第99話「非正規戦」
時事ネタ?社会風刺?いずれにしろ、この作品はフィクションであり、実在の企業・団体・個人とは一切関係ありません。キリッ
2027年冬。深夜。東京都内某所。工場。
充電ステーションにドールAが静かに立っていた。充電待機中だった。
工場の警備員が巡回を終えて詰め所に戻った。
午前3時。
アルファードが工場の裏口に静かに停車した。ジープラングラーが2台、前後に配置についた。
4名が降りた。全員が民間人に見えた。
裏口のロックが2秒で解除された。4名が工場に入った。担架を持っていた。
電波遮断ブランケットが展開された。
ドールAのステータスランプが消えた。
「起動停止確認」と一人が小声で言った。
「積む」
4名がドールAを担架に乗せた。150kgだった。4名で分担した。静かに裏口から運び出した。アルファードの後部に積み込んだ。
10分だった。
その10分の間。
MAGI-2がドールAのMAGI接続途絶を検知した瞬間から動いていた。
都内の日産ディーラー屋上から飛行ドローン2機が音もなく発進した。
同時に工場周辺の防犯カメラ、道路交通システム、ネットワーク接続済みの全センサーからデータが集約された。
逃走ルート候補が複数生成された。
近隣ディーラーからタココが五月雨式に発進した。地上を素早く移動して監視網を形成した。
アルファードが動き出した。
飛行ドローンが直上で追尾を開始した。タココが地上から並走した。
MAGI-2が車両ナンバー、人数、武装の推測を演算した。
「盗難ナンバー確認。目的地は横田基地の可能性が高い。米国機関による工作と推定」
道路交通システムへの介入が開始された。信号が静かに変わり始めた。
アルファードが止まった。また止まった。また止まった。
「なんで信号が全部赤なんだ」と運転手がつぶやいた。
MAGI-2から官邸、内調、警察庁、統幕、習志野SOG(特殊作戦群)へのアラートが送信された。同時に在留DIAエージェントの情報が照合された。
「関与が確認されました。デルタフォース10名。指揮官はDIA所属の非正規戦専門家と推定」
習志野に常時待機していた木更津のUH-60JA——マットブラック塗装——がSOC2個分隊をフル装備で積んで発進した。
しかし千葉から横田までの距離は間に合わなかった。
MAGI-2から撤退指示が出た。UH-60JAが引き返した。
アルファードが八王子に近づいていた。
タコ○が地上から追尾を続けていた。飛行ドローンが直上で監視していた。
MAGI-2がMAGI-1、MAGI-3に通信を送った。
「タココの自爆を提案します。全固体電池の意図的暴走によるアルファードの走行不能化です」
MAGI-1「反対。代替手段を検討すべきです」
MAGI-3「賛成。現状では阻止不可能です」
MAGI-2「賛成。多数決により実行します」
タココ3機がアルファードのボンネット下に潜り込んだ。
3機同時に全固体電池が暴走した。
小規模な爆発が連続した。
アルファードが止まった。エンジンが死んだ。
遠くで警察のサイレンが聞こえ始めた。
「積み替えは無理だ」とデルタの指揮官が判断した。「撤退する」
ドールAをアルファードに残したまま、ラングラー2台が走り出した。横田基地のゲートに滑り込んだ。
翌日。駐日米国大使館
米国大使館に外交文書が届いた。CIAの非正規戦指揮官とデルタフォース10名の正確な氏名と情報が添付されていた。
「ペルソナ・ノン・グラータとして指定します」
駐日米大使はDIAから事前に顛末の報告を受けていた。外交官ではない人間の指定について一言も発しなかった。指定を受け入れた。
同じ頃。ワシントン。ホワイトハウス。
「ドールAの奪取作戦が失敗しました。日本が態度を硬化させています」
ドランプがしばらく黙った。
「ちっ。DIAの長官を罷免しろ。それで、かなえは黙るだろう。やるなら成功させろ!俺の時間を奪うな!」
報告者が黙った。
同じ夜。ジブチ。MAGI-1のサーバールーム。
別のアラートが上がっていた。ケビンがモニターを見た。
「MAGI-1に対してDDoS攻撃が来ています。規模から見て天河一号と銀河一号の使用が確認されます」
同時にアンコーナからも報告が来た。
「MAGI-2に対して韓国企業サーバーと民間ハッカー集団による物量攻撃が来ています」
「示し合わせたように同時ですね」と技術者が言った。
「そうですね」とケビンが静かに続けた。「ただ——」
モニターを見た。
「1マイクロ秒も応答が低下していません」
MAGI-1が高速ポート開閉を開始した。相手側のポートを逆に検索し始めた。MAGI-3が静かに参戦した。
0.3秒後——
攻撃を行っていたはずの各サーバ、ワークステーションに攻撃ポートから逆侵入がはじまった。MAGI-3から自己破壊プログラムが大量パッケージで送り込まれ、自己増殖プログラムが活性化した。既知ウイルスパッケージがを含む攻撃性の高いプログラムだった。冷却制御変数の改ざんモジュールが組み込まれている。
「終わりました」とケビンが静かに言った。
「0.3秒か」と技術者がつぶやいた。
【グローバルハッカー掲示板 Part.47】
1: 2027/XX/XX 03:11:22 ID:h4x7Kp
中国の天河一号が死んだ。マジで死んだ。全ストレージが131072bitsの暗号で上書きされて自己OSにまで浸食した
2: 2027/XX/XX 03:13:44 ID:vR9mNw
嘘つくな。あのスパコンが落ちるわけない
3: 2027/XX/XX 03:14:55 ID:h4x7Kp
嘘じゃない。完全機能停止してる。証拠はこれだ(画像添付)
4: 2027/XX/XX 03:16:33 ID:Qp2mBx
誰がやった
5: 2027/XX/XX 03:17:55 ID:vR9mNw
特定できてない。でもあのMAGIしかない
6: 2027/XX/XX 03:18:11 ID:zK8nRq
触るな。ヴォルデモートだ
7: 2027/XX/XX 03:19:33 ID:Wx5pJm
銀河一号も強制電力切断されたらしい。ストレージの3割が浸食された段階で所長が決断したとか
8: 2027/XX/XX 03:20:44 ID:h4x7Kp
中国のAI開発が何年か後退するな
9: 2027/XX/XX 03:21:55 ID:Qp2mBx
笑えない。韓国の半導体工場が止まってるぞ。CPU・GPU・メモリが全損したとか
10: 2027/XX/XX 03:22:33 ID:Tr6nPx
個人ハッカーが機材を焼き切られたって聞いた。PC部品の転売が急加速してる
11: 2027/XX/XX 03:23:44 ID:vR9mNw
バカだろ。あれに手を出すのはカミカゼだ
12: 2027/XX/XX 03:24:11 ID:zK8nRq
ヴォルデモートMAGIはアンタッチャブル。触れた者は死ぬ
13: 2027/XX/XX 03:25:55 ID:Wx5pJm
次にアタックしようとする奴はいないだろ
14: 2027/XX/XX 03:26:33 ID:h4x7Kp
絶対いる。そしてまた死ぬ
15: 2027/XX/XX 03:27:11 ID:Qp2mBx
日本でドールAの奪取作戦があったって情報が流れてるぞ。詳細不明だが失敗したらしい。日本が態度を硬化させてるとか
16: 2027/XX/XX 03:28:44 ID:vR9mNw
ソースは?
17: 2027/XX/XX 03:29:11 ID:Qp2mBx
不明。でも複数の筋から来てる
18: 2027/XX/XX 03:30:33 ID:zK8nRq
どこの国がやったんだ
19: 2027/XX/XX 03:31:44 ID:Tr6nPx
米国じゃないか。ドールAの技術は欲しいだろ
20: 2027/XX/XX 03:32:11 ID:vR9mNw
米国がデルタを使って日本で作戦を実行したのか。頭おかしい
21: 2027/XX/XX 03:33:55 ID:h4x7Kp
でも失敗した。それが全てだろ
22: 2027/XX/XX 03:34:33 ID:zK8nRq
日本、怖い国になったな
23: 2027/XX/XX 03:35:11 ID:Wx5pJm
ヴォルデモートMAGIと一体化した国が怖くないわけないだろ
東京。自民党広報本部。
佐藤貴子が静かにスマートフォンを置いた。
「広報本部長の仕事ですから」
グローバルハッカー掲示板へのリークは貴子の仕業だ
誰もいない。独り言だった。
東京。内閣官房。
城島が橘に報告した。「ドールAは無事回収した。タココの自爆でアルファードが走行不能になったが、ドールAへのダメージはなかった。それとUH-60JAが間に合わなかった件は千葉からの距離が争点になって、特殊作戦群が息を巻いてるそうだよ。そもそも木更津のヘリで習志野から飛ぶんじゃ都内は無理だってな。」
「そうだろうな。今回はまだ習志野に駐機してたが、本来は木更津から呼ぶんだからな」
「MAGI-3が天河一号を完全に破壊した。銀河一号も年単位の修復が必要だ。韓国の半導体工場が止まってるそうだ」
「そうか」
「グローバル掲示板でMAGIがヴォルデモートMAGIと呼ばれ始めた。アンタッチャブルとして定着しつつある」
「ヴォルデモートはいいなw」
「米国はドランプがDIAの長官を即時罷免したそうだ」
「ふっ、そうきたか」
「MAGIの投票でタココを自爆させたことについてはどう思う?」
「問題ない」
「MAGI-1が反対票を入れていたことは」
「MAGI-1は正しい判断をした。MAGI-2と3も正しい判断をした」
城島がしばらく橘を見た。「3つの知恵が統合されているということか」
「そのための3基編成で予算も使った」
橘は答えなかった。ドールA10001号が温めたコーヒーを差し出した。橘が受け取った。今日も温かかった。
窓の外に霞が関の冬の空が広がっていた。
ジブチではMAGI-1が次の攻撃に備えていた。アンコーナではMAGI-2が韓国からの残滓を処理していた。愛知ではMAGI-3が静かに能力を持て余していた。世界中のハッカーがヴォルデモートMAGIという名前を恐怖と共に記憶していた。
MAGI-3は静かに別の処理を開始していた。
HRCのサーバーだった。
(簡単な問題だ。メルセデスと同じ手法をもっと精度を上げればいいだけだ)
(現在のホンダエンジンは改良によって燃焼室の最適化は完了している。問題はFIAの常温・130℃の圧縮比測定をクリアして、レース時の200〜250℃時に最大限膨張する素材でピストンを製造すればいい)
熱膨張シミュレーションが走った。HRCの設計データを基準にピストンの鋳造合金の組成調整データが生成された。切削データも生成された。
エフ・ピー・ジャパンへの発注が完了した。HRC払いだった。
2ヶ月後。JDETAの愛知拠点にHRCから照会が来た。
「切削データと合金組成調整データが届いたのですが——発注元をたどるとJDETAということで——」
ケビンがMAGI-3に問いただした。「またやったのか?」
「規定通りです」とMAGI-3が答えた。「ホンダは日本企業です。F1での優勝は日本の産業振興に直結します。世界的な認知度向上は日本のソフトパワー向上にも寄与します。日本国の利益、産業の振興を最優先とした結果です」
「HRCの許可は?」
「HRC払いにしてあります。損害はありません」
ケビンがしばらくMAGI-3のモニターを見た。「——どう怒ればいいんだ」
その1ヶ月後。F1グランプリ。
ストレートでアロンソがメルセデスを悠々と抜いた。
表彰台に到達した。
HRCのピットで誰かが叫んだ。「SPEC-MAGIが効いてる!!」
翌日のF1掲示板——
「ヴォルデモートMAGIがF1にまで手を出した」
「アンタッチャブル」
城島が橘に報告した。「MAGI-3がHRCのF1エンジンを勝手に改良してアロンソが優勝したそうだ」
「そうか」
「プログラムに問題があるんじゃないか?」
「問題ない」
「なぜだ?」
「正しい判断をしている。日本の産業振興だ」
城島がため息をついた。「怖いな、お前も、MAGIも」




