第72話「決議」
時事ネタ?社会風刺?いずれにしろ、この作品はフィクションであり、実在の企業・団体・個人とは一切関係ありません。キリッ
2026年9月下旬。ジブチ。タジューラ湾。
掃海母艦「うらが」が湾内にゆっくりと入ってきた。続いて「ぶんご」が姿を現した。その後ろにあわじ型4隻、すがしま型5隻——合計9隻の掃海艇が整然と並んでいた。
桟橋に黒田が立っていた。マリーニが隣に立っていた。
「——来ましたね」とマリーニが静かに言った。
「そうだ」
黒田のスマートフォンが鳴った。田中現場所長からだった。
「黒田PMC代表、掃海母艦はどこに停めるんですか? 岸壁まだできてません!!」
「仮設桟橋を使え」
「仮設桟橋の耐荷重が——」
「何トンだ?」
「2000トンです! うらが型は5000トン超ですよ?!」
黒田が少し間を置いた。「——城島に連絡する。仮設増設を急いでくれ」
「ったく——」
電話が切れた。
マリーニが少し笑った。「田中現場所長、毎回大変ですね」
「そうだ」
翌日。引き渡し式が行われた。
海上自衛隊の掃海隊司令が黒田の前に立った。
「——引き渡します」
「——受け取ります」
それだけだった。書類にサインをした。
自衛隊員たちが掃海艦艇から降りてきた。代わりにFEPAの掃海部門要員が乗り込んでいった。
Link22の調整ランプが次々と点灯した。
第一艦隊と第二艦隊が正式に発足した。
数日後。掃海部門司令官の大佐が黒田に報告した。
「Link22の統合確認が完了しました。第一艦隊・第二艦隊ともに出動準備が整っています」
「ホルムズ海峡への出動はいつ出来る?」
「48時間以内に出動可能です」
「——出動してくれ」
「了解しました」
同じ頃。フランス。G7緊急首脳会議。
フランス大統領が口を開いた。「中東の現状について提案があります。イランとイスラエルの停戦は一時的なものに過ぎません。根本的な解決なしには終結できない戦争が続くだけです。今こそ国連の枠組みで恒久的な平和維持の仕組みを作るべきです」
ドランプが腕を組んだまま黙っていた。
「陸上は各国の現地軍と米軍が担当します」とフランス大統領が続けた。「海上はFEPAが担当します。米軍指揮官を受け入れます。米国主導の平和維持軍として構いません」
ドランプがしばらく黙ったままだった。
その時、デローニが口を開いた。「少し確認させてください」
「どうぞ」
「アメリカは中間選挙の時期ですよね?」デローニが静かに続けた。「ここで一旦精算しないと不味いんじゃないですか?」
室内が静まり返った。
ドランプがしばらくデローニを見た後に口を開いた。「——核査察が条件だ!終戦後、イランの核査察を責任を持って受け入れさせるなら賛成する。それと——」
「それと?」
「お情けはいらん!EU主導の国連軍として世界の警察でも気取れ!米国は金も兵も出さん!」
フランス大統領が頷いた。「——承知しました。核査察については責任を持って進めます」
「分かった。賛成する」
数日後。ニューヨーク。国連安全保障理事会。
議長のクリスティーナ・ラッセン(デンマーク)が口を開いた。「本日の議題は中東平和維持に関する決議案です。フランスより提案が提出されています。フランス大使、どうぞ」
フランスの国連大使が立ち上がった。「決議案の内容を説明します。イランとイスラエルの停戦を恒久的なものとするため、国連中東平和維持軍の設立を提案します。陸上は各国の現地軍と米軍が担当し、海上警備と掃海業務はFEPAに委託します。費用はEUと中東各国が分担します」
審議が始まった。
英国大使「賛成します。FEPAは中東本拠の日欧出資PMCなので能力は十分です」
米国大使「賛成します。ただし核査察の履行を条件とします」
オーストリア大使「賛成します」
スロベニア大使「賛成します」
スイス大使「賛成します」
韓国大使「賛成します」
ポルトガル大使が少し間を置いた後に言った。「——賛成します」
マルコ・フェレイラの母国だった。
アルジェリア大使「賛成します」
ガイアナ大使「賛成します」
パナマ大使「賛成します」
ロシアの大使がしばらく手元の書類を見ていた。「——棄権します」
中国の大使が続いた。「——棄権します」
シエラレオネ大使「賛成します」
ソマリア大使「賛成します」
ラッセン議長が結果を読み上げた。「賛成13、棄権2、反対0——決議案は採択されました。国連中東平和維持軍の設立を決議します」
東京・内閣官房。
城島が橘に言った。「決議が通った。賛成13、棄権2だ」
「そうか」
「ロシアと中国、本当に棄権したな」
「米国の顔を潰せるからな」と橘が静かに言った。「予想通りだ」
「ドランプの啖呵が——『お情けはいらん』か」城島が苦笑した。「らしいな」
「デローニの一言が効いた」
「中間選挙か——鋭いな」
「そうだ」
「日本は最後まで前面に出なかったな」
「それでいい」と橘が続けた。「フランスが提案して米国が条件を出した。日本は何もしていない」
「でも全部仕込んだのは——」
「片桐と望月だ。民間の意見交換だよ」
城島がしばらく橘を見た。「FEPAへの影響は?」
「海上平和維持の実働部隊として国連から正式に受注できる。掃海収益、護衛収益——全部国連予算から請求できるようになる」
城島がしばらく黙った。「——マリーニが喜ぶな」
「そうだろうな」橘は静かに言った。「3年後の上場に向けて、ちょうどいい実績になる」
「ポルトガルが賛成したな」と城島が続けた。「隼1番艦のフェレイラの母国だ」
橘が少し間を置いた。「——そうだな」
城島がため息をついた。「——最初からここまで計算していたのか」
橘は冷めたコーヒーを一口飲んだ。「さあな」
「——怖いな、お前は」
橘は答えなかった。窓の外に霞が関の秋の夜が広がっていた。
国連決議が通った。FEPAが国連中東平和維持軍の実働部隊として動き始める。
ジブチでは掃海部隊がホルムズ海峡への出動準備を進めていた。田中現場所長が仮設桟橋の増設図面を書いていた。
全部同時に動いていた。
冷めたコーヒーに手を伸ばしたが——もう飲んでいた。珍しく、空のカップを持ったままだった。




