第70話「Tachikobo」
時事ネタ?社会風刺?いずれにしろ、この作品はフィクションであり、実在の企業・団体・個人とは一切関係ありません。キリッ
2026年9月。ジブチ。FEPA基地。
マリーニが黒田の執務室に入ってきた。
「黒田PMC代表、報告があります」
「なんだ?」
「隊員のほとんどが家族を持っています。職場での面会希望が絶えません。先月だけで47件の申請がありました」
黒田がしばらく黙った。「田中さんに頼め」
「田中現場所長に?」
「宿舎が余っているだろう。高級ホテル並みにしてくれ。ラウンジ、屋内植物園、屋内プールも付けて——あとモスバーガーでも作っておけばいい」
マリーニが少し間を置いた。「——承知しました。モスバーガーの出店交渉は既に進めています。ハラール対応なので現地人にも開放できます。売上の一部はFEPAに入ります」
「そうか」
「セブンイレブンとダイソーも入れてPXを作りたいと思います。FEPAのオリジナル糧食、キャップ、Tシャツ、ドッグタグも作ります。PB商品の回収率が——」マリーニが電卓を取り出した。「2465人×月3万円×PB比率30%で月2200万円になります。将来5000人規模になれば月4500万円——」
「ふふふ……楽しくなってきました」
黒田がしばらくマリーニを見た。「CFOとして雇ったはずだが」
「CFOの仕事は収益を最大化することです」
「——田中さんに連絡しておく」
マリーニがすでにスマートフォンを取り出していた。
ジブチ。鹿島建設現場事務所。
田中現場所長のスマートフォンが鳴った。黒田からだった。
「田中さん、宿舎の改装をお願いしたい。高級ホテル並みにしてくれ。ラウンジ、屋内植物園、屋内プールも付けて」
田中が止まった。「——屋内植物園と屋内プールですか。ジブチで」
「砂漠だからこそ必要だろう」
「……分かりました」田中が深呼吸した。「それと、マリーニさんからもPXの建物追加と飲食施設の整備依頼が来ています」
「全部頼む」
「黒田PMC代表」
「なんだ?」
「本社取締役の椅子——いや、社長の椅子——いや、もう創業者の椅子をください」
「それは——」
「鹿島の創業者は鹿島岩蔵です。無理なのは知ってます。でも言わせてください!!」
黒田が少し笑った。「——検討する」
「検討じゃなくて約束してください!!」
電話が切れた。
田中は窓の外を見た。ジブチの砂漠が広がっていた。
「屋内植物園か——」
手帳を開いた。計算を始めた後、設計図のメモを書き始めていた。
同じ頃。東京。内閣官房。
橘が牧野を呼んだ。「日立建機とHighlandersを呼んでくれ」
「Tachikoboの件ですか?」
「そうだ」
翌日。内閣官房の会議室。
日立建機の技術担当、森と、Highlandersの西村代表が並んで座っていた。
橘が口を開いた。「能登と熊本の被災地を視察に行ってくれ」
森が少し間を置いた。「——視察ですか?」
「そうだ。余震の中でも一切止まらず捜索、がれき処理の出来る多脚工作機とドローンを含めた統合システムを開発してほしい。有人無人を問わない」
「どのような仕様を想定していますか?」
「大型でも30t、中型で10t、小型は150kgを前提とする。探索機として10kg以下のものもあれば良い。とにかく現地を見ろ。火災対応とかもあるだろう」
西村が手帳を取り出した。「イメージは?」
「被災後30分以内にC-2に搭載、空挺降下で投入して48時間自己完結できるユニットを構想してくれ」
森が止まった。「——空挺降下ですか。30tの機体を?」
「C-2で運んで降下させろ。出来るか?」
森が西村を見た。西村が少し笑った。「やってみます」
牧野が続けた。「対米投資資金から開発補助として3000億円を投下する。Tachikoboというベンチャーを設立する。日立建機とHighlandersから人員と資金分の株を渡す。対米投資企業にも株で還元する。ただし量産ラインはお前たちが考えろ。こっちは開発を助けるだけだ」
森が頷いた。「——承知しました」
「一点確認させてください」と西村が続けた。「多脚機の愛称はどうしますか? 開発チームで大型をタコマ、中型をタチコマ、小型をタコと呼んでいるんですが——」
日立建機の森が止まった。「タチコマって——士郎正宗かよ!」
「でも8脚ですよ? タコですよ?」と西村が続けた。
「タコマもタコだろ!!」
「小型はアスタコNEOの無限軌道と4脚の組み合わせなので一番タコっぽいんですが——」
「全部タコだろ!!」
牧野が苦笑した。「——正式名称はアスタコ・シリーズでいい。マクロ、メソ、マイクロだ。通称はお前たちに任せる」
「——タコマ、タチコマ、タコで行きます」と西村が静かに言った。
森がため息をついた。「士郎正宗に怒られても知らんぞ」
「8脚なんで大丈夫です」
「タチコマは6脚じゃないのか?」
「中型は6脚です」
「——タコじゃないな」
「タコじゃなくてもタチコマです」
「なんでだ!!」
橘がしばらく二人を見ていた後に静かに言った。「——現地視察を先にしてくれ」
全員が笑った。
東京・内閣官房。
城島が橘に言った。「Tachikobo、動き始めたな」
「そうだ」
「「士郎正宗かよ」は誰が言ったんだ?」
「日立建機の担当者だ」
城島が苦笑した。「——やっぱりそうなるよな」
「そうだ」
「8脚の大型機に砲塔を載せたら後退抑止にもなるな」と城島がつぶやいた。
橘が少し間を置いた後に続けた。「——俺は考えていなかったが、お前がそういうなら、城島、お前が上に何を載せて兵器化できるか技本と研究しろ。あ、ついでにレーダーを背負って山登りできれば最高だな。頼んだぞ」
城島が止まった。「——お前今さっき考えていないと言っただろ!!」
「考えていなかった。お前が言い出したんだろう」
「俺のせいにするな!!」
橘は答えなかった。冷めたコーヒーに手を伸ばした。飲んだ。やはり冷めていた。
城島がため息をついた。「——怖いな、お前は」




