第82話「新年」
時事ネタ?社会風刺?いずれにしろ、この作品はフィクションであり、実在の企業・団体・個人とは一切関係ありません。キリッ
2027年1月1日。テレビ。
高道香苗が国民に向かって語りかけていた。
「昨年は皆様のご支援のおかげで、様々な課題に取り組むことができました。本年4月から2年間の食品軽減税率を0%に引き下げます。昨年の閣議決定でも多くの諸先輩方、国民の皆様から財源の裏付けが無いとのご指摘を受けておりましたが、現在、政府FMS特会に約4兆円の余剰資金がございますのでプライマリーバランスは悪化しません。2年後については総合的な収支を検討の上、検討する所存でございます」
翌日。朝のニュース番組。
キャスター「高道総理は年初演説において、食料品軽減税率の財源裏付けについて明言しました。スタジオには自民党広報本部長の佐藤貴子さんをワイプでお迎えしています。佐藤さん、よろしくお願いします」
画面の隅に佐藤貴子の顔が映った。「——よろしくお願いします」
解説者「FMS特会ですか……昨年閣議決定で設立された特別会計予算ですね。昨今の中東、ウクライナ戦線で防衛装備品の販売が好調なのでしょう」
左派コメンテーター「軍事兵器を売ったお金で税金を安くして——子供になんて説明するんですか!」
右派コメンテーター「いや、攻撃では無く防衛兵器しか売っていませんし、実際雇用促進と賃金上昇に寄与しているじゃないですか」
中道コメンテーター「でもFMS特会の用途は以前国会で産業育成に使うと言っていたような。むしろ法人税を上げるべきじゃないですか?」
キャスター「佐藤さん、いかがでしょうか?」
佐藤が画面の隅から静かに口を開いた。「皆さんの言われることはごもっともですが、法人税は少なくとも2年間は上げません。これは折角の好景気に水を差してしまう事。30年間控えられてきた設備投資のAI活用設備への転換などに企業側も非常に資金が必要で、経営陣の経営判断を鈍らせる恐れがあります。また、これによって現在上昇基調の賃金にも悪影響が及ぶ恐れがあります」
左派コメンテーターが続けた。「でも兵器を売ったお金で——」
「防衛装備品です」と佐藤が静かに訂正した。「実際に雇用が増え、賃金が上がり、地方経済が回っています。茨城の飲食業が前年比132%増というデータもございます。国民の生活が豊かになることが最優先です」
中道コメンテーターが続けた。「法人税を上げない代わりに何か措置はあるんですか?」
「はい」と佐藤が続けた。「昨年に遡って設備投資の一括償却金額を任意に選択できる時限措置を設けます。法人税率は据え置きですが、積極的に設備投資をした企業には実質的な優遇となります。片貝財務相の提案です。企業の集中投資を促し、産業構造の転換を加速させる狙いがあります」
中道コメンテーターが頷いた。「——なるほど。法人税を上げる代わりに投資を促すということですね」
「そういうことです」
「2年後はどうなるんですか?」とキャスターが続けた。
「——総合的に検討します」
「具体的には?」
「その頃にはHighlandersの量産稼働で産業構造の変革が始まります。日産の立て直し、モビリティ環境の変化——日本経済の土台が今とは全く違う状況になっているはずです。その時点での最適解を選びます」
キャスターがしばらく黙った。「——つまり軽減税率を恒久化する気ですか?」
佐藤が静かに笑った。「——総合的に検討します」
「最後に——この一連の政策について、何かまとめてお話しいただけますか?」
佐藤が少し間を置いた。「この一連のプロジェクトを、自民党広報本部として『日本転生計画Rev1』と呼称します。防衛産業の振興、設備投資の促進、産業構造の転換——これらは全て、日本を根本から作り直す計画です」
「——Rev1ということは、Rev2もあるんですか?」
佐藤「——それは次の世代が決めることです」
【掲示板】2027年1月・新年スレ
1: 2027/01/XX(金) 08:11:22 ID:Xk7mNpQ3
食料品の税金0%になるのか!!
2: 2027/01/XX(金) 08:12:44 ID:mR8vwZ09
>>1 FMS特会の余剰が4兆円って……どんだけ売れてんだ
3: 2027/01/XX(金) 08:13:33 ID:Tb3nHsW1
>>2 09式1730両、はやぶさ改、弾薬……全部FMSで売りまくってるからな
4: 2027/01/XX(金) 08:14:11 ID:nQ0vXc7R
左派「兵器で税金安くするな」ってまた言ってるけど——防衛兵器だし雇用も上がってるやん
5: 2027/01/XX(金) 08:15:44 ID:zW4qRm5S
佐藤広報本部長のワイプ出演、強かったな。左派コメンテーターが完全に黙ってたw
6: 2027/01/XX(金) 08:16:55 ID:pL2aKj8F
>>5 「防衛装備品です」って静かに訂正するの怖すぎるwww
7: 2027/01/XX(金) 08:17:33 ID:Xk7mNpQ3
「総合的に検討します」を2回言ったの絶対恒久化する気だろwww
8: 2027/01/XX(金) 08:18:44 ID:mR8vwZ09
「日本転生計画Rev1」……なんか来たな
9: 2027/01/XX(金) 08:19:55 ID:Tb3nHsW1
>>8 Ver1って30年前って言ってたけど何だ?
10: 2027/01/XX(金) 08:20:33 ID:nQ0vXc7R
>>9 大平正芳や中曽根の頃の話だろ。それをVer2って言い切るのが凄い
11: 2027/01/XX(金) 08:21:22 ID:8vYnKp2A
栃木から来ました。うちの工場も3交代継続中です。食料品0%は家計に助かります
12: 2027/01/XX(金) 08:22:11 ID:zW4qRm5S
>>11 親父さんはなんて言ってた?
13: 2027/01/XX(金) 08:23:44 ID:8vYnKp2A
>>12 「高道さん、やるじゃないか」って
14: 2027/01/XX(金) 08:24:55 ID:Toshi_k9
見えないとこで動いてた人間の計算通りだよ。最初から4兆円になるのが分かってたんだろ。日本改造計画Ver2……ついにオープンにしてきた
15: 2027/01/XX(金) 08:25:33 ID:pL2aKj8F
>>14 お前、最初からそう言ってたよな
16: 2027/01/XX(金) 08:26:22 ID:Toshi_k9
>>15 さあなw
17: 2027/01/XX(金) 08:27:11 ID:8vYnKp2A
親父が「ついに来た」って言ってた
18: 2027/01/XX(金) 08:28:44 ID:nQ0vXc7R
>>17 親父さん、毎回正しいなw
同じ頃。ジブチ。JDETA現地事務所。
田中現場所長のスマートフォンが鳴った。本社からだった。
「田中くん、今から辞令を読み上げる」
田中が少し身構えた。「——はい」
「鹿島建設株式会社、本社取締役、海外事業本部長兼中東アフリカ方面支店長を命ずる。なお、海外事業本部及び中東アフリカ方面支店はジブチのJDETA拠点内に正式設置する」
田中がしばらく黙った。「——取締役ですか?」
「そうだ。現場から直接取締役というのは異例だが——ジブチでの実績を評価した」
「本社より現場管理者20名、営業積算部10名、事務職10名、秘書室より秘書2名、運転手1名を配備する。ランドクルーザー300を1台、冷房強化軽トラック30台も用意する。接待交際費は支店が月額50万円、事業本部が月額300万円だ」
「——秘書が2名?」
「そうだ。優秀な人材を選んだ」
電話が切れた。
田中がしばらくスマートフォンを見たままだった。
ドアをノックする音がした。黒田が入ってきた。
「——田中さん、おめでとうございます」
田中が止まった。「——知っていたんですか?」
「まあな」
「マリーニさんも?」
「そうだ」
田中がため息をついた。「——いつから?」
「3ヶ月前から」
「——なんで教えてくれなかったんですか?」
「驚く顔が見たかった」と黒田が静かに笑った。
田中がしばらく黒田を見た後に言った。「——創業者の椅子はまだ要求します」
「——検討する」
「検討じゃなくて約束してください!!」
同じ頃。東京・内閣官房。
城島が橘に言った。「ウクライナから提案が来た」
「なんだ?」
「弾薬費との相殺として、JDETAにドローン技術の買い取りを提案してきた。FPVドローンの量産技術・ソフトウェア・実戦データだ。ウクライナは3年間実戦で磨いてきた。世界最高水準だ」
「JDETAはどう判断した?」
「国内ではなく——ジブチ拠点を製造と技術開発拠点とすることを決定した。建設費は1000億円だ」
橘が頷いた。「田中本部長に依頼してくれ」
「——辞令が来たばかりなのにw」
「仕事は待ってくれない」
城島がため息をついた。「ウクライナのドローン技術がジブチで量産化されたら——」
「そうだ」と橘が静かに言った。「世界が変わる」
同じ頃。防衛省。
野中誠一が城島に報告した。「技本ジブチ開発拠点から報告が来ました。レールガンモジュールの完成と、レーザーターレットの完成を確認しました。今後、量産化ラインを本国に設置する予定です」
城島が橘に転送した。
橘からすぐに返信が来た。
「第二期はやぶさ改の1小隊に2門ずつ試験搭載。第三期は35mmをレーザーに換装。量産化ラインの設置を急いでくれ」
野中が城島に言った。「——橘参事官は技本の状況を全部把握しているんですか?」
城島がため息をついた。「——そうだ。なぜか全部知っているんだよな~」
「——怖いですね」
「そうだ」
東京・内閣官房。
黒田から城島に電話が入った。
「城島、一点確認したい」
「なんだ?」
「T-5の納入時に——空対空ミサイル一式、無誘導爆弾、誘導爆弾、対艦ミサイルの納入手配と、予備弾薬の価格表を要求したい」
城島が少し間を置いた。「——練習機に何を積む気だ?」
「練習ではないからだ」
「——了解した。三菱重工と技本に確認する」
電話が切れた後、城島が橘に短いメッセージを打った。「黒田がT-5の武装一式を要求してきた」
橘からすぐに返信が来た。「当然だろう」
城島がため息をついた。「——最初からそのつもりだったのか」
東京・内閣官房。
城島が橘の部屋に入ってきた。「新年から全部動き始めたな」
「そうだ」
「田中本部長が取締役になった。ウクライナのドローン技術を買う。レールガンとレーザーが完成した。T-5の武装を要求してきた。佐藤貴子が『日本転生計画Rev1』と命名した」
城島「日本転生Rev1……佐藤さん、ネーミングセンスあるな」
橘「そうだな、佐藤さんのネーミングセンスには驚いたがな」
城島が止まった。「——お前が驚くのか?」
「——たまにはな」
「全部同時に動いている」
「そうだ」
城島がしばらく橘を見た。「——最初からここまで計算していたのか?」
橘は冷めたコーヒーを一口飲んだ。「さあな」
「——怖いな、お前は」
橘は答えなかった。窓の外に霞が関の冬の空が広がっていた。
2027年が始まっていた。
冷めたコーヒーに手を伸ばしたが——もう飲んでいた。珍しく、空のカップを持ったままだった。




