第81話「年末」
時事ネタ?社会風刺?いずれにしろ、この作品はフィクションであり、実在の企業・団体・個人とは一切関係ありません。キリッ
2026年12月下旬。ジブチ。FEPA基地。
マリーニが黒田の執務室に入ってきた。資料を広げた。
「2026年の収益をまとめました」
黒田が振り返った。
「掃海業務——第一・第二艦隊合わせて月81億円。10月から本格稼働で3ヶ月分で243億円。海上護衛業務——10セット展開で月30億円、3ヶ月で90億円。空輸業務——月16億円、3ヶ月で48億円。国連からの委託料——署名から3ヶ月で45億円。合計426億円の収益です」
「コストは?」
「人件費・燃料・消耗品を合わせて約290億円です。差し引き136億円の黒字——FEPAは設立から約9ヶ月で初めて黒字に転換しました」
黒田がしばらく黙った。「——そうか」
「それと——」マリーニが続けた。「国連関係機関の駐留が本日から開始しました。UNIC、UNDP、UNTSO、国連軍司令部——合わせて拠点事務所4つです」
「契約金は?」
「5000万円を回収しました。月額は宿舎と拠点事務所4つで4000万円です」
黒田が少し間を置いた。「——意外と安くしたな」
「意図的です」とマリーニが静かに言った。「安く貸す代わりに——難民支援、医療支援、復興支援の業務受託が取れます。これらは別途高額で請求できます。それに——彼らが飲食街やFEPAホテルを使えば使うほど収益になります。宿舎と事務所を安く貸しても、どのみち損はしません」
「——損して得を取るということか」
「そうです。国連という看板は何物にも代えがたい」
黒田が頷いた。「——よく考えた」
「CFOの仕事です」
マリーニが新しい資料を出した。
「もう一点、提案があります」
「なんだ?」
「国連の支援物資輸送のパイと、周辺国への医療支援など多岐の業務受注が予想されます。輸送ヘリ部隊を設けるべきです。AW101を20機——30億円×20機で600億円です。最初の5機は中古でもいいので自衛隊から引っ張って、残りは新造を日本政府から発注して貰いましょう。どうせ20機発注するでしょうからイタリアへのアピールにもなります」
黒田がしばらくマリーニを見た。「——お前、イタリア人だったな」
「そうです」とマリーニが続けた。「それとフランスが口を挟んでくるはずです」
「——なぜだ?」
「国連軍の指揮官がフランス軍大佐だからです。必ずEC725を売り込んできます」
「EC725とは?」
「エアバスヘリコプターズのEC725です。空中給油対応で積載量はチヌークと変わらない。セールスが苦戦しているので値引き交渉の余地があります。20機で50億円弱——1000億円です」マリーニが少し間を置いた。「実はこちらが本命です」
「——AW101はどうなる?」
「フランスが口を挟んできたら——両方買います」
黒田が少し驚いた顔をした。「——両方?」
「AW101とEC725で用途を分けられます。挟んでこなかったら——」マリーニがしばらく間を置いた。「国連軍指揮官のフランス軍大佐にコソッと漏らしても良いと思っています」
黒田がしばらくマリーニを見た。「——お前は本当に——」
「CFOの仕事です」
黒田が頷いた。「——城島に連絡する。AW101の中古5機から始めてくれ」
「——承知しました」マリーニが資料をしまいながら続けた。「それと——」
「まだあるのか?」
「EC725とAW101のハンガーが必要になります」
黒田がしばらく黙った後に言った。「——田中さんにはいつ言う?」
マリーニが少し笑った。「——楽しみにしておきます」
同じ頃。屋内植物園。
グランドカバーが青々と広がっていた。低木が根付いていた。小さな噴水が水音を立てていた。中高木の植林作業はまだ続いていたが、植物園らしい空間が出来上がりつつあった。
ケイラとエマとサラとジーンが植物園の噴水の前に座っていた。
「——砂漠の中のクリスマスね」とジーンが言った。
「そうですね」とケイラが笑った。
「去年のシカゴより暖かいわね」
「ジブチですから」
エマが噴水を覗き込んでいた。「ここで写真撮りたい」
「撮ろう」
サラが植物の葉を触りながら言った。「ママ、ここが好きになってきた」
「そう?」
「うん。砂漠なのに緑があって——なんか不思議」
ケイラが噴水を見た。3ヶ月前、ここに連れてこられるか不安だった。でも——来てよかった。
「——私も好きになってきたよ」とケイラは静かに言った。
ジーンがケイラの肩に手を置いた。「——いい仕事をしてるわよ」
ケイラがしばらく噴水を見た。「——ありがとうございます」
同じ頃。ホルムズ海峡。隼11番艦の機関室。
ディミトリが計器を見ながらスマートフォンを取り出した。
ウクライナの母に電話した。
「——ディミトリ? 生きてるの?」
「生きてる」
「クリスマスよ。どこにいるの?」
「ホルムズ海峡だ」
「——どこよそれ」
「アラビア半島の南側だ。暖かい」
電話の向こうで母が少し笑った。「あなた、昔から変なところに行くのよね」
「そうかもしれない」
「元気そうで良かった。ドネツクで足を怪我して——もう海には戻れないと思ってたから」
「戻れた」とディミトリが静かに言った。「LM2500の音を、また聞けた」
「——それが一番大事なのね、あなたには」
「そうだ」
電話が切れた。ディミトリは計器を見たままだった。LM2500が力強く回っていた。
同じ頃。FEPA基地の食堂。
ミハイロが手帳を見ていた。
「——メリークリスマス」と日本語で練習した。
ジェイクが隣で笑った。「——上手いぞ」
「ほんとうですか?」
「うん。でも——クリスマスって英語だから日本語じゃないぞ」
ミハイロが止まった。「——え?」
「日本語で言うなら『聖誕節おめでとう』みたいな感じかな。でも日本人はみんな英語でメリークリスマスって言うけど」
「——じゃあ日本語で言っているんですか? 英語で言っているんですか?」
「——両方じゃないか?」
ミハイロがしばらく考えた。「——難しいですね、日本語」
「そうだな」とジェイクが笑った。「俺もよく分からんw」
ミハイロが手帳に「メリークリスマス(日本語でも英語でもある)」と書き込んだ。
【掲示板】2026年12月・年末回顧スレ
【総括】2026年を振り返るスレ Part1
1: 2026/12/XX(土) 23:11:22 ID:Xk7mNpQ3
2026年、いろいろあったな
2: 2026/12/XX(土) 23:12:44 ID:mR8vwZ09
09式がキンジャール撃墜したのが一番衝撃だった
3: 2026/12/XX(土) 23:13:33 ID:Tb3nHsW1
>>2 弾幕戦術って発想が凄かった。直撃じゃなくて弾子の雲を置くって
4: 2026/12/XX(土) 23:14:11 ID:nQ0vXc7R
>>3 AESAで軌道予測してLink22で15両が連携——設計した人間が天才だろ
5: 2026/12/XX(土) 23:15:44 ID:zW4qRm5S
国連中東平和維持軍の決議も驚いた。フランスが提案してドランプが「お情けはいらん」で賛成するとは
6: 2026/12/XX(土) 23:16:55 ID:pL2aKj8F
>>5 デローニの「中間選挙の時期ですよね」が効いたw
7: 2026/12/XX(土) 23:17:33 ID:Xk7mNpQ3
工場の給料が上がったのが一番身近な変化だな
8: 2026/12/XX(土) 23:18:44 ID:8vYnKp2A
栃木から来ました。うちの工場、年収が1.5倍になりました。親父も喜んでます
9: 2026/12/XX(土) 23:19:55 ID:nQ0vXc7R
>>8 また来たw 親父さんは今年も正しかったか?
10: 2026/12/XX(土) 23:20:33 ID:8vYnKp2A
>>9 「日本、やってるな」って毎回言ってます
11: 2026/12/XX(土) 23:21:22 ID:Toshi_k9
見えないとこで動いてた人間がいたんだよ。今年一年
12: 2026/12/XX(土) 23:22:11 ID:zW4qRm5S
>>11 お前、今年最初から言ってたよな。「見えないとこで動いてる人間がいる」って
13: 2026/12/XX(土) 23:23:44 ID:Tb3nHsW1
>>12 最初は信じてなかったけどw 今は信じる
14: 2026/12/XX(土) 23:24:55 ID:pL2aKj8F
来年はどうなるんだ?
15: 2026/12/XX(土) 23:25:33 ID:Toshi_k9
>>14 まだ動いてる。見えないとこで
16: 2026/12/XX(土) 23:26:22 ID:Xk7mNpQ3
>>15 何が動いてるんだ?
17: 2026/12/XX(土) 23:27:11 ID:Toshi_k9
>>16 さあなw でも——来年も面白いことになると思うぞ
18: 2026/12/XX(土) 23:28:44 ID:8vYnKp2A
親父が「来年も高道さんに入れる」って言ってた
19: 2026/12/XX(土) 23:29:55 ID:nQ0vXc7R
>>18 親父さん、毎回正しいなw
20: 2026/12/XX(土) 23:30:33 ID:Toshi_k9
>>19 その親父さんに一票
東京・内閣官房。
橘が窓の外を見ていた。
霞が関の冬の夜が広がっていた。
2026年が終わろうとしていた。
1月の深夜の報告書から始まった。09式の設計図が一枚あっただけだった。
今はジブチに基地があった。FEPAが黒字になった。国連が決議を通した。茨城の飲み屋街が賑わっていた。工場の給料が上がっていた。
全部同時に動いていた。
冷めたコーヒーに手を伸ばした。飲んだ。やはり冷めていた。
「——来年も、見えないとこで動き続けるか」とつぶやいた。
珍しく、独り言だった。




