12
多忙な推しから貴重な初版本を見ないかと誘われたわ!
ジョセフ殿下との婚約話が進み、テンション落ち気味だった私にはこの上ない朗報だった。しかも推しはちゃんと招待状を届けてくれたので、両親も私にこう伝えることになる。
「ポーレット侯爵令息とポーレット侯爵令嬢の連名でお茶会への招待状が届いた。オーランドとキャロライン宛にね。なんでもそのお茶会の席で『ジャルマン騎士団の物語』の初版本を見せてくれるそうで、少し長めの時間での招待になるとのこと。この物語の初版本を見られるなんて……そうないことだろう。『ジャルマン騎士団の物語』は父さんも知っているぐらい有名な本だ。ぜひ二人で行ってくるといい」
そう父に言ってもらえたのだ!
もう私は嬉しくてならない。接点がありそうで少ない推しと話せる貴重な機会。大切にしようと思い、その日を心待ちにする。
おかげで「キャロライン。来週から妃教育を踏まえたカリキュラムになる。これまで家庭教師ではなく、王家が指定した先生がやってくるから、頑張って勉強するんだよ」と言われた時も「えーっ」とはならず、「はい! お父さま!」とご機嫌で答えることが出来たぐらいだ。
こうして迎えた水曜日。私は朝からワクワク・ソワソワ。お気に入りのパフスリーブの淡い水色のフリルのドレスを着せてもらい、髪は可愛らしくツインテールにしてもらった。ドレスの共布で作ったリボンを髪に留めてもらい、腕にも同じ布のリボンをブレスレットのようにつけてもらったのだ!
「キャロラインは、今日はいつもよりオシャレだな」
「そんなことございません、お兄さま!」
そう言っているが、めいっぱいのオシャレをしている。
「それでは次の授業までに……」
「はい、先生! 次の授業までに今日習ったことは復習し、予習もちゃんとしておきます!」
「まあ、今日のお嬢様はやる気満々ですね」
「先生、今日は少し早いですが、終了でもよろしいですか?」
「そうですね。小テストも満点でしたし、今日はこれで終了にしましょう」
「本日もありがとうございました!」
いつもより少し早めに授業が終わると、私は鏡の前で最終点検。それが終わるとモリーを呼び出し、エントランスホールへ向かう。
「お嬢様、張り切っていますね!」
「そんなことないわ! ただ、初版本が気になる(推しに会える!)だけよ! それより、お兄さまはまだ?」
そこでようやく兄がウールの厚手のジャケットを羽織りながら、こちらへと足早にやって来る。
「キャロラインがもうエントランスホールにいると聞いて、慌ててやって来たよ!」
それでも「遅い!」と思うが、ここはニコニコと「では行きましょう、お兄さま」とだけ答える。
「馬車を呼ばないと」
「もう呼んであります!」
推しの屋敷はすぐ隣だが、お互い敷地面積が広い。徒歩ではなく、馬車で行き来するのは……不便だが仕方ない。
「キャロラインが用意周到だ」
「まさに呼んだところにタイミングよくお兄さまが来てくれたんですよ! それよりも早く行きましょう、お兄さま! 初版本が楽しみだわ!(推しに会える!)」
「わかった、わかった。行こう」
こうして兄と二人、馬車へ乗り込んだ。
◇
「フィッツロイ公爵令息、フィッツロイ公爵令嬢、ようこそ!」
今日の推しはアイスブルーの髪と同じ色のセットアップをさらりと着こなし、アクセントでアクアブルーのタイをつけている。それがもう実に爽やかで素敵! まさに冬の貴公子と称したくなる装いだった。
「フィッツロイ公爵令嬢のことは、僕がエスコートしてもいいでしょうか?」
「うん、構わないよ。僕はポーレット侯爵令嬢のことをエスコートさせてもらう」
推しにエスコートしてもらい、応接室へ向かいながら夢想せずにはいられない。
兄とエリザベスが婚約して、私は推しと婚約できたら……。お隣さん同士で、まさかの兄妹で婚約するなんて!と社交界では話題になるだろうなぁ。
「フィッツロイ公爵令嬢」
「はいっ!」
「今日はお時間を作っていただき、ありがとうございます」
「そんな! こちらこそお招きいただき、光栄です!」
「その……今日のドレス、とても可愛らしく、フィッツロイ公爵令嬢にとても合っていると思います」
「本当ですか……! ありがとうございます! でも私よりポーレット侯爵令息のその衣装の方が断然素敵です! やっぱりそのアイスブルーの髪色、私は大好きなので……。アクセントのアクアブルーのタイもセンスがよくて感動しました!」
推しなんていくらでも褒められるので、スラスラと口にしてしまったが……。推しが手で自身の顔を押さえている。
「え、どうしました!?」
「……フィッツロイ公爵令嬢、褒め過ぎです……!」
「そんなことはないです。事実を口にしただけですから!」
「……! そ、そんなことを言われたら勘違いしそうです」
「何をですか?」
「僕を好きなのかと」
「好きですよ!」
そこで応接室に到着し、扉の前には執事長が待機している。
「ようこそいらっしゃいました、フィッツロイ公爵家のご令嬢、ご令息。執事長のハドソンです」
初老の執事長はスマートに挨拶をすると、扉をゆっくり開けた。
◇
「わあ、これはすごいぞ!」
明るい陽射しがたっぷり射し込む応接室のテーブルには白いレースのクロスが敷かれ、そこにはゴールドの細工があしらわれた陶器のお皿が並び、ピンクやイエローでアイシングされたプチフール、水色の背景に白馬が描かれたクッキー、サクサクな見た目のメレンゲ菓子、季節のフルーツを使ったタルトがズラリと並べられている。
「どうぞ、フィッツロイ公爵令嬢」
「ありがとうございます」
席へと案内された私は瞳を輝かせ、テーブルに並ぶスイーツを眺めてしまう。
もしスマホがあったら動画と写真を撮りまくりなのに!
ジョセフ殿下とのチェスで毎週宮殿へ行き、そこでもスイーツを出してくれる。でもそのスイーツは高級だと分かるチョコレートやマカロンで、大人が食べるようなもの。でも推しが用意してくれたスイーツはカラフルで子どもが喜ぶようなものばかり。
「すごいなぁ。ポーレット侯爵家のパティシエは優秀だなぁ」
「お父さまが出資している工房で貴族の子どもたち向けのスイーツの販売を始めるそうで、我が家のパティシエが協力しているんです! 今回は試作も兼ねたのですが、お二人が大喜びしていたこと、お父さまに伝えておきますわ!」
エリザベスの言葉には「なるほど!」だった。これはお店を出したら絶対に当たると思った。
「ではまずはお茶とお菓子を。ひと段落したら、そちらのソファで初版本をお見せします」
推しが笑顔でメイドに合図した。
◇
この日のために用意されたのは、乾いた喉を潤す果実水とチェリーティー! 甘酸っぱいチェリーティーは子どもが喜ぶ味わい。果実水がジューシーで甘い分、チェリーティーの程よい甘さが心地良い。
何と言っても砂糖をふんだんに使った甘いスイーツにこのチェリーティーは最高!
推しが出してくれたスイーツと飲み物……という点を差し引いても、この日、用意されたものは完璧だったと思う。
たっぷり食べて飲んだところで、推しが「ではそろそろ初版本を見ますか?」と尋ねるので、私は勢いよく「ぜひ!」と立ち上がり、みんなに笑われてしまう。
「では手を綺麗にして、白手袋着用でお願いします」
推しに言われ、スイーツで汚れた手はフィンガーボウルで綺麗にして、それから白手袋をつけた。初版本が置かれたソファはそう離れていないのに、推しはちゃんと私をエスコートしてくれる。
今日の推しはとても優しい……! というか普段も優しいのだろうけど、接点があるようでなかった。毎週、日曜日に顔を合わせても、対局はジョセフ殿下か兄かエリザベスばかり。
……そういえば私、まだ推しと一度も対局していなかったわ。
ふとそんな事実に気づいた時、推しの声が聞こえる。
「こちらです!」
お読みいただき、ありがとうございます!
見た目は子ども、中身はアラサー、しっかり推し活しています(笑)
続きは明日のお昼頃公開予定です
ブックマーク登録でお待ちくださいませ☆彡


















