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第69話「暗流」

時事ネタ?社会風刺?いずれにしろ、この作品はフィクションであり、実在の企業・団体・個人とは一切関係ありません。キリッ


2026年10月初旬。ロンドン。FEPA連絡所。


採用担当の自衛隊武官、田辺二等海佐が応募書類を確認していた。


この一週間で37名の応募があった。


元SAS、元海軍特殊部隊、元情報将校——書類上は問題なかった。


でも田辺には分かった。


「——また来た」と隣の担当者に小声で言った。


「何人目ですか?」


「3人目だ。MI6の非正規要員だろう。書類の作り方が上手すぎる」


「どうしますか?」


田辺が少し考えた後に言った。「採用する」


「——いいんですか?」


「好きに泳がせておけばいい。黒田PMC代表の指示だ」




同じ頃。パリ。FEPA連絡所。


元フランス外人部隊の下士官が面接を受けていた。


流暢なフランス語で答えていたが、質問の内容が少し妙だった。


「ジブチ基地の規模はどのくらいですか?」


「USCというシステムはどんな用途ですか?」


担当の武官が笑顔のまま答えた。「採用後に開示します」


面接が終わった後、武官はスマートフォンを取り出した。


「また来た。今度はDGSEだと思う。書類が綺麗すぎる」


黒田から返信が来た。「採用して泳がせておけ」




同じ頃。ベルリン。FEPA連絡所。


元ドイツ連邦軍の技術将校が応募書類を出していた。


BNDの非正規要員だった。


採用された。


7都市の連絡所で同じことが起きていた。


各国の情報機関がFEPAに興味を持ち始めていた。


非正規要員を潜り込ませ、内情を探ろうとしていた。


でも黒田は全員把握していた。


「泳がせておけ」——それが黒田の方針だった。





同じ頃。ブリュッセル。EU本部近くのホテル。


非公式の会合が開かれていた。


フランス、ドイツ、イタリア、イギリス、スウェーデン——各国の安全保障担当者が集まっていた。


議題は一つだった。


中東平和維持とFEPAへの対応。


フランスの担当者が口を開いた。「まずEUとしての基本方針を確認したい。兵は出さない。金だけ出す——これでいいですね?」


全員が頷いた。


「理由は明確だ。ロシアがウクライナの次を狙っている。ルーマニア、モルドバへの進攻を我々は想定している。軍をそちらから動かすわけにはいかない」


ドイツの担当者が続けた。「NATO艦艇の南シナ海、東シナ海への派遣は継続強化する。米軍が中東に注力している隙に中国が動く可能性がある。それを見過ごすわけにはいかない」


「同意します」とスウェーデンの担当者が言った。「ロシアと中国——両方を同時に警戒する必要がある」


イタリアの担当者が口を開いた。「FEPAについて申し上げます」


室内が静まった。


「GCAPの三カ国協力——日本、イギリス、イタリアで進めています。今回のFEPA設立は、高道首相の国際貢献に対する明確な覚悟の表れだと我々は理解しています。今後の応分負担を考えれば、EUとして歓迎すべきです」


フランスの担当者が頷いた。「同感です」


「少なくとも歓迎できない事態ではないことを、EUの意思として確認したい」


全員が頷いた。


イタリア・フランス・イギリスの担当者が顔を見合わせた後、フランスが口を開いた。「イスラエルの問題について申し上げます」


ドイツの担当者が続けた。「今回の陣営を問わずに制空権を制限する方式は——ヨルダン、パレスチナにも適用できます。PMCの責任でイスラエル軍機の監視——場合によっては撃墜を行えばよい」


室内がざわめいた。


「——それはかなり踏み込んだ発言ですね」とスウェーデンの担当者が言った。


「事実として申し上げているだけです」とドイツの担当者が静かに続けた。「FEPAはPMCです。国家ではない。PMCが独自の判断で行動したとすれば——各国政府は関知しません」


イギリスの担当者が少し間を置いた後に言った。「——非常に興味深い見解ですね」


イタリアの担当者が頷いた。「同意します」


フランスの担当者も静かに頷いた。


会合が終わった後、ホテルのロビーでイタリアの担当者が記者に囲まれた。


「FEPAについてコメントをいただけますか?」


「ノーコメントです」




記者が引いた後、担当者はスマートフォンを取り出した。


ローマに電話を入れた。


「デローニ首相、会合が終わりました」


「どうだった?」


「EUとしてFEPAを歓迎できない事態ではないことを確認しました」


デローニがしばらく黙った後に言った。「——よかった。正直に言うとね」


「はい」


「かなえがドランプの首にヒモを付けてくれそうでホッとしているのよ」


「——オフレコでお願いします」


「もちろん」


電話が切れた。





翌日。東京・内閣官房。


片桐が橘に報告した。「EUの非公式会合で確認が取れました。兵は出さない、金だけ出す——この方針でEU全体が合意しています」


「ドイツは?」


「イスラエル軍機の監視と場合によっては撃墜をPMCの責任で行えばよいと発言しました」


橘がしばらく黙った。「——ドイツが言ったか」


「そうです」


「ロシアとルーマニア・モルドバの件は?」


「EUとして想定済みです。NATO艦艇の南シナ海・東シナ海への派遣継続強化も確認されました」


「FEPA連絡所への各国情報機関の潜入は?」


片桐が少し驚いた顔をした。「——把握していますか?」


「7都市全部だ。MI6、DGSE、BND——全部泳がせている」


「黒田PMC代表の判断ですか?」


「そうだ」橘は静かに続けた。「情報機関に入ってきてもらった方が都合がいい場合もある」


片桐がしばらく橘を見た。「——どういう意味ですか?」


「彼らが本国に報告する内容を我々がコントロールできる」


片桐が少し間を置いた。「——つまり意図的に情報を流すということですか?」


橘は答えなかった。


冷めたコーヒーに手を伸ばした。


飲んだ。


やはり冷めていた。





同じ頃。ジブチ。FEPA基地。


黒田が田辺二等海佐からの報告を受けていた。


「各国情報機関の潜入状況をまとめました。MI6が3名、DGSE2名、BND2名、CIA非正規が1名——計8名が採用されています」


「そうか」


「どう対応しますか?」


黒田が少し間を置いた。「マリーニに報告書を1日遅らせて出すように言え」


「——遅らせる?」


「そうだ。1日遅らせれば、彼らが報告する情報は常に1日古い。それだけで十分だ」


田辺がしばらく黒田を見た。「——なるほどです」


「好きに泳がせておけ」


黒田はスマートフォンをしまった。


窓の外にアデン湾が広がっていた。


はやぶさ改50隻の艦影が夕陽に染まっていた。

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