第65話「マリーニ」
時事ネタ?社会風刺?いずれにしろ、この作品はフィクションであり、実在の企業・団体・個人とは一切関係ありません。キリッ
2026年8月下旬。ジブチ。FEPA基地。
マリーニが黒田の執務室に入ってきたのは朝7時だった。
「本日からC-2の定期便を開始しました」手元の資料を広げながら続けた。「ジブチ→リヤド、ジブチ→アブダビ、ジブチ→マスカットの3路線です。An-124も日本→ジブチ便が本日初フライトです」
「そうか」
「ただ——問題があります」
黒田が顔を上げた。
「誰が何を指揮しているのか分かりません。C-2のパイロットは誰の指揮下にありますか? 整備士は? 地上支援は? An-124のクルーは?」
黒田が少し間を置いた。「——それぞれが動いている」
「それが問題です」マリーニは静かに続けた。「CFOとして収益を管理しようとしても、指揮系統が不明確では請求書一枚出せません。コストセンターが定義されていない。責任者が誰か分からない。これでは組織ではなく、ただの人の集まりです」
黒田がしばらくマリーニを見た。「——提案があるか?」
「あります。まず組織を設計しましょう」
マリーニがホワイトボードを引き寄せた。
「FEPAの任務を整理します。黒田PMC代表、FEPAは何をする組織ですか?」
「海上警備、掃海、空輸——」
「他には?」
「施設整備と災害対応。医療。教育訓練。基地の運営。兵站」
「特殊作戦は?」
黒田が少し間を置いた。「それは私の直轄だ」
マリーニがホワイトボードに書き込んだ。
海上警備部門・掃海部門・空輸部門・施設大隊・医療大隊・教導中隊・兵站司令部・基地運営部門・特殊作戦中隊(代表直轄)・広報部・営業部(CFO貫下)
「これで全部ですか?」
「——そうだな」
「では人員を詰めましょう。ただその前に——」マリーニが黒田を見た。「今後の増員と配備の予定を教えてください。CFOには全部必要です」
黒田が少し間を置いた後に口を開いた。
「9月に掃海部隊がジブチに到着する。Link22の調整が完了次第、引き渡しだ。同じ9月にはやぶさ改の初期50隻が完納して第一大隊が完成する」
「その後は?」
「アデン湾を第一大隊でカバーしながら、ホルムズ海峡にも3中隊ローテーションで展開を始める。2027年2月には第二期50隻が完納して第二大隊が完成する。その時点で第一大隊がホルムズ専従、第二大隊がアデン湾専従になる」
「C-2は?」
「現在10機だが、自衛隊から追加10機を購入する。20機体制になれば整備5機・計画輸送10機・予備5機で回せる」
「An-124は?」
「5機運用、1機が予備部品用解体、1機が魔改造中だ」
マリーニが電卓を叩きながら頷いた。「——それを先に言ってください」
「必要だと思わなかった」
「CFOには全部必要です」
一時間後、各部門の人員規模が固まっていった。
「海上警備部門は——9月に50隻完納で第一大隊完成。乗組員50隻×50人で2500人、陸上支援100人、司令部10人——合計2610人」
「そうなる」
「掃海部門は——第一艦隊405人、第二艦隊475人、水中処分隊60人、陸上司令部15人——合計955人」
「合っている」
「空輸部門は——現時点でC-2が10機、An-124が5機。搭乗員は各機5人で75人、整備員が同数で75人、空港維持要員200人、司令部10人——合計360人。C-2が20機になれば再計算が必要です」
「そうだ」
「施設大隊は——小隊が整備士込みで80人、中隊が小隊×3で240人、大隊が中隊×4で960人、司令部10人——合計970人」
「合っている」
「医療大隊は——第一中隊がジブチ総合病院、第二中隊がPMC衛生部隊、第三中隊が国境なき医師団との連携部隊。各中隊240人×3で720人、司令部10人——合計730人。MSFは独立組織なので別計上です」
「そうだ」
「教導中隊は——第一小隊が09式運用訓練、第二小隊がはやぶさ改訓練、第三小隊が電子戦専門教育。中隊規模で240人、司令部10人——合計250人」
「そうだ」
「訓練用の09式はどうしますか? モックアップを——」
「実車を空輸できる」と黒田が静かに言った。
マリーニが止まった。「——実車ですか?」
「An-124の搭載量は150トンだ。09式は40トン。3両積める」
マリーニが電卓を叩いた。「輸送コストは——」
「JDETAの実戦訓練データが取れる。コストは訓練費として計上しろ」
マリーニが少し間を置いた。「——つまり教導中隊はJDETAの営業ツールでもありますね」
「そういうことだ」
「合理的ですね」とマリーニが続けた。「兵站司令部は——30人+USC連携。基地運営部門は——現地100人、日本人70人、欧米30人で200人、司令部10人——合計210人。特殊作戦中隊は——」
「三個小隊で240人だ。詳細は開示しない」
「——承知しました」
マリーニが電卓を叩いた後に言った。「特殊作戦中隊を除いて現時点で約5500人規模、C-2が20機体制になれば5600人規模になります」
「次に階級と役職を決めましょう」とマリーニが続けた。
「各部門の司令官が大佐、参謀が中佐、中隊指揮官が少佐、小隊指揮官が中尉とする。連隊という呼称はPMCとして政治的に使わない」と黒田が口を開いた。
「大佐が指揮する規模としては若干大きい部門もありますが——」
「PMCとして割増しだ。優秀な人材を引きつけるためでもある」
「——分かりました」マリーニがホワイトボードに書き込んだ後に続けた。「既存の主要メンバーの役職を確定させましょう。ケイラ・ドナヒューは?」
「少佐。はやぶさ改部隊の第一中隊長だ」
「マルコ・フェレイラは?」
「大尉相当。隼1番艦艦長だ」
「ディミトリ・ヴォルコフは?」
「大尉相当。機関長だ」
「アンナ・コワルスキは?」
「中尉。教導中隊第三小隊に入れる」
マリーニが資料をまとめた後に言った。「これで骨格が出来ました。あと——足りない資器材の確認をさせてください」
「なんだ?」
「総司令の移動車がありません」
「じゃ、レクサスのLX600を買ってくれ」
「ジムニーを2〜3台買っておきます」
黒田がしばらくマリーニを見た。「——なぜだ?」
「ジブチの砂漠道路でLX600は目立ちすぎます。PMC代表が高級SUVで移動するのは安全保障上のリスクです。ジムニーなら現地の作業車と区別がつかない。価格も1/10以下です」
「——好きにしろ」
「ありがとうございます」とマリーニがすでに発注書を書き始めていた。「他に不足している主要なものとして——全部門共通の暗号化無線機、医療部門の追加装備、施設大隊の重機の一部が未調達です」
「全部手配してくれ」
「承知しました。橘参事官と城島審議官への了承は?」
「私が取る」
翌日。東京・内閣官房。
黒田から送られてきた組織図と配備スケジュールを橘と城島が見ていた。
城島が口を開いた。「よく整理されている。誰が作ったんだ?」
「マリーニです」
「——CFOがここまでやるのか」
「やりました」
橘がしばらく組織図を見ていた。「了承する。ただし一点追加してくれ」
「なんですか?」
「USC運用部門を兵站司令部に組み込め。ケビン・ナカムラの下に置く」
「——了解しました」
電話が切れた後、城島が橘を見た。「マリーニ、思ったより動くな」
「だから雇った」と橘は静かに言った後に冷めたコーヒーを飲んだ。やはり冷めていた。




