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第92話「量産」

時事ネタ?社会風刺?いずれにしろ、この作品はフィクションであり、実在の企業・団体・個人とは一切関係ありません。キリッ



2027年秋。東京。内閣官房。


橘が牧野に言った。「ドールAの販売を開始する。それとドールNとドールH、ドールIの開発を同時に始めてくれ」


牧野が頷いた。「ドールNが看護・救急救命員相当、ドールHが介護・健康管理ですね。顔面の人工皮膚は——」


「オリエント工業の協力を取り付けてある」


牧野が少し間を置いた。「——仕方ないですね」


「そうだ。仕方ない」


城島が隣で静かにため息をついた。「仕方ないな」


「ドールIは外装をステンレス化した重工業・土木用だ。出力はドールAの2倍、片手で40kgを持ち上げる仕様にしてくれ」


「——了解しました」


「販売は法人向けのみだ。愛玩用と一般家庭用は当面ない」


「分かりました」


橘が続けた。「民間販売の契約書類はどうなっている?」


牧野が資料を出した。「NDA、分解に関する誓約書、システムアクセス禁止の誓約書——分厚い契約書の束になっています。サービス拠点は全国の日産ディーラーに対応してもらいます。ただし修理はやらせません。基本は予備機との交換のみです」


「——よし」


牧野がもう一枚資料を出した。「それと一点、橘さん、これどうするんですか?」


「何だ?」


「タチコマとタコマのオプションに公道用保安装備を付けられるようにしてあるんですが」


橘が少し間を置いた。「——それは誰が決めた?」


「私です」


「——公道を走るとなると車検やナンバー交付が必要だが」


牧野が静かに続けた。「そう思って法案通過後に、総重量3t以上は大型特殊自動車扱いという諸例に追加してあります。運輸局とも車検、ナンバー交付について協議済みです」


橘がしばらく牧野を見た。


「お前もできるようになったな」と橘が笑った。


牧野が少し照れた顔をした。「橘さんの真似をしていたら自然に……」


「いいことだ」





同じ頃。総務省消防庁。会議室。


消防庁の担当者と総務省の予算担当が向かい合っていた。


消防庁担当「タココを全国720の消防本部に最低5機ずつ貸与したい。3800機です。タチコマも東京消防庁のハイパーレスキュー等に入れたい」


総務省担当「タチコマは国家予算での予算要求は厳しい。今回はタココまでにしてください。タチコマ・タコマが必要な消防本部は自主予算で個別に購入してもらう形にしましょう」


消防庁担当「——分かりました」


総務省担当「財務省との折衝を始めます。補正予算で1セット700万円×3800セットで266億円の計上を目指します」


「——故障した場合は?」


「消防庁に予備機を置いて交換する制度設計にします。修理は製造元が担当します」


「——カラーリングは?」


「赤に白のアクセントで『TAKOCO』のマーキングを入れてもらいます」





数週間後。財務省との折衝が終わった。


補正予算266億円が認められた。


消防庁からHighlandersとTachikoboに正式発注が入った。


西村が発注書を受け取った。「——3800機ですね。了解しました」


それだけだった。


同じ頃。建設業界向け発表会。東京ビッグサイト。


タチコマとタコマが並んでいた。


フォレストグリーンの外装に白文字で「TACHICOMA」「TACOMA」のマーキングが入っていた。


ゼネコンの担当者たちが機体を見回していた。


「タチコマの能力は?」と担当者が聞いた。


「バックホウ能力で0.25m3クラスです。不整地での4脚歩行と格納式車輪による高速移動を両立しています。充電ユニットはディーゼル発電機付きで現場でも使えます。本体3000万円、充電ユニット300万円です」


「——公道は走れるのか?」


「オプションで公道用保安装備を追加できます。大型特殊自動車として車検・ナンバー交付が可能です」


担当者が電卓を出した。「3300万が設備投資一括償却できるなら実質コストがかなり下がるな」


タコマの担当者が続けた。「タコマはバックホウ能力で1.2m3クラスです。本体1億円、充電ユニット500万円です。重機の代替として解体・土木工事での使用を想定しています」


「——操作は?」


「MAGIの統合AIが管理します。現場監督がタブレットで指示を出すだけです」


鹿島建設の担当者が手を挙げた。「タコマを50台発注したい。ジブチの田中本部長から指示が来ています」





同じ頃。JDETAの木村から発注書が届いた。


タココ3000機×700万円=210億円。


木村JDETA担当「カラーリングは塗装なしでお願いします。デジタル迷彩は当方でやります」


西村代表が電話を受けた。「——了解しました。自衛隊向け500機、FEPA向け1000機、海外輸出向け1500機の配分ですね」


「そうです。Highlandersは軍事協力はしないという方針は変わりませんので、塗装なしの状態で納品してください」


「——了解しました」


タチコマ500機×3300万円=165億円。


タコマ500機×1億500万円=525億円。


技本向けタコマ50機×1億500万円=52.5億円。


牧野が電卓を叩いた。「タココ消防庁分・JDETA分、タチコマ、タコマ——全部合わせると今日だけで1218.5億円の受注だ」


西村がしばらく電卓を見た。「——日本転生Rev1はここから本格的に始まるんですね」


「そうだ」と牧野が静かに言った。「橘さんが最初からそう言っていた」





同じ頃。ドールAの受注ページが公開された。


午前9時の受注開始から1時間で3000台の在庫が全て売れた。


【掲示板】ドールA・アスタコシリーズ発売スレ


1: ID:Xk7mNpQ3

ドールA、1時間で完売したぞ!!


2: ID:mR8vwZ09

1500万×3000台で450億円が1時間で…


3: ID:Tb3nHsW1

うちの会社も発注したけど間に合わなかった。次のロットはいつだ?


4: ID:nQ0vXc7R

設備投資一括償却使えば実質700万円くらいで買えるからそりゃ飛ぶわ


5: ID:zW4qRm5S

消防庁がタコ○3800機発注したのか。全国の消防署に赤いタコ○が届くんだな


6: ID:pL2aKj8F

「TAKOCO」のマーキング入りか。かわいいな


7: ID:8vYnKp2A

栃木から来ました。うちの工場にもドールAが来月届くそうです


8: ID:nQ0vXc7R

親父さんはなんて言ってた?


9: ID:8vYnKp2A

「やっと来たか」って笑ってました


10: ID:Toshi_k9

タチコマとタコマが公道走れるようになるって本当か?


11: ID:zW4qRm5S

大型特殊自動車扱いで車検通るらしい。誰が考えたんだ?


12: ID:mR8vwZ09

こういうのって法案成立前に根回し済みなんだろうな


13: ID:Toshi_k9

当然だろ。法律より先に動いてる人間がいるんだよ


14: ID:Tb3nHsW1

苫小牧のタコ○が赤くなって全国に配備されるのか…感慨深いな


15: ID:8vYnKp2A

親父が「タコ○が来たら能登の復旧が早くなる」って言ってた


16: ID:Toshi_k9

……その通りだよ。親父さん正しい





東京。内閣官房。


城島が橘に報告した。「ドールAが1時間で完売した。アスタコシリーズで今日だけで1218億円の受注だ。消防庁の補正予算も通る見込みだ」


「そうか」


「牧野が大型特殊自動車の法整備を先回りしていたそうだ」


橘が少し間を置いた。「そうだな。あいつはできるようになった」


「お前の影響だろ」


「さあな」


城島がため息をついた。「オリエント工業については——各方面から問い合わせが来ているそうだ」


「仕方ない」


「——本当に仕方ないと思ってるのか?」


「技術は技術だ」


城島がしばらく橘を見た。「——どこに転がっても使える技術を見つけてくるな」


橘は答えなかった。


ドールAが静かに温めたコーヒーを差し出した。


橘が受け取った。飲んだ。今日も温かかった。


窓の外に霞が関の秋の空が広がっていた。


追浜工場のラインが3交代制で動いていた。日立建機の工場も動いていた。全国の消防署がタコ○の到着を待っていた。ジブチの田中本部長がタコマの到着日程を確認していた。


全部同時に動いていた。


冷めたコーヒーに手を伸ばしたが、もう飲んでいた。珍しく、空のカップを持ったままだった。

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