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「全力で推す……というのは僕を好きということで合っていますか?」
「はい! 大好きです!」
推しに推していると伝え、堂々と大好きと言える清々しさと言ったら……。
推しはキャロラインの幼なじみとして、フィッツロイ公爵家と共にジョセフ殿下とヒロインに立ち向かう。それは間違いなく、キャロラインと推しの間には、幼なじみの絆があったからだろう。
その設定を信じ、私は笑顔で推しに「大好きです!」と伝えることができた。
これは半端ないカタルシスね!
私は満足だった。
「フィッツロイ公爵令嬢がそう言ってくださるなら……僕も伝えておきますね」
「えっ」
「僕もフィッツロイ公爵令嬢のことが大好きです!」
あぁ、やっぱり。
推しとキャロラインは厚い友情で結ばれていた。だからこそ、キャロラインがジョセフ殿下のせいで身投げしたと知り、許せなかったのね……。
「ありがとうございます、ポーレット侯爵令息」
その友情と絆のせいで、命を散らす必要はないと言いたくなる。でもいきなりそんなことを言われても「?」だろう。
そこで前回と同じ、応接室に到着。執事長のハドソンが柔和な笑顔で迎えてくれた。
◇
「……ということで、マルコが見聞した国では、黒い石を燃やして火を起こしていたそうです」
兄が『アメージング・ワールド』のエピソードを読み終えると、エリザベスが瞳をキラキラさせ、熱心に拍手している。
「とても興味深いお話でした! 探検もののお話は読んだことがないので、ぜひ読んでみたいと思いましたわ!」
「それならばこの本をお貸ししますよ。授業での使用は既に終わっているので」
「ありがとうございます!」
兄とエリザベス、本当に何だかいい感じだ。
私はニコニコ笑顔で二人を見てしまう。
「では次はキャロラインだ」
兄の言葉に「はい!」と立ち上がった私は、本を入れたトランクを恭しく開ける。これには「まあ、何の本かしら?」とエリザベスがソファから立ち上がり、推しも興味深そうに腰を浮かしてこちらを覗き込む。
私は白手袋をつけ、本をトランクから取り出す。
「こちらは『パルツィファルの物語』です」
「えっ!」
推しが仰天してソファから立ち上がる。
「『パーシヴァルの物語』ではなく、『パルツィファルの物語』なのですか!?」
「はい。我が公爵邸の書庫で見つけました。表紙にもしっかり『パルツィファルの物語』と書かれています」
「本当ですね……。すごいです。王立図書館に収蔵されていると聞いていますが、十年に一度しか特別展示室に登場しないから、僕はまだ実物を見たことがありません。……すごいです、フィッツロイ公爵令嬢!」
「ありがとうございます。でもすごいのは私ではなく、この本を書庫に収蔵していたご先祖かと」
「そんなことはないよ、キャロライン。書庫にこの本があること、僕は把握していなかった。ちゃんと見つけ出したキャロラインはすごいぞ」
「同意です。フィッツロイ公爵令嬢の審美眼はさすがです……!」
兄と推しに褒められ、私は頬が緩みそうになるが、それはなんとか堪える。
「では私のお気に入りの話を朗読させていただきますね」
「ぜひお願いします!」
推しが銀色の瞳をキラキラさせて前のめりなのが嬉しくてならない!
「パルツィファルは荒野を彷徨い、やがて森の中へと迷い込む。荒野を経たパルツィファルは気づいていない。その森が荒涼としていることを。木々に力強さはなく、枝は痩せ細り、草はくたびれている。『今晩はどこに泊まろうか』──パルツィファルは牧歌的にそんなことを考え、歩みを進め、水辺でくたびれた様子の釣り人に出会う」
『パルツィファルの物語』で最も重要で象徴的なエピソードを読み始めると、推しはその情景を浮かべるためなのか、目を閉じ、私の声に聞き入っている。
「男はくたびれているが、身につけている衣装は豪華なもの。パルツィファルには、この男がただの釣り人には見えない。でも彼は師となる人から何かと尋ねるのは不躾なことと学んでいる。よってこの釣り人が何者であるか気になるが、尋ねることはない。代わりに『今晩泊まれる場所を探しています』と口にする」
兄は知っている話なので、「うん、うん」と頷いていた。エリザベスは知らない話なので、興味津々という感じで私を見ている。
「釣り人は『ならばこの近くに城があるのでそこに行くが良い』と告げる。すると痩せ細った木々の側から従者らしき少年が現れ、パルツィファルを手招く。こうしてパルツィファルは城へと向かうことになった」
ここからは少しホラーテイストになる。
「城に着いたパルツィファルは不思議な光景を目の当たりにする。城は壮大、だが活気がない。人の姿を見るも、異様な静けさ。身に付けていた武具を外すことになるが、手伝う従者は終始無言。そして案内された大広間には──なんと先ほどの釣り人がいる。しかもやはりどこか疲れ切って苦しそうな表情をしていた。暖炉は赤々と燃えているのに、男の顔色は青白いままだった」
エリザベスは続きが気になるのかかなり前のめりな姿勢になっている。推しも目を開け、その銀色の美しい瞳で私を見ている。
「釣り人ではない、何やら高貴な身分の男と共に静かな晩餐が始まる。するとそこへ従者が血を流す槍を手に広間を横切った。さらに美しい女性が列を作り現れ、光輝く杯を運んでいる。パルツィファルは『一体何なんだ!?』と思うも、不躾に尋ねることは出来ないと、一切疑問を口にしない。やがて女性たちは広間から姿を消し、残されたあの男は苦痛な表情を浮かべている。パルツィファルは何が起きているか尋ねたい。でもそれを我慢して、夜は更ける」
エリザベスは「えっ、えっ、どういうこと!?」と尋ねたい表情。兄は「そう、その通り」という感じで頷き、推しは静かな情熱と共に私を見つめる。
「翌朝、目覚めたパルツィファルは城の中が無人であることに気がつく──ここまでです」
私がそう言った瞬間、エリザベスが「えーっ!」とソファから立ち上がり、そこからはもう質問の嵐。
「釣り人は結局、何者だったのですか!?」
「その男は病気なの!?」
「何で血を流す槍が突然登場したのですか!?」
「女性たちは何!? 何を運んでいたのですか!?」
それらの疑問を持つのは当然なのだけど、その答えは何も書かれていない。いや、正確には後に全てが明らかになるのだけど──。
「エリザベス、その謎の答えはもっと後に明らかになるんだよ」
推しの言葉にエリザベスは「えーっ」となり、私を見る。
「その明らかになる部分も朗読して欲しいわ!」
「エリザベス、それなら僕が持っている『パーシヴァルの物語』を貸してあげるよ」
「本当に、お兄さま!? 読みたいわ、私!」
エリザベスが喜び、推しは私を見る。
「『パーシヴァルの物語』に比べ、原典である『パルツィファルの物語』は、より問いかけが深いですね。一番の核となる話を朗読いただけてよかったです!」
「もしよろしければ、お読みになりますか?」
「えっ!」
「お父さまからは許可を既に頂いています。もしポーレット侯爵令息がお読みになりたいなら、お貸ししても良いと」
「フィッツロイ公爵令嬢……! ぜひお借りしてもいいですか!?」
「ええ、もちろんです!」
私の言葉に推しの顔は喜びで輝いた。
◇
この日の朗読会を終えた私は夜、ベッドで横になり、推しのことを振り返っていた。
今日は推しから大いなるパワーをもらってしまった。私のことを「大好きです」と、推しが言ってくれた。
それは友情という絆からの大好きであることはよく分かっている。キャロラインは推しと固い絆で結ばれているのだ。
だからこそ推しは私が身投げしたと知り、変貌してしまう。でもこれは……絶対に回避だ。
まだ内示の段階のジョセフ殿下との婚約。何とか白紙撤回に出来ないか。
考えに考えているうちに、私は眠りに落ちていた。
お読みいただき、ありがとうございます!
推しに大好きと言える清々しさは良き~
続きは明日の夜公開です~
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