第85話「第二大隊」
時事ネタ?社会風刺?いずれにしろ、この作品はフィクションであり、実在の企業・団体・個人とは一切関係ありません。キリッ
失礼しました。85話「MAGI」は86話でした修正して85話を投稿します。8/3 19:40
22027年2月中旬。ジブチ。FEPA基地。
タジューラ湾に50隻が整列していた。
はやぶさ改第二大隊の完納式だった。
黒田が艦列を見渡した。「——100隻になったな」
空自OBの副官が頷いた。「第一大隊がホルムズ海峡専従、第二大隊がアデン湾専従——本格的な2海域ローテーション体制が確立しました」
「Link22の統合確認は?」
「全100隻、確認済みです」
同じ頃。マリーニが執務室で電卓を叩いていた。
「——護衛業務が10セットから20セット以上に拡大。月60億円以上になります」
マリーニが電卓を置いた。少し笑った。
「——順調ですね」
同じ頃。国連軍フランス武官のルノー中佐がマリーニの執務室をノックした。
「——マリーニCFO、少しよろしいですか?」
「どうぞ」
ルノー中佐が入ってきた。「——EC725についてご提案があります」
マリーニが少し間を置いた。「——城島様がAW101の折衝を始められたと伺っています」
ルノー中佐が少し驚いた顔をした。「——よくご存知で」
「CFOの仕事ですから」とマリーニが静かに笑った。「納期次第ですね。買うなら別部隊で動かすので20機ほど。半年で何機納入できますか?」
「本国に照会しますが——本国陸軍向けの生産品と少数の部隊配備分を合わせてでも10機はお約束できると思います」
「1機3000万ドルなら即決しますよ?」
ルノー中佐が少し間を置いた。「——今、本国に確認します」
スマートフォンを取り出して電話した。しばらく待った。
「——半年で10機、残り10機は2028年4月納期であれば3000万ドルで良いとの回答です」
マリーニが頷いた。「——わかりました。では、総額6億ドルの契約書を作成して、3億ドルを前払いで即振り込みますので、後で振込先をお願いします」
ルノー中佐がしばらくマリーニを見た。「——即決ですか?」
「CFOの仕事ですから」
ルノー中佐が執務室を出た後、スマートフォンを取り出してパリに電話した。「——成立しました。3億ドルの前払いです」
電話の向こうでしばらく沈黙があった。「——本当か?」
「——本当です」
「——マリーニCFOとはどんな人物だ?」
ルノー中佐が少し間を置いた。「——怖い人です」
同じ頃。城島がAW101の折衝の途中でマリーニからメッセージを受け取った。
「——EC725、6億ドルで契約しました。3億ドル前払い済みです」
城島がしばらく画面を見た。
橘に転送した。
橘からすぐに返信が来た。「——予定通りだ」
城島がため息をついた。「——AW101はどうするんだ?」
橘「——続けてくれ。両方買う」
城島「——マリーニに最初から計算されてたな」
橘「そうだ」
夕方。モスバーガー。
テーブルがほぼ埋まっていた。第二大隊完納の日で隊員が多かった。
ケイラが一人でテリヤキバーガーを食べていた。エマとサラはジーンとプールに行っていた。久しぶりの一人時間だった。
田中が入ってきた。
満席だった。
田中がトレイを持ったまま立っていた。
ケイラが顔を上げた。「——どうぞ」と向かいの席を示した。
「——すみません」と田中が座った。「——ありがとうございます」
しばらく二人で食べていた。
「——暑いですね」と田中が言った。
「ジブチですから」とケイラが笑った。
「——そうですね」田中も笑った。「——鹿島建設の田中です。ここの建設を担当しています」
「——ケイラ・ドナヒューです。FEPAの海上警備部門です」
「——アメリカの方ですか?」
「そうです」ケイラが少し間を置いた。「——バツイチで娘が2人います。エマが10歳、サラが8歳」
「——そうですか」と田中が少し驚いた顔をした。
「将来は日本に移住したいと思ってます。子供たちに安全な環境で育ってほしくて。FEPAで日本人と一緒に働いて——日本って素敵な国だなと思って」
田中が少し照れた顔をした。「——日本がいいと思ってくれるんですか。恥ずかしながら私は独身なんですが——娘さんですか。かわいいでしょうね」
「——めちゃくちゃかわいいですよ。今プールにいますけど」
「——いいですね」
二人がしばらく黙って食べていた。
「——田中さんはいつまでジブチにいるんですか?」
「——さあ」と田中が少し笑った。「気づいたらここに根を張ってた感じで」
ケイラも笑った。「——私もです」
窓の外からマリーニが見ていた。
「——え? あの子?」
しばらく見ていた。
「——いや、あの子はまだ4年は居るわね! いいわよいいわよ! 面白くなってきた!!」
マリーニがスマートフォンを取り出した。
保育園の設計メモを開いた。
東京・内閣官房。
城島が橘に報告した。「第二大隊が完納した。100隻体制になった」
「そうか」
「EC725が6億ドルで即決された。AW101の折衝も続けている」
「そうか」
「マリーニが最初から計算していたな」
「そうだ」
「それと——田中本部長がモスバーガーでケイラ少佐と相席したそうだ」
橘が少し間を置いた。「——誰から聞いた?」
「マリーニからだ。『面白くなってきました』と」
橘がしばらく黙った。「——マリーニは本当に——」
「怖いな」と城島が続けた。「——お前と同じくらい先を読んでる」
「そうだ」と橘が静かに言った。「——採用して正解だった」
城島がため息をついた。「——怖いな、二人とも」
橘は答えなかった。冷めたコーヒーに手を伸ばした。飲んだ。やはり冷めていた。
窓の外に霞が関の冬の空が広がっていた。
ジブチでははやぶさ改100隻がタジューラ湾に並んでいた。EC725の契約書が作られていた。田中とケイラがモスバーガーで話していた。マリーニが保育園の設計メモを開いていた。
全部同時に動いていた。
冷めたコーヒーに手を伸ばしたが——もう飲んでいた。珍しく、空のカップを持ったままだった。




