第86話「MAGI」
時事ネタ?社会風刺?いずれにしろ、この作品はフィクションであり、実在の企業・団体・個人とは一切関係ありません。キリッ
申し訳ありません。この話は昨日85話として投稿した内容です。
2027年3月初旬。愛知。JDETA国内拠点。
ケビン・ナカムラがモニターを見ていた。
愛知USCの最小構成——1ラックが起動していた。
「——稼働確認」とケビンが静かに言った。
隣の技術者が頷いた。「ジブチとのデータリンク確立。アンコーナとの同期確認——全拠点接続完了です」
ケビンがしばらくモニターを見た。
「——3拠点が揃った」
同じ頃。アンコーナ。JDETA欧州拠点。
アンコーナUSCの最小構成が稼働していた。
山本営業担当が田中技術担当に言った。「——稼働しましたね」
「そうだ」と田中技術担当が頷いた。「ジブチ、愛知——3拠点が繋がった」
ジブチ。地下USC室。
ケビンから全拠点に通信が入った。
「——3拠点の稼働を確認しました。命名の提案があります」
黒田が振り返った。「——なんだ?」
「——MAGIです」
室内が静まり返った。
城島が止まった。「——庵野かよ!」
「——違います」とケビンが静かに続けた。「東方の三博士——メルキオール、バルタザール、カスパールです。3つの知恵が統合されることを意味します」
「——それ、エヴァが元ネタだろ!」
「——偶然の一致です」
「——絶対違う!!」
黒田が少し間を置いた後に言った。「——採用する」
「——黒田PMC代表!!」と城島が叫んだ。
「3拠点の名称を確認する」とケビンが続けた。
「——ジブチUSC(戦略・戦術):MAGI-1、コードネーム:メルキオール」
「——アンコーナUSC(商業・世界情勢解析):MAGI-2、コードネーム:バルタザール」
「——愛知USC(生産特化):MAGI-3、コードネーム:カスパール」
「——統合呼称:MAGI」
城島がしばらく黙った。「——怖いな、お前は」とケビンに言った。
「——ありがとうございます」
同じ頃。愛知。MAGI-3。
牧野が流体シミュレーションのデータを入力していた。
「——FEPA艦の船体設計シミュレーション、開始します」
MAGI-3が動いた。
双胴船18,000tの流体解析が始まった。
「——結果が出ました」と技術者が言った。
「——いつ?」
「——3秒前です」
牧野がしばらく画面を見た。「——3秒か」
「——最適な双胴船の船体形状が確定しました。30ノット時の抵抗係数が従来設計比17%減です」
牧野がケビンに送信した。「——船体設計完了しました」
ケビンから返信が来た。「——了解。三菱重工に転送します」
東京・内閣官房。
橘が城島に言った。「スマートドックの空き1/3でFEPA艦の建造を始める」
城島が資料を出した。「——FEPAタイプ-1ですね。仕様の確認をします」
「趣旨はASEV艦の国産化だ」と橘が続けた。「だが目的は迅速な現場到達と昨今の弾道ミサイルの応酬を1隻で受け止める船であることだ。建造は3隻、価格上限は1兆円、建造期間は1年強、乗員は200名までとする」
「——武装は?」
「VLS200セル——全弾SM-3。07式SUMを16セル。SSM-3を16セル。レールガン1基。レーザー砲塔16基。ゴールキーパー4基だ」
城島がしばらく資料を見た。「——VLS200セルですか。イージス艦が96セルですよ?」
「そうだ。弾道ミサイルを1隻で受け止めるんだから当然だろう」
「——戦闘システムはどうするんですか? イージスを使いますか?」
「——使わない」と橘が静かに言った。「miniMAGIでOYQ-1をエミュレーションする」
城島が止まった。「——どういうことですか?」
「もがみ型のOYQ-1の戦術情報処理プログラムをminiMAGIが完全にエミュレーションする。AESAモジュール4面——OPS-3と組み合わせてCICの大型戦域統制有機ELパネルに投影表示する。能力はイージス以上だ」
「——つまり完全国産ですか?」
「そうだ。米FMS依存からの完全脱却だ。これが最初から目指していたものだ」
城島がしばらく橘を見た。「——最初からここまで計算していたのか?」
「そうだ」
城島がため息をついた。「——機関は?」
「LM2500+×6基。三菱重工MWJ-900A発展型×6基のウォータージェット。最大30ノット」
「——燃費は?」
「悪い」と橘が静かに言った。「燃料タンクは分散して大量に積む。補給は洋上補給艦に頼る」
「——その補給艦も作るんですか?」
「そうだ」と橘が続けた。「令和6年度計画補給艦をベースに三菱重工から図面を貰う。LM2500+を2基搭載して30ノットに高速化。レーザー砲塔4基と07式SUM4セルを追加する。価格は1500億円で3隻だ」
城島がしばらく橘を見た。「——補給艦も3隻ですか」
「FEPAタイプ-1が3隻なら補給艦も3隻必要だろう」
「——合計6隻を同時建造ですか」
「スマートドックの空き1/3で十分だ」
城島がため息をついた。「——費用は?」
「FEPAタイプ-1が3兆円。補給艦が4500億円。合計約3兆4500億円だ」
「——マリーニが出すんですか?」
「資本準備金から拠出できる」
「——10兆円があるからですね」
「そうだ」
城島がしばらく橘を見た。「——MAGI-3が船体設計を3秒で終わらせたそうですね」
「そうだ」
「——3秒か」
「そうだ。これが愛知USCを最速で立ち上げた理由だ」
「——miniMAGIによる国産イージス化——最初から米FMS脱却が目標だったんですね」
「そうだ」と橘が静かに言った。「陸海空統合管制の国産化——それが最終目標だ」
城島がしばらく黙った。「——1話から計算していたのか」
橘は答えなかった。
同じ頃。ジブチ。FEPA基地。
マリーニが黒田に報告した。「FEPAタイプ-1が3隻、補給艦が3隻——合計6隻の建造が決定しました。総額約3兆4500億円です」
「そうか」
「FEPAの資本準備金から拠出します」
黒田がしばらくマリーニを見た。「——将来的に売る気か?」
マリーニが電卓を取り出した。「——SM-3を200セル搭載した18,000tの双胴艦が1兆円——世界中で欲しがるはずです」
「——いくらで売る?」
「——2兆円では安いかもしれません」
黒田が少し笑った。「——好きにしろ」
「CFOの仕事ですから」
東京・内閣官房。
城島が橘に言った。「MAGIが本格稼働した。FEPAタイプ-1と補給艦の建造が決定した。miniMAGIによる国産イージス化が動き始めた」
「そうか」
「米FMS依存からの脱却——本当にそこまで見えていたのか?」
「そうだ」と橘が静かに言った。「最初からそこが目標だった」
「——1話の深夜の報告書から?」
「そうだ」
城島がしばらく橘を見た。「——怖いな、お前は」
橘は答えなかった。冷めたコーヒーに手を伸ばした。飲んだ。やはり冷めていた。
窓の外に霞が関の春の空が広がっていた。
ジブチではMAGI-1が全海域を監視していた。アンコーナではMAGI-2が世界情勢を解析していた。愛知ではMAGI-3がFEPAタイプ-1の設計データを三菱重工に送っていた。スマートドックが新しい建造に向けて動き始めていた。
全部同時に動いていた。
冷めたコーヒーに手を伸ばしたが——もう飲んでいた。珍しく、空のカップを持ったままだった。




