表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
90/166

第90話「兆し」

時事ネタ?社会風刺?いずれにしろ、この作品はフィクションであり、実在の企業・団体・個人とは一切関係ありません。キリッ



2027年秋。東京。内閣官房。橘の執務室。


ドアの脇に、168cmのグレーの機体が静かに立っていた。


Attendoll-A。


城島が入ってきて、止まった。


「いつから居るんだ」


「今朝から」と橘が答えた。


「驚くだろ、普通」


「慣れる」




城島がしばらくドールAを見た。「黒田PMC代表のところにも?」


「そうだ」


「ジブチに送ったのか」


「MAGI-1と常時連携させてある」


城島がため息をついた。「怖いな、お前は」


ドールAが静かに首を動かした。城島の方を向いた。


城島が後ずさった。「今、俺を見たか」


「音声認識で動いた。お前の声に反応しただけだ」


「慣れるか、これに」


「慣れる」





同じ頃。東京。国会議事堂。


参議院本会議場。


「汎用ロボット製品に関する法律案、賛成多数で可決されました」


議長が宣言した。


佐藤貴子がワイプ画面で笑顔を見せた。「本日、汎用ロボット製品に関する法律が成立しました。中古販売の禁止、分解改造の禁止、システムアクセスの禁止、輸出許可制、道交法上は成人に準ずる扱いとなります。罰則は重く設定しています。国民の皆様のご理解に感謝申し上げます」


キャスター「施行はいつですか?」


佐藤「公布から30日後です。既にHighlandersが3000台の在庫を用意しています」





【掲示板】汎用ロボット法成立スレ Part1


1: ID:Xk7mNpQ3

ドールA、買えるの?


2: ID:mR8vwZ09

1500万円……


3: ID:Tb3nHsW1

設備投資一括償却使えば中小企業でも手が届くぞ


4: ID:nQ0vXc7R

中古販売禁止・改造禁止・輸出許可制——かなり厳しい法律だな


5: ID:zW4qRm5S

輸出規制がFMSと同じ構造になってる。設計してる人間が同じだろこれ


6: ID:Toshi_k9

当然だろ。見えないとこで動いてる人間が同じなんだから


7: ID:8vYnKp2A

栃木から来ました。工場でドールA使えたら人手不足が解決するって親父が喜んでた


8: ID:nQ0vXc7R

親父さん、毎回正しいw





同じ頃。東京。経済安全保障担当大臣室。


小田喜美大臣が橘に資料を出した。「不法移民の件は着実に減少しています。ただ、残っている問題があります」


「路上礼拝と土葬の問題ですか?」


「そうです」


橘が資料を見た。「説明して貰えますか?」


小田が続けた。「まず路上礼拝についてです。実はイスラム教では路上礼拝を強制していません。各イスラム国の実例を見ても、路上礼拝は禁止している国が多い。エジプトもサウジも禁止しています。これを根拠にして、単純に道交法違反として検挙対象と規定します」


「代わりに何を用意します?」


「モスク建設の支援です。必要な敷地を確保していることを条件に、建設費の50%を補助します。ただし同一行政区に1か所を限度とします」


橘が頷いた。「土葬は?」


「日本では衛生問題から許可できません。ただ拒否するだけでは差別と見られる可能性があります」


「代替案は?」


「瀬戸内海の無人島を国が買い取ります。そこを土葬墓地として整備します。モスクも1か所併設します。ただし永久的に居住は禁止します」


橘がしばらく資料を見た。「日本の立場を明確にしておく必要があるという事ですね」


「そうです」と小田が続けた。「日本国の立場は根拠を持った法令遵守であり、イスラム教またはイスラム国家またその信者を差別していない。これを外務省を通じて各イスラム国に正式に説明します」


「各イスラム国の反応は?」


小田が少し笑った。「ジブチ大使が『FEPAがモスバーガーのハラール対応をしていることも含めて説明できる』と言っていました」


橘が静かに頷いた。「よくやった」





同じ頃。テヘラン。


片桐隆文がアフシャールと向かい合って座っていた。


「日本の意向を確認したい」とアフシャールが言った。


「どういう意向ですか?」


「停戦です」


片桐がしばらくアフシャールを見た。


「革命防衛隊の件はご承知の通りです」とアフシャールが続けた。「我々政権は革命防衛隊を完全に軍の管理下に置きたいと考えています。ただし時間が必要です」


「カタールに仲介を頼めないのですか?」


「弾道ミサイルを撃ち込みすぎました。カタールは仲介役を降りています」


「中国は?」


アフシャールが少し間を置いた。「申し出はありました。しかし対日強硬国です。日本との関係上、仲介役は無理と判断しています」


「日本に何を求めますか?」


「日本との、そして米国・欧州・中東各国との調整を希望します」とアフシャールが続けた。「復興支援を条件に、革命防衛隊の軍への吸収が完了するまで、FEPAに戦力を引き上げてもらいたくない。それが我々の意向です」


片桐がしばらく黙った。「確認します」





東京。内閣官房。


片桐からの報告を受けた橘が城島に言った。「各国への根回しを始めてくれ」


城島が資料を出した。「韓国は強硬反対すると思います」


「そうだろう。タンカー26隻が湾内に留められているからな。最終的には同意するしかない」


「欧州は?」


「歓迎するはずだ。ウクライナ問題の根本的解決を望んでいる。FEPAの欧州展開も視野に入れている」


「米国は?」


「ドランプはイランの核査察スケジュールとPKOへの不参加確約を求めるはずだ。これは飲める条件だ」


「ロシアは?」


「終戦によりウクライナへの兵器増強を懸念するはずだ。だが安保理では歓迎するだろう」


「国連安保理は?」


「歓迎する。終戦スケジュールの算定を求めてくる。FEPAが国連軍の新しい形として評価されることになる」


城島がしばらく資料を見た。「全部見えていたのか」


「さあな」





同じ頃。国連安保理。


クリスティーナ・ラッセン安保理議長が発言した。「FEPAの活動は国連軍の新しい形として高く評価されています。イランとの停戦に向けた日本のイニシアチブを歓迎します。終戦スケジュールの算定を求めます」


賛成多数だった。


ロシアは賛成したが、終了後に担当者がつぶやいた。「ウクライナへの兵器増強を急がなければならない」


韓国代表が強硬に反対した。「我々の関与なしに停戦を進めることは認められない」


しかし誰も振り向かなかった。


韓国代表がしばらく黙った後に言った。「——タンカーの件もある。最終的には……同意せざるを得ない」


その声は誰にも届かなかった。





東京。内閣官房。


橘が冷めたコーヒーを飲んでいた。


ドールAが静かに立っていた。


城島が入ってきた。「安保理で歓迎の決議が出た。韓国が孤立した。ドランプが核査察スケジュールを求めてきた」


「そうか」


「欧州がFEPAの欧州展開を打診してきた」


「そうか」


「全部想定通りか?」


「さあな」


城島がドールAを見た。「こいつは何か言わないのか」


橘が少し間を置いた。「音声入力でしか動かない」


「何か言ってみろよ」


橘がドールAに向かって静かに言った。「コーヒーを温めてくれ」


ドールAが動いた。静かにコーヒーカップを取った。電子レンジに向かった。


城島がしばらく見ていた。「怖いな」


「便利だ」と橘が静かに言った。


窓の外に霞が関の秋の空が広がっていた。


テヘランでは片桐が次の会談に向かっていた。安保理では停戦スケジュールの算定が始まっていた。ジブチのドールAは黒田の執務室で静かに立っていた。瀬戸内海では無人島の調査が始まっていた。苫小牧では今日もタコ○が瓦礫の中を動き回っていた。


全部同時に動いていた。


温められたコーヒーがドールAの手から静かに差し出された。


橘が受け取った。飲んだ。


今日は、温かかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ