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第89話「進軍」

時事ネタ?社会風刺?いずれにしろ、この作品はフィクションであり、実在の企業・団体・個人とは一切関係ありません。キリッ



2027年夏。静岡。富士演習場。


C-2が低空を進入してきた。ランプドアが開いた。


タココが飛び出した。パラシュートが展開した。だが風に流されて目標地点から50mずれていた。


「記録。第1回。目標点から50mのずれ」と技術者が手帳に書いた。


C-2が旋回して戻ってきた。


2回目。30mずれた。


3回目。45mずれた。


牧野がモニターを見ていた。「MAGIが気流データとパラシュート操作を蓄積しています」


西村が隣で頷いた。「20回を超えた辺りから精度が上がるはずです」


21回目。8mずれた。


「来た」と森が言った。


30回目。2mずれた。


40回目。0.8mずれた。


「これなら駅前でも行けます」と西村が静かに言った。


牧野が橘にメッセージを送った。「富士での精度学習、完了しました」


橘から返信が来た。「苫小牧の日程を決めてくれ」





数週間後。北海道。苫小牧。


駅前の廃ビルが静かにそびえていた。S造10階建て。解体費10億円と言われていた物件だった。


駅前の歩道に市民が集まっていた。スマートフォンを構える人、子供を肩車する父親、立ち飲みコーヒーを手に固唾を呑んで見守る会社員。報道のカメラが並んでいた。


陸上自衛隊施設中隊が建物周囲に爆薬を仕掛け終えた。


「——爆破準備完了」と無線が入った。


警戒区域が設定され、苫小牧市手配のガードマン、警察が監視任務にあたる。




苫小牧市長が橘の隣に立っていた。「本当にいいのでしょうか」


「三方よしです」と橘が静かに答えた。「自衛隊が爆破訓練できる。Tachikoboが実証できる。苫小牧市は解体費が産廃処理費だけになる」


市長がしばらくビルを見た。「ありがとうございます。今年で10年廃墟のままでした」


「——爆破実施」


轟音が響いた。


ビルが崩れ落ちた。S造の鉄骨が絡み合いながら倒壊した。粉塵が舞い上がった。




歩道に集まっていた市民から歓声と驚きの声が同時に上がった。スマートフォンの動画撮影ボタンが一斉に押された。


30秒後、第一空挺団の隊員たちが廃ビル周囲に展開した。掃討訓練の開始だった。鉄骨の隙間を確認しながら進む。二次崩壊の危険を排除していく。


15分後、第一空挺団から安全確認の無線が入った。




「——Tachikobo投入」と橘が言った。


上空からC-2が進入してきた。


市民がざわめいた。「何が来るんだ?」「あれはC-2じゃないか」「自衛隊の輸送機か?」


ランプドアが開いた。


タココが10機、連続して飛び出した。パラシュートが展開した。目標地点に次々と着地した。ずれは最大1.5mだった。


「おお!」と歓声が上がった。


続いてタチコマが20機飛び出した。4脚で衝撃を吸収して着地した。格納式車輪を展開して瓦礫の外周を高速移動した。


市民が静まり返った。


「なんだあれ……」と誰かが言った。


「ロボットだ」と子供が叫んだ。


タココが瓦礫の隙間に潜り込んだ。温度センサー、振動センサー、光学カメラが同時に稼働した。タチコマが外周を制圧してルートを確保した。


タコマが10機、地上から瓦礫の外縁部に進入した。重機モードで絡み合った鉄骨を掴んで引き出した。


苫小牧市手配のダンプが20台、周囲に待機していた。


タコマが鉄骨をダンプの荷台に積み込んだ。静かに、正確に。


「士郎正宗かよ!」と森が言った。


「また言ってる」と西村が苦笑した。


MAGIが40機を統合管理していた。タココ10機のセンサーデータ、タチコマ20機の移動データ、タコマ10機の作業データが全てリアルタイムで共有されていた。


「MAGIが学習しています」とケビンが言った。「S造倒壊のがれき形状パターン、鉄骨の絡み方のバリエーション、ダンプへの最適積込み手順——全部蓄積中です」


市長がしばらく作業を見ていた。「これが全部終わるのはどのくらいかかりますか?」


「最低1ヶ月はかかります」と西村が答えた。「解体から産廃処理まで含めると1ヶ月半程度でしょう」


「——それでも10億円が産廃運搬処理費だけになるんですね」


「そうです」


市長が少し間を置いた後に言った。「これは能登や熊本に展開できるんですかね?」


「今回のデータが蓄積されれば」と橘が静かに言った。「竹中工務店と話をしてみます」




歩道に集まっていた市民がスマートフォンで動画を撮り続けていた。


「すごいな……」と父親が子供を肩車したまま言った。


「ねえパパ、あれなんていうの?」


「タチコマ……じゃなくてタココか、タコマか……よく分からん」と父親が苦笑した。


「——かわいい」と子供が言った。


タココが瓦礫の隙間を器用に動き回っていた。


その動画が夜にはSNSで全国に拡散していた。タグは「苫小牧のタココ」だった。





同じ頃。ジブチ。FEPA基地。


マリーニが黒田の執務室に入ってきた。


「国連軍から指示が来ました」


黒田が振り返った。


「アデン湾が安定しているため、アデン湾の展開を縮小してペルシャ湾内への展開を強化する指示です」


「具体的には?」


「アデン湾は1個中隊から常時1個小隊のオンステージに変更。残り5個中隊15小隊を2交代制にして——7個小隊35隻をペルシャ湾内に展開します」


黒田がしばらく地図を見た。「サウジの油田か」


「そうです。油田施設と東西パイプラインへの攻撃を抑制するのが目的です」


黒田が頷いた。「ケイラに伝えてくれ」




アデン湾。隼1番艦。


ケイラが海図を見ていた。


無線が入った。「少佐、司令部から指示が来ました」


ケイラが無線を受け取った。


「了解」


海図を見た。アデン湾からペルシャ湾へ。ホルムズ海峡を抜けてペルシャ湾内へ。サウジアラビアの東岸に沿って展開する。


「第一小隊はアデン湾に残れ。私はペルシャ湾に向かう」


「少佐も行くんですか?」


「ケイラは海で頼む——と言われている」とケイラが静かに笑った。「ペルシャ湾も海だ」


マルコが隣で言った。「——少佐、はやぶさ改が待ってます」


「行くぞ」


35隻が一斉に動き出した。ホルムズ海峡へ向かった。





ジブチ基地。マリーニが広域戦況モニターを見ていた。


アデン湾——1個小隊5隻。


ペルシャ湾——7個小隊35隻。


「ここまで来たか」とマリーニが静かに言った。


黒田が広域戦況モニターを見た。「サウジの油田を守ることになるとは思わなかった」


「中東の安定はFEPAの収益に直結します」とマリーニが電卓を取り出した。


「また計算か」と黒田が苦笑した。


「CFOの仕事ですから」





東京。内閣官房。


城島が橘に報告した。「苫小牧の実証が始まった。MAGIが大量のデータを蓄積している。SNSで動画が拡散していて『苫小牧のタココ』というタグがトレンド入りしている」


橘が少し間を置いた。「そうか」


「ペルシャ湾の展開も始まった。35隻が動いている」


「そうか」


「全部同時に動いているな」


「そうだ」と橘が静かに言った。


城島がため息をついた。「怖いな、お前は」


橘は答えなかった。冷めたコーヒーに手を伸ばした。飲んだ。やはり冷めていた。


窓の外に霞が関の夏の空が広がっていた。


苫小牧では40機のアスタコシリーズが瓦礫の中を動き回っていた。ペルシャ湾では35隻がサウジの油田に向かって展開していた。MAGIが全部同時に処理していた。


全部同時に動いていた。


冷めたコーヒーに手を伸ばしたが、もう飲んでいた。珍しく、空のカップを持ったままだった。

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