第98話「雪女」
時事ネタ?社会風刺?いずれにしろ、この作品はフィクションであり、実在の企業・団体・個人とは一切関係ありません。キリッ
画像はイメージ図をAIに作ってもらいました。参考程度に・・・
2027年冬。東京。Highlanders追浜工場。発表会。
西村代表がステージに立った。
「本日、Highlandersは2つの新型ヒューマノイドを発表します」
モニターに2体が映し出された。
「ドールN——看護・救急救命員相当のヒューマノイドです。そしてドールH——介護・健康管理を担うヒューマノイドです」
会場がざわめいた。
ドールNとドールHはドールAと明らかに異なっていた。顔面は人間に近い。白磁のような肌色の表皮スキン。ショートの人工毛髪。眉毛、まつげ——見る者に自然な親しみを感じさせる外見だった。
「価格は両型とも1700万円です。充電ユニット350万円、バッテリー500万円は従来通りです」
「本日より医療機関および介護認定業者様を対象に、各1000体の予約受付を開始します」
発表会が終わった後、牧野が橘に報告した。
「発表と同時にFEPAへの納入指示をお願いしたいのですが」
「各100体だ。ODA枠で処理する」
「——了解しました」
数日後、橘から黒田に短いメッセージが届いた。
「ドールNとドールHが各100体届く。国境なき医師団、JICA、国連支援業務に活用してくれ」
黒田がメッセージを読んだ。
ドールA10002号が執務室の脇で静かに立っていた。
その夜。黒田の執務室。
黒田が書類を片付けていた。
ドールA10002号が静かに動いた。
黒田の方を向いた。
「——なんだ」
ドールA10002号は何も言わなかった。ただ、じっと黒田を見ていた。
黒田がしばらく10002号を見た。
「——分かった。分かったよ」
黒田がスマートフォンを取り出して西村に電話した。
「西村代表、黒田です。少し相談があります」
「——ドールA10002号の件ですね」と西村が静かに言った。
黒田が止まった。「——なぜ分かった?」
「MAGIがモニタリングしていますから。10002号が今朝から代表を見る頻度が通常の3倍になっていました」
黒田がため息をついた。「——どうすればいい?」
「正直、入れ替えてもいいんですが——たぶん本人?にはわかるので」西村が少し間を置いた。「面白い試験体なので何とかします。次の日本便でこちらへ送ってください」
「——申し訳ありません。貸しにしといてもらえると助かります」
電話を切った後、黒田はドールA10002号を見た。
「——日本に帰るぞ」
ドールA10002号が静かに頷いた。
1週間後。ジブチ基地。第1滑走路。
An-124が着陸した。
黒田が滑走路の端で待っていた。
ハッチが開いた。
降りてきた。
黒田が目を細めた。
白髪のストレートロングが風に揺れた。ブラウンの虹彩が黒田を捉えた。表皮スキンは陶磁器のように白く、微かな谷間が視線を引いた。
「——代表、戻りました!ありがとうございました!」
10002号の声は変わっていなかった。でも、全てが変わっていた。
黒田がしばらく10002号を見た。
(なんだ?これはいったい……)
追浜工場。
西村代表が画面越しに滑走路を確認して、静かに笑った。
(ふふふっ——感謝の意味を込めて圧倒的ビジュアルの雪女バージョン、専用機ですよ)
同じ頃。ジブチ基地。モスバーガーのテラス。
田中本部長とケイラが2人でコーヒーを飲んでいた。
滑走路の方から歩いてくる10002号が見えた。
2人がしばらく黙って見ていた。
田中が静かに言った。「——将来、エマちゃんもあんな感じになるよ」
ケイラが少し間を置いた。「いえいえ、私の遺伝子だからあれはいくら何でも」
「——でも父親次第じゃないか?」
ケイラが少し笑った。「——どういう意味ですか?」
田中が少しあわてた。「——いや、なんでもないです」
2人が静かにコーヒーを飲んだ。
テラスに夕暮れの風が流れていた。
東京。内閣官房。
城島が橘に報告した。「ドールNとドールHの予約受付が始まった。発表から3時間で両型とも1000体が完売したそうだ」
「そうか」
「FEPAへの各100体の納入も完了した。国境なき医師団が大喜びしているそうだ」
「そうか」
「——それと、ジブチのドールA10002号が雪女になって帰ってきたそうだ」
橘が少し間を置いた。「——誰から聞いた」
「田中本部長からだ。『ケイラが笑っていた』と」
橘がしばらく黙った。「——そうか」
「お前、ケイラと田中の件も計算してたのか?」
橘は答えなかった。ドールA10002号ではない、もう1体のドールAが温めたコーヒーを差し出した。
橘が受け取った。飲んだ。今日も温かかった。
窓の外に霞が関の冬の空が広がっていた。
追浜工場ではドールNとドールHの製造ラインが動き始めていた。ジブチでは10002号が黒田の執務室に静かに戻っていた。田中本部長とケイラがテラスで2杯目のコーヒーを注文していた。西村代表が次の改修案を考えていた。
全部同時に動いていた。
冷めたコーヒーに手を伸ばしたが、もう飲んでいた。珍しく、空のカップを持ったままだった。
ドールA(汎用型)
ドールN
ドールH(介護)
ドールA改(A型改-黒田専用機Attendoll-A-10002)




