くにいた庭師に声をかける。推しと会話した庭師はすぐにどこかへ向かう。その様子を眺めながら、私とエリザベスは、王太子殿下たちが「こんな小さなイースターエッグはいらない」とばかりに大量に残されているうずらの可愛らしいイースターエッグを拾いまくっていると……。
庭師が梯子を持って登場。推しは見事、木のてっぺんにあったイースターエッグを手に入れていた。
「お兄さまったら、執念ね。でもあれ、宝石がついているわけでもない、ただのイースターエッグよね?」
「そうね。ただ、ポーレット侯爵令息の瞳みたいな綺麗な銀色に着色されていたから……。気になったのかもしれないわ」
「ふふ。お兄さまったら。そういうところは可愛らしいわ」
推し、エリザベス、そして私は牧歌的にイースターエッグハントを続けた。
◇
特に終わりの時間がきまっていたわけではないが、ジョセフ殿下が指定していたそれぞれのエリアでの探索を終えると、自然と全員が同じような時間に噴水前広場へと戻って来ていた。
イースターを迎える三月末ともなると、冬に比べ日没の時間がぐっと後ろ倒しになっていた。太陽は傾いているが、まだまだ明るい。ただ、庭園の植木が作る長い影は地面に広がっている。
黄金色を帯びた白光を浴びながら、推しも兄もジョセフ殿下も、エリザベスと私も、噴水の前へと、自然に集まっていた。
「とても大きなイースターエッグを見つけた!」と兄が抱えているのは、ダチョウの卵で出来たイースターエッグだ。
「僕はフィッツロイ公爵令嬢のようなイースターエッグを見つけたよ」とジョセフ殿下がみんなに見せたイースターエッグは……真っ白な卵に、繊細なピンクのレースが描かれていた。本物の宝石ではないが、模造宝石があしらわれた美しいものだった。
「僕はこれを見つけられたのが……一番良かったかな」
そこで推しが見せてくれたのは、梯子に上り、手に入れた銀色のイースターエッグ! 遠目では銀色の卵にしか見えなかったが、よく見ると繊細な模様が描かれており、アイスブルーの細いリボンでラッピングされている。これにはエリザベスと二人で「素敵だわ!」と感嘆の声を上げてしまう。
「キャロラインはどんなイースターエッグを見つけたんだい?」
兄に問われ、私はエリザベスと共に沢山見つけることになったうずらの卵のイースターエッグを見せる。
「こんな小さなイースターエッグもあったのか」
ジョセフ殿下が驚きながら、みんなを見渡す。
「誰か特別なイースターエッグを見つけることはできた?」
問われたが、推しも兄も、エリザベスも私も首を振るしかない。
つまり誰も見つけることはできていなかった。
「迷路庭園はくまなく探したがなかった」と兄が言い切る。
「温室は僕がしっかり見たけど、なかったね」とジョセフ殿下。
「噴水前広場は……僕だけでなく、エリザベスやフィッツロイ公爵令嬢も探しましたが、見つかりませんでした」と推しが報告。
「あ!」
そこで推しがハッとした表情になり、噴水に目を向ける。
「噴水は……探していません。もしかして噴水の中に……?」
推しの言葉にジョセフ殿下が噴水の縁に両手をつき、中を覗き込む。兄と推し、エリザベスと私も噴水に近づき、揺れる水面に目をやる。
しばし全員で噴水をじっと眺めて……。
「あれ? あれ、イースターエッグじゃないかな!?」
ジョセフ殿下が指さす噴水の中央の方を見ると、陽射しを受けキラキラときらめく楕円形のものが揺らめいている。石灰岩でできた噴水は水が透き通るように美しい。その水色に一見すると馴染みそうな楕円形の物体が揺らめいているが、間違いなく、イースターエッグだった。
「あそこまで取りに行くのか。服が濡れそうだな」
ジョセフ殿下がぼやいている間に、なんと推しは靴と靴下を脱ぎ、ズボンも太腿あたりまでまくりあげている。
「取りに行きます!」
推しはそう言うと、上着も脱ぎ、腕まくりしてそのまま噴水にドボンと足を入れる。
3月の終わり、日は長くなっているが、まだ夏は先のこと。噴水の水は冷たいだろうに、推しはジャボジャボと音を立てながら、噴水へと入っていく。その様子を見ているジョセフ殿下は従者にタオルを持ってくるように命じている。
「お兄さま、昔はこういう場面では傍観者の立場だったのに。こんな風に積極的に動くなんて……お兄さまはホント、変わったわ」
エリザベスのしみじみした言葉に思う。
そう、推しは元の世界で私が知る推しとも違う。確かに……変わったと思う。自ら騎士になろうと努力し、今も見つけたイースターエッグを手に入れようと奮闘している。
初めて会った時の泣き虫の面影は……もうどこにもないわね。
「ありました!」
推しが噴水から拾い上げたイースターエッグを高々と掲げた。
キラリと光沢を放つ姿は間違いなく金属製であり、全体は陶器のような水色をしている。白い小花が飾られ、中心部を飾るのは宝石だ。
「見事だ、ポーレット侯爵令息!」
ジョセフ殿下が声をかけ、推しは再びジャボジャボと音を立てながら、私たちの方へと戻ってくる。
縁まで来ると、ジョセフ殿下の従者がイースターエッグを受け取り、兄が推しに手を差し出す。推しは兄の手を握り返し、ザボッと水しぶきをあげながら、噴水から出る。ジョセフ殿下がすかさずタオルを推しに渡す。
「特別なイースターエッグがついに見つかった。発見したのは僕だから、これは僕のものでいいかな?」
これには兄、エリザベス、私が「えっ」と声にならない声を出すことになる。
確かに噴水の中のどこにあるかを特定したのは……ジョセフ殿下だった。だが噴水を探していないことに気づいたのは推しだったし、噴水に入り、びしょ濡れになりながらも取って来たのは推しなのだ。それなのに手柄を独り占めは……。
せめて推しと二人で見つけた、にすればいいのに……!
だがジョセフ殿下は自身の従者から綺麗に拭かれたイースターエッグを受け取ると、満面の笑顔になっている。
「良かった。これを見つけたのが僕で。だってこのイースターエッグは本当に特別だから」
お読みいただき、ありがとうございます!
健気な推しに対し、あざとい殿下……。
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