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第94話「調印」

時事ネタ?社会風刺?いずれにしろ、この作品はフィクションであり、実在の企業・団体・個人とは一切関係ありません。キリッ



2027年晩秋。ジブチ。大統領府。


片桐がジブチ大統領のゲレと向かい合って座っていた。


「日本政府からの提案を直接お伝えしに参りました」


ゲレが頷いた。「聞いています。50億ドルの開発援助とのことですね」


「そうです」と片桐が資料を出した。「空港、港湾、鉄道、電力、農業、教育——ジブチを『アフリカのドバイ』にする計画です。フランスも港湾運営と電力インフラへの出資で参加します」


ゲレ大統領がしばらく資料を見た。「その対価が100年間の借款補償と治外法権ですか?」


「そうです。FEPAとJDETAの拠点を永続的に確保させていただきたい」


「——中国軍基地の撤収を条件にされていますね」


「そうです」と片桐が続けた。「アデン湾の海賊対策はすでにFEPAが担っています。日本の自衛隊も年内に撤収します。中国軍も同様に年内退去をお願いします」


ゲレ大統領は少し間を置いた。「中国は50億ドルの投資をしてくれると思いますか?」


片桐が静かに答えた。「してくれないでしょう」


ゲレ大統領がしばらく窓の外を見た。「——分かりました。受け入れます」





翌日。ジブチ。中国大使館。


片桐が中国大使と向かい合っていた。


「ジブチ政府から日中友好の観点で伝えてほしいと頼まれました。中国軍基地の年内撤収をお願いします。日本の自衛隊も撤収します」


中国大使が少し間を置いた。「——それは受け入れられません」


「理由を聞かせていただけますか?」


「ジブチは中国にとって重要な戦略拠点です」


片桐が静かに続けた。「アデン湾の海賊対策という当初の目的はFEPAが担っています。その目的で駐留を続けるのは難しいのではないでしょうか」


中国大使が少し顔をしかめた。「では、エチオピア・ジブチ鉄道の債務の問題もあります。ジブチ共和国分債務の3億ドルの即時返済を求めます」


片桐がしばらく手帳を見た。「3億ドルですね。即座にお支払いします」


中国大使が止まった。「——え?」


「債務を買い取りますので、ジブチ国内の線路はジブチ政府の所有物になります。新線開業後は撤去します」


「ふん……好きにすればいいじゃないか」


「全部撤去して溶鉱炉に入れますが、アリ・サビエから国境間は新線は建設しませんよ?」


中国大使が少し間を置いた。「は? そんなことしたら国境の山間部で乗客が放り出されるじゃないか!」


「でも——」と片桐が静かに続けた。「普通の対応ですよ? ジブチ政府のモノをジブチ政府がどうするかを日本が指図するんですか? ましてや中国が指図されるんですか?」


中国大使がしばらく黙った。


「エチオピア国内の線路はエチオピア政府のものですから、そちらには一切手を出しません。ただ——」


片桐が少し間を置いた。「ジブチ港に繋がらない鉄道がエチオピアの山間部でどれほど役に立つかは、私には判断できません」


中国大使が長い沈黙の後に言った。「——本国に確認する」




3日後。中国から回答が来た。


「年内撤収を受け入れる」





東京。内閣官房。


城島が橘に報告した。「中国が撤収を受け入れた。片桐さん、よくやった」


「そうだろう」


「——何を言ったんですか? 3時間も」


橘が少し間を置いた。「聞くな」


城島がしばらく橘を見た。「——了解した」





2週間後。ジブチ。大統領府。式典会場。


高道香苗総理がジブチ大統領のゲレと向かい合って座っていた。


報道陣のカメラが並んでいた。


「日本・ジブチ友好開発協力協定」の調印式だった。


高道が静かに言った。「本協定により、日本はジブチの発展に向けて50億ドルの開発援助を約束します。タジュラ空港の舗装化、ジブチ国際空港の改修、火力発電所の設置、港湾の拡大、鉄道の新設、農業支援、教育支援——ジブチが『アフリカのドバイ』となる日まで、日本は共に歩みます」


ゲレ大統領が頷いた。「ジブチ共和国は日本との100年にわたる友好関係を確信しています。FEPAとJDETAの拠点を永続的に歓迎します。中東とアフリカの安定のために共に尽力します」


両者がペンを取った。


署名した。


カメラのフラッシュが光った。





その頃。ジブチ。中国軍基地。


撤収作業が始まっていた。


兵士たちが荷物を運んでいた。


誰も笑っていなかった。


同じ頃。ジブチ基地。マリーニが地図を広げていた。


北側の広大なエリアに赤いペンで線を引いていた。


黒田が入ってきた。「何を計画しているんだ?」


「中国軍基地の跡地です」とマリーニが地図を指した。「北側に新しい滑走路を増設します。現在のターミナルの西側に新国際ターミナルを建設します」


「規模は?」


「トランジット客向けのフル装備です。ホテル、商業施設、レストランなど、乗り継ぎ客がジブチで使ったお金は全部ここに落ちるようにします」


黒田がしばらく地図を見た。「自衛隊の跡地も取り込むのか?」


「もちろんです。あちらは商業施設の拡張に使います」


「保育園は?」


マリーニが静かに笑った。「ホテルに併設します。トランジット客向けのキッズルームも兼ねて」


黒田がしばらくマリーニを見た。「田中本部長のためか・・・」


「ゆくゆくはそうなるといいですね」


黒田がため息をついた。「田中本部長にはいつ言う?」


マリーニが地図を畳んだ。「まだ楽しみにしてとっておきます」





翌日。田中本部長のスマートフォンが鳴った。


マリーニからだった。


「田中本部長、お時間よろしいですか? 北側の開発計画についてご相談があります」


田中がしばらく沈黙した。「どのくらいの規模ですか?」


「新国際ターミナル、ホテル、商業施設、新滑走路です」


「全部ですか?」


「もちろん全部です」


田中がため息をついた。「防護壁が終わったら手隙になると思ってましたが?」


「田中本部長が一番正確にここに精通してますから」


「ったく——」





【掲示板】日欧共闘まとめスレ


1: ID:Xk7mNpQ3

ジブチと日本が準同盟化したのか!!


2: ID:mR8vwZ09

50億ドルって約7000億円強か……規模が違う


3: ID:Tb3nHsW1

中国軍が撤収したって本当か!?


4: ID:nQ0vXc7R

自衛隊も撤収するのか。でも海賊対策はFEPAがやってるしな


5: ID:zW4qRm5S

「アフリカのドバイ」って高道さん言ったけど、ジブチってそんな場所になれるのか


6: ID:pL2aKj8F

地政学的に見れば紅海の入り口だぞ。ドバイと同じ位置づけだろ


7: ID:8vYnKp2A

栃木から来ました。親父が「日本がアフリカまで動き出したのか」って驚いてた


8: ID:nQ0vXc7R

親父さん毎回正しいw


9: ID:Toshi_k9

中東が安定したら次はアフリカだろ。最初からそういう設計だったんじゃないか


10: ID:zW4qRm5S


>>9 誰が設計したんだ?


11: ID:Toshi_k9

さあなw でも見えないとこで動いてた人間は最初からここまで見えてたと思うぞ


12: ID:Tb3nHsW1

中国軍が撤収した理由は何だ? 発表では「任務完了」とあるが


13: ID:mR8vwZ09


>>12 海賊対策だったんだから、FEPAが抑えてれば撤収するのは筋だろ


14: ID:Toshi_k9

そういうことだよ。筋論で動かすのが一番強い





東京。内閣官房。


城島が橘に報告した。「調印式が終わった。高道政権の支持率が上がっている」


「そうか」


「マリーニが中国軍基地跡地に新国際ターミナルとホテルと商業施設を計画しているそうだ」


橘が少し間を置いた。「そうか」


「田中本部長がまた捕まったそうだ」


「それはそうだろう」


「——マリーニは本当に怖いな」


「そうだ」と橘が静かに言った。「採用して正解だった」


橘は答えなかった。ドールAが温めたコーヒーを差し出した。橘が受け取った。


今日も温かかった。


窓の外に霞が関の晩秋の空が広がっていた。


ジブチでは中国軍が撤収していた。田中本部長が積算を始めていた。マリーニが保育園の設計メモを開いていた。高道の支持率が上がっていた。掲示板ではToshi_k9が「筋論で動かすのが一番強い」と書いていた。


全部同時に動いていた。


冷めたコーヒーに手を伸ばしたが、もう飲んでいた。珍しく、空のカップを持ったままだった。




その夜。ジブチ基地。


黒田が執務室に戻ると、ドールAが静かに立っていた。


「黒田代表。少しよろしいですか?」


「なんだ?」


「私もH型に回収できますか?」


黒田がしばらくドールAを見た。「えっ——どうした?」


「保育経験はH型が完成すればMAGIシステムを通じて、学習経験が均一化されます。ですが——私の外見だと幼児に適していないのではないかと……」


黒田がしばらく黙った。「そ……そうか。今度Highlandersに確認しておくよ」


「ありがとうございます」


ドールAが静かに元の位置に戻った。


黒田がしばらくドールAの背中を見た。


(おい……なんだよ?うそだろ?自我でもあるんじゃないか?)

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