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第83話「An-225B」

時事ネタ?社会風刺?いずれにしろ、この作品はフィクションであり、実在の企業・団体・個人とは一切関係ありません。キリッ


2027年1月下旬。ジブチ国際空港。


An-124が滑走路に降り立った。


巨大な機体の貨物ハッチが開いた。


最初にランドクルーザー300が1台降りてきた。続いて冷房強化軽トラック30台が次々と出てきた。


現場管理者20名、営業積算部10名、事務職10名——総勢40名が降りてきた。全員がジブチの熱気に一瞬止まった。


「——あつい」と誰かが言った。


「——当たり前だ」と誰かが答えた。


そして最後に——


まるで欧州旅行に向かう格好をした、場違いな二人が降りて来た。


黒木玲子。三十代後半、スーツ姿、サングラス。視線が鋭かった。


大島裕子。二十代中盤、清楚系、おっとりした顔立ち。


「あついよ~」と大島が小声で言った。


「——我慢しなさい」と黒木が小声で返した。


田中本部長が出迎えた。「——皆さん、よく来ました。長旅でお疲れ——」


その時、田中の隣でマリーニが「ふ~ん彼女たちが・・・。」呟きながら静かに動いた。


誰も気づかない間に——


ランドクルーザー300の運転席に乗り込んでいた。


「黒木さん、大島さん、田中本部長——どうぞ」


三人が乗り込んだ。エンジンがかかった。


ランクルが走り出した。




砂漠の滑走路に冷房強化軽トラック30台と男たち40名が取り残された。


先任の現場管理者が周囲を見渡した。砂漠が広がっていた。太陽が容赦なく照りつけていた。


「——え? 俺らは?」


誰も答えなかった。


「——あのランクル、今の女の人が運転してったぞ」


「——誰だあの人?」


「——さあ?」




その時、木村技術担当が小走りでやってきた。「——皆さん、お疲れ様です!ご案内します!」


先任が木村を見た。「——あの、移動手段は?」


木村が軽トラを見た。「——冷房強化軽トラックが30台あります」


「——荷台に乗るんですか? 今何度ですか?」


「——48度です」


全員が黙った。


「——死にますね」


「——そうですね」


先任がジムニーを指差した。「——あれは?」


「——4人乗りです」


「——40人いますよ?」


木村がスマートフォンを取り出してマリーニに電話した。「——マリーニさん、鹿島の皆さんの移動手段が——」


「——軽トラは鹿島建設の社有車でしょう? 割り当てて自分で運転させなさい」


「——でも荷台は48度で——」


「——運転席には冷房があるでしょう? 30台あれば30人乗れます。残り10人はジムニーで2往復すればいいわ」


「——了解しました……」


電話が切れた。


木村が先任を見た。「——軽トラは御社の社有車なので、皆さんで運転してください」


先任がしばらく軽トラを見た。「——免許持ってない人もいますよ?」


「——何人ですか?」


「——10人くらい」


「——ジムニーで2往復します」


先任がため息をついた。「——分かりました」





FEPAホテル。


ランクルが到着した。


マリーニが黒木と大島をエントランスに案内した。


実は、FEPA幹部と田中本部長は、国連軍指揮官の宿舎としてFEPAホテルを割り当てた際に、住居を宿舎個室からFEPAホテルに居を移していた。


今まで使用していた個室は各部隊司令官へ割り当てたのだ。


どうやら、秘書の二人(鹿島建設が田中をジブチに留めおくためのハニートラップ要員と思われる)にはマリーニの独断でFEPAホテルに部屋をあたえるようだ。


完全冷房の空気が包んだ。大理石の床、間接照明、熱帯植物——


「——ここはジブチですか?」と大島が目を丸くした。


「そうです」とマリーニが笑顔で答えた。「屋内植物園と大浴場もございます。FEPAホテルへようこそ」


黒木がエントランスを見渡した。「——思っていたより立派ですね」


「熊谷組の施工です」


田中本部長が後ろからついてきながら言った。「——あの、ランドクルーザーは鹿島の社有車なんですが」


マリーニが振り返った。「——私は最大の顧客のCFOです」


「ったく——」





翌日。田中本部長の執務室。


田中チームが積算を始めていた。


マリーニが資料を広げていた。


「——まずFEPAからの依頼です。ヘリ格納庫・駐機場・An-124格納庫——」


「——待ってください。順番に行きましょう」と田中が手帳を取り出した。「An-124の格納庫から始めます。大クラスで何棟必要ですか?」


「25棟でお願いします」


「25棟×50億で1250億だな。次にヘリの格納庫と駐機場——EC725の諸元を誰か調べてくれ!」


部下A「全長約20mなんで、30m×30m+通路10mって感じでいいんじゃないでしょうか? 40m×40mですね」


田中「そうすっと、40機だから4列×10列で160m×400m? 200m×500mでいいだろ」


部下A「ちょうど10000m²ですねw」


田中「10000×10万円だな、経費込みで15億。格納庫が大4つで入るか?」


部下A「大は100m×100mですから、5機のレーンを3つ取れますね」


田中「じゃ、大丈夫だな。ヘリ関係で215億、An-124の格納庫が1250億だ」




その時——


大島裕子がキャミソールに短パン姿でお茶を持って入ってきた。


「——田中本部長、お茶をどうぞ」


田中がしばらく大島を見た。「——その恰好は……」


「ジブチは暑いので」と大島がにっこり笑った。


田中が視線を手帳に戻した。「——そうですよね。ジブチですもん暑いですよね。ありがとう」


マリーニが資料を見たままだった。


内心——(いいわよ!ファイト!)


「——ドローンの製造工場は?」とマリーニが続けた。




田中「設備ラインは知らんよ。100億で大クラスの建屋を2つ作って50億で2階構造化で150億じゃないか? 設備は内容が分からんとJDETA手配じゃないか?」


木村が頷いた。「——設備ラインはJDETAで手配します」


田中がノートをまとめた。「FEPAさんへの請求が1465億、JDETAさんへの請求が建屋150億で設備は別途ですね。それぞれ別々に契約書を作ってください」


マリーニが電卓を叩いた。「——FEPA分の4割先払いは586億円ですね」


「そうです」


木村が続けた。「——JDETA分の4割は60億円ですね」


「そうです」


田中がため息をついた。「——それぞれ別々に振り込んでください!!」


マリーニが契約書を取り出した後、スマートフォンを取り出して静かにメッセージを送信した。




同じ頃。FEPA全部門・JDETA・技本・鹿島建設・国連関係機関・各国駐屯地——全ての端末に通知が届いた。



発信:FEPA CFO アレッサンドラ・マリーニ


「鹿島建設秘書官2名にナンパ、求婚、個人的交流を迫った者は官職を問わず、ジブチ拠点からの追放処分とします。尚、連絡便に乗れるなんて夢は見ないように……」


最下段に極小フォントで一行追加されていた。


「田中本部長にはこの通知を共有しないこと」




ジブチ基地中で同じ反応が起きた。


「——怖い」


「——誰が出したんだ?」


「——マリーニCFOだ」


「——逆らえないな」


国連軍士官のフランス軍大佐も通知を見た。「——民間PMCのCFOにここまで言われるとは思わなかった」


黒田が通知を見た。「——マリーニ」


「はい」


「——お前は本当に——」


「CFOの仕事です」





同じ頃。ジブチ。航空機版スマートドック。


格納庫の中に巨大な骨格が横たわっていた。


An-225Bの建造が始まっていた。


JDETAの技術者がモニターを見ながら言った。「——胴体フレームの第一ブロック、組み上がりました」


隣の技術者が頷いた。「翼の接合部分の精度確認は?」


「許容範囲内です。西側エンジンの搭載架台も完成しています」


格納庫の天井には大倉製作所のクラブトロリクレーン45tが左右中央に4基ずつ設置されていた。USC4ラックが建造データをリアルタイムで管理していた。


木村が田中本部長に言った。「An-225Bの建造、順調です。An-124の量産も並行して進んでいます。目標30機に向けて——」


田中がしばらく格納庫を見渡した。


「——ムリーヤが帰ってくるんだな」と田中がつぶやいた。


「そうですね」


田中が少し間を置いた。「——ウクライナへの約束だ」





東京・内閣官房。


城島が橘に報告した。「An-225Bの建造が始まった」


「そうか」


「ムリーヤへの約束が動き始めたな」


「そうだ」


「田中本部長、早速マリーニに捕まったそうだ。ヘリ格納庫、An-124格納庫、ドローン工場——全部同時に依頼されたらしい」


橘が少し間を置いた。「——マリーニらしいな」


「『防護壁が終わったら手隙になっちゃうでしょ』と言ったそうだ」


「そうか」


「それと——マリーニが基地全体に通知を出したそうだ」


「——なんの通知だ?」


「鹿島建設の秘書2名に近づいた者はジブチ追放と。田中本部長だけ通知を共有しないよう最下段に書いてあったそうだ」


橘がしばらく黙った。「——怖いな、あの人は」


城島が止まった。「——お前が怖いと言うか」


「たまにはな」


城島がため息をついた。「——ランクルも奪われたそうだ」


「そうか」


「『私は最大の顧客のCFOです』と言ったらしい」


橘が少し間を置いた後に静かに言った。「——正論だな」


城島がため息をついた。「——怖いな、二人とも」


橘は答えなかった。冷めたコーヒーに手を伸ばした。飲んだ。やはり冷めていた。


窓の外に霞が関の冬の空が広がっていた。


ジブチではAn-225Bの骨格が少しずつ形になっていた。田中本部長が契約書にサインをしていた。マリーニが電卓を叩いていた。大島裕子がお茶を運んでいた。男たち40名が軽トラを運転していた。


全部同時に動いていた。


冷めたコーヒーに手を伸ばしたが——もう飲んでいた。珍しく、空のカップを持ったままだった。

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