第87話「Highlanders覚醒」
時事ネタ?社会風刺?いずれにしろ、この作品はフィクションであり、実在の企業・団体・個人とは一切関係ありません。キリッ
2027年5月初旬。神奈川。追浜工場。
工場の中心に168cmのグレーの機体が立っていた。
Attendoll-A——初号機。
グレーの外殻とガンメタリックの関節部が協調していた。胸部がわずかに厚く、女性的な印象を与えた。顔面は鉄仮面状でヘルメット状の頭部——髪はなかった。二対の画像認識ユニットが目のように配置されていた。
「——ブロッケンマンだ」と森がつぶやいた。
「——外見の話は後にしてください」と西村が苦笑した。
開発チーム30名が固唾を呑んで見ていた。
西村が端末を操作した。「——起動します」
Attendoll-Aが動いた。
音がしなかった。
中国製のロボットのようなガチャガチャ音は全くなかった。静かに、滑らかに、関節が動いた。
「——立ち上がりました」と技術者が言った。
Attendoll-Aが一歩踏み出した。樹脂製の専用ブーツが床を踏んだ。5指が圧力を均等に分散した。
「——不整地テストに移ります」
工場の一角に設置された段差のあるテストフィールドに向かった。
段差10cm——通過。
段差20cm——通過。
段差30cm——通過。
段差50cm——少し間があった。
「——MAGI-3がフィジカルAIレイヤーを調整しています」と技術者が言った。
数秒後——通過。
「——やったか!?」と森が叫んだ。
「——やりました」と西村が静かに言った。
Attendoll-Aが垂直飛びをした。
1m。
着地した。静かだった。
森が止まった。「——今、飛んだか?」
「——飛びました」
「——1mか」
「——そうです」
森がしばらく黙った後に言った。「——士郎正宗かよ!」
「——また言ってる」と西村が苦笑した。
同じ頃。東京。内閣官房。
牧野からの映像が届いた。
橘がモニターを見ていた。
Attendoll-Aが不整地を歩いていた。静かに、滑らかに。
城島が隣で見ていた。「——ブロッケンマンだな」
「そうだな」と橘が静かに言った。「——いいな」
「——褒めてるのか?」
「そうだ」
橘がしばらくモニターを見た後に続けた。「初期ロット10台と台数分の充電ユニットを技本に送ってくれ。販売は少し待ってくれ。法令を至急通す」
牧野が頷いた。「——どんな法令ですか?」
「汎用ロボット製品に関する法だ。中古販売の禁止、販売店長期在庫の禁止、分解改造の禁止、システムアクセス・コンパイルの禁止。道交法上は人間扱いとする。公共交通機関も成人に準ずる。輸出は許可制で罰則を強くする。3ヶ月で通すから在庫を最低3000台用意しろ」
「——罰則はどの程度ですか?」
「禁固10年程度では弱すぎるだろう」
牧野が少し間を置いた。「——了解しました」
「価格の話をしよう」と橘が続けた。「西村、原価はどうなっている?」
西村「量産効果を考えて現在原価800万円です。充電ユニットは200万円、バッテリーパックが300万です」
牧野「販売価格どうする?」
橘「1基1500万、充電350万、バッテリー500万だな。これは定価で最大15%引きまで許可だな。バッテリー寿命は?」
西村「充電後8〜15時間稼働で、半減期まで5年〜7年です。使用状況によります」
橘「ならいいだろう。本体と充電ユニットは特例措置で一括償却可能にするよう片貝大臣に伝えておく。バッテリーは特例じゃなく通常の一括償却可能にする」
牧野「政府のFMS特会出資の返済を一定パーセントで組み込んどいたほうがいいぞ。片貝さん怖いから国有化されちゃうよw」
西村「もちろんです。定価の5%程度の返済をしつつ、ラインを増産する方針で三菱自動車とは話をしてましたが、10%は研究開発費に回せるはずです」
橘「バリエーション展開と次世代開発費をケチるなよ? 三菱グループにも話をするが、愛知USCの無償使用は時限措置だからな」
西村が頷いた。「——承知しました」
城島が橘に言った。「——三菱自動車の田所取締役、世話人会格上げの件は?」
「そうだな」と橘が静かに言った。「今日中に連絡しておく」
同じ頃。追浜工場。
Attendoll-Aが荷役作業をしていた。
30kgの荷物を持ち上げた。静かに、正確に。
森がしばらく見ていた。「——これが量産されるのか」
「そうです」と西村が答えた。「3ヶ月で3000台の在庫を作ります」
「——追浜工場だけで?」
「三菱自動車のラインも動かします。4ライン3交代制で——」
森が少し間を置いた。「——また茨城の飲み屋街が賑わうな」
「——追浜も賑わいますよ」と西村が笑った。
Attendoll-Aが静かに次の荷物に向かった。
168cmのグレーの機体が工場の中を歩いていた。
音がしなかった。
東京・内閣官房。
城島が橘に言った。「Attendoll-Aが歩いた。不整地を通過した。1m飛んだ」
「そうか」
「静かだったそうだ」
「そうか」
「森が『士郎正宗かよ』と言ったそうだ」
橘が少し間を置いた。「——そうだろうな」
「法令を3ヶ月で通して、在庫3000台を用意して、販売を開始する——本当に大丈夫か?」
「そうだ」と橘が静かに言った。「日本転生Rev1はここから本格的に始まる」
城島がしばらく橘を見た。「——怖いな、お前は」
橘は答えなかった。冷めたコーヒーに手を伸ばした。飲んだ。やはり冷めていた。
窓の外に霞が関の春の空が広がっていた。
追浜工場ではAttendoll-Aが静かに歩いていた。愛知ではMAGI-3がフィジカルAIの学習データを蓄積していた。三菱自動車のラインが3交代制に切り替わっていた。
全部同時に動いていた。
冷めたコーヒーに手を伸ばしたが——もう飲んでいた。珍しく、空のカップを持ったままだった。




