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推しが私に伝えてくれた「大好き」の意味。それは幼なじみの友情に基づくものだと思っていた。だが何の記念日でもないのに、春の到来、もうすぐイースターということで推しが贈ってくれた工房の職人の精巧なガラス細工のペンダントの花が意味していた言葉は……まさかの初恋だった。
私が推しに対して抱いていた想い、それは推しを愛でたい「好き」と、恋愛対象としての「好き」の両方だった。だが推しの「好き」は友情の意味での「好き」に違いないと私は考えていたわけで……。
本当に推しは私を、キャロラインを好きなの……?
半信半疑だった。
でも何度も渡された新しいメモ帳のメッセージを見て「この花に僕の想いを込めています」という言葉を信じることになる。
そうか。推しは……キャロラインが好きだったのね。ジョセフ殿下の婚約者となったキャロラインを愛し続けていた。彼女が殿下から婚約解消され、身を投げたと知った時、推しは……。胸が張り裂ける想いだっただろう。立場をわきまえ、身を引いたのに。まさかの婚約解消、しかも殿下は別の令嬢にぞっこん。そしてキャロラインは自ら命を絶ったのだ。
推しがキャロラインの家族と共にジョセフ殿下とヒロインに反逆した理由。それが、この小説の世界に転生したことでよく分かってしまった。
「お嬢様、明日のイースターの衣装ですが、奥様よりこちらをお召しになるようにと言われています」
モリーが用意されている衣装を見せてくれるが、それは真っ白な生地でフリルがいっぱい。まるで……子ども用のウェディングドレスみたいだった。
「髪飾りはこちらの水色のリボンを」
「水色ではなく、ピンクがいいわ! ピンクのリボンをつける」
水色のリボンまでつけたら、まさに元の世界の花嫁衣裳の“something blue”みたいだ。花嫁は純白のドレスに一点だけ、碧い色のものを身に着けるというジンクス。だから私はピンク色のリボンをつけると主張し、モリーはリボンの色ぐらいなら母に許可をとるまでもないだろうと判断し、「分かりました」と応じてくれる。
ウェディングドレスみたいな衣装を見ることで、兄に言われた言葉も思い出してしまう。
「キャロラインが六歳になるのに合わせ、王家は国内外にジョセフ殿下の婚約者がキャロラインになると発表する――そう父上から聞いている」
推しと両想いであると分かったのに。正しい物語の進行通り、私とジョセフ殿下の婚約は成立し、国内外に発表されてしまう。
どうしたって推しとキャロラインは結ばれない運命なのね……。
そこで悲劇的な気持ちになりかけたが、私はあることに気づく。
違う。そうじゃない。ここは布石を打つチャンスだわ……!
◇
「あら、キャロライン、そのペンダントはどうしたの?」
「ポーレット侯爵令息が、本を貸した御礼にプレゼントしてくれました。ポーレット侯爵家が支援する工房の職人が手作りしたものだそうです」
「まあ、そうなのね。……これはプリムローズよね? 本物みたいに美しいわ。よかったわね、キャロライン」
「はい、お母さま。気に入っています!」
推しが勇気を出し、伝えてくれた私への気持ち。それを無碍にすることはできない。その気持ちを嬉しいと思っている。思っているが、答えることは……許されない。だからせめて贈られたペンダントを身に着けることで、推しのことを私も好き……であると伝えたいと考えたのだ。そしてそのペンダントをつけ、日曜のミサの後、イースターを祝う昼食を家族と終え、宮殿へ向かった。
「フィッツロイ公爵令嬢、よく来てくれました!」
いつもは応接室で待っているジョセフ殿下がエントランスホールで迎えてくれる。しかもイースターに合わせ、白のシルクハットに白のテールコート、宝飾品はゴールドと、まさに王子様の装い。
なんだか不思議の国のアリスに登場する白ウサギみたいだわ。
そんな全身白コーデのジョセフ殿下の後ろで、両親と共にこちらを見ているのは推しとエリザベス!
今日の推しは白シャツにアイスブルーのセットアップ、タイを飾るのは……白の花びらに真ん中が淡いピンクのガラス細工のプリムローズ! さりげなく私とお揃いの宝飾品を身に着けてくれている。左で束ねたアイスブルーの髪には白のリボンが結ばれており、とても優美!
私と目が合うと、その銀色の瞳をキラキラさせている。
気づいてくれているわ。私がプレゼントされたペンダントをつけていることを。想いは同じであると分かってくれている。
想いがたとえ同じでも、愛する二人が結ばれるとは限らない。それがこの世界。当事者同士の気持ちより、家同士の利益が優先され、それが当然である世界なのだ。
推しはまだ私とジョセフ殿下が婚約するとは知らない。だから今、自分が伝えた想いに私が応えてくれたと喜びで満たされているだろう。
いずれ、推しは真実を知る。今はうたかたの夢を見ているようなもの。
歓喜から絶望へ突き落とすことになるなら、最初からこのペンダントをつけるべきではなかった……?
いや、そんないきなり絶望へ突き落とすなんて。それに好きな気持ちは真実なのだ。なかったことには……したくない。
「さあ、フィッツロイ公爵令嬢。庭園までエスコートしましょう。フィッツロイ公爵令息は、ポーレット侯爵令嬢をお願いします」
ジョセフ殿下の言葉に皆が移動を開始した。両親たちは見送りを終え、国王陛下に挨拶をして帰宅となる。
移動を開始すると、推しは一人、私たちの後に続くが、その顔に寂しげな様子はない。瞳はキラキラし続け、頬はほんのりと染まり、いまだ喜びの最中にいる。
「フィッツロイ公爵令嬢、今日はその白のドレスで良かったです。僕と並んで歩くと、まさに新郎新婦みたいですよね」
「そんなことはありません。白ウサギと白いドレスのアリスみたいにしか見えません」と言いたくなるが、そこは呑み込む。ただ曖昧に微笑んで誤魔化す。
「今回、特別なイースターエッグを用意しました。北の帝国ではインペリアル・イースター・エッグという、皇帝のために作られた特別なイースターの卵があるのをご存知ですか? 金属製の卵で、中は空洞なのですが、小さな王冠やミニチュアの精巧な馬車が隠されていて、外側は宝石やエナメルで装飾されているのです。今回、特別にゆで卵ではない、宝飾品の卵も用意して隠してあります。誰が見つけるのか、楽しみですね」
とんでもないお宝のイースターエッグが用意されていると分かり、私の下がり気味の気分は盛り返すことになる。
ジョセフ殿下が用意させたもの……という点は気になるけれど、イースターエッグであることに違いはない。そして特別なイースターエッグを手に入れた人は幸せな一年を送ることができると言われているのだ。
これは特別なイースターエッグを見つけ、できれば推しに贈りたいわ……!
◇
「それではイースターエッグハントを始めましょう。兄上が午後、学友と共にイースターエッグハントをやっていました。その時に見つけられなかったイースターエッグもそのまま残っています。つまり隠されている卵は沢山あるので、ぜひいっぱい見つけてください。でも特別な卵はたった一つ。金属製の卵で、宝石が散りばめられているものです。これを見つけた人はとても幸運となります」
ジョセフ殿下の言葉に推しも兄もエリザベスも「宝石のついた卵!?」とビックリしている。
「今回、卵が隠されているのは、今いる噴水前広場、そして迷路庭園、温室の三か所です。どこからでも自由に散策していいです。それでは開始!」
お読みいただき、ありがとうございます!
密かに想い合う二人。
でもそれは許されることはなく……
続きは明日夜頃公開予定です~
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