第52話「掃海の代償」
時事ネタ?社会風刺?いずれにしろ、この作品はフィクションであり、実在の企業・団体・個人とは一切関係ありません。キリッ
2026年6月下旬。総理官邸・執務室。
高道総理、片貝財務相、大泉防衛相、橘慎一郎の四人が集まった。
城島哲也も同席していた。
高道総理が口を開いた。
「ドランプから連絡があった。戦闘終了前に掃海部隊の派遣を求めてくる可能性が高い」
全員が黙った。
大泉防衛相が言った。
「突っぱねられませんか?憲法上の制約もありますし——」
片貝財務相が静かに言った。
「難しいかもしれません。09式で荒稼ぎした後ですから。しかも——」
「しかも?」
「米軍にはもう掃海部隊がほとんど残っていないと聞いています。予算削減で縮小が続いていた。ホルムズ海峡の掃海を自分たちだけでやるのは数年かかる。だから日本に頼んでくる」
大泉防衛相が腕を組んだ。
「自衛隊の掃海部隊を派遣するのは——」
「政治的に難しい」高道総理が静かに言った。「憲法の問題もある。でもドランプの要求を無視するのも難しい」
全員が橘を見た。
橘が口を開いた。
「PMCで対応します」
「PMCで?」大泉防衛相が聞いた。
「自衛隊の現有掃海艦艇をPMCに売却します」橘は資料を出した。「掃海母艦2隻と掃海艇9隻——合計11隻をPMCが日本国から購入します」
「自衛隊の掃海力はどうなるんですか」大泉防衛相が聞いた。
城島が口を開いた。
「第1機雷戦隊(横須賀)、第2機雷戦隊(呉)、第4機雷戦隊(舞鶴)、第5機雷戦隊(函館)が売却対象になります。一時的に掃海母艦が無くなりますが——」
「大丈夫なんですか」
「第3機雷戦隊(佐世保)、第6機雷戦隊(沖縄)、第7機雷戦隊(神戸)が残ります。しかも——まもなく新造掃海艇1隻が就役します。令和6年度と8年度予算での発注も進んでいます」
「掃海力の変化は」
「現在の掃海母艦2隻・掃海艇12隻体制から——新造完成後は掃海母艦2隻・掃海艇13隻体制に増強されます」
大泉防衛相が頷いた。
「売却しながら増強できるということか」
「そうです」
橘が続けた。
「売却代金で新造します。掃海母艦2隻、掃海艇10隻——合計12隻を新造配備します」
片貝財務相が口を開いた。
「会計の処理はどうするの」
「FMS特会からPMCへの出資として2600億円を拠出します」橘は静かに言った。「FMS特会が直接艦艇を購入するのではありません。PMCへの投資です」
片貝財務相が頷いた。
「そうしないと監査で問題になるわね」
「そうです。PMCはFMS特会からの出資金を使って、自衛隊から中古掃海母艦2隻・掃海艇9隻を購入します。あくまでPMCが自主的に調達する形です」
「費用は」
「掃海母艦2隻×300億=600億円、掃海艇10隻×200億=2000億円。合計2600億円をFMS特会からPMCへの出資として拠出します。日本国はその売却代金で新造12隻を発注します」
片貝財務相がメモを取った。
「PMCへの雇用費は」
「防衛予算の予備費から閣議決定で別途支払います。掃海作業が始まれば、順次PMCに入ってきます。FMS特会への循環ではなく、PMCへの別途支払いとして処理します」
「つまり——」片貝財務相が整理した。「FMS特会はPMCへの出資。PMCが中古11隻を購入。その代金で自衛隊が新造12隻を調達。雇用費は予備費から閣議決定で別途支払い」
「そうです」
片貝財務相がしばらく橘を見た。
「監査にも耐えられる構造ね」
「はい」
「——あなた、本当に怖いわね」
「掃海艇はFRP船体だからスマートドックは使えないわね」片貝財務相が続けた。
「掃海母艦2隻はスマートドックで建造します。はやぶさ改との重複は2隻だけですからちょうどいい。掃海艇のFRP船体は日立造船に依頼します」
大泉防衛相が口を開いた。
「乗員は」
「掃海母艦が170人×2で340人、掃海艇が60人×9で540人——合計880人規模になります」
「PMCの総員が一気に増えるな」
「そうです。ただし——」橘は続けた。「掃海作業の収益はPMCに入ります。ホルムズ海峡の掃海費用をサウジ、UAE、クウェートから徴収できます。中東各国にとっても海峡が開通することは死活問題ですから、払います」
高道総理が頷いた。
「ドランプへの回答は——」
「PMCの掃海部隊が対応します、とお伝えください」橘は静かに言った。「自衛隊の派遣ではありません。民間の掃海会社です」
「ドランプが納得するか」
「掃海ができれば、誰がやっても構わないはずです。しかも——」橘は続けた。「日本の掃海技術は世界最高水準です。湾岸戦争後のペルシャ湾掃海の実績がある。米軍より早くホルムズを開けられます」
大泉防衛相が苦笑した。
「橘さん、本当に怖いな」
片貝財務相が頷いた。
「あなたは本当に怖いわね」
高道総理が立ち上がった。
「では方針を確認します。FMS特会からPMCへ2600億円を出資する。PMCが自衛隊の掃海母艦2隻・掃海艇9隻の計11隻を購入する。日本はその売却代金で掃海母艦2隻・掃海艇10隻の計12隻を新造配備する。雇用費は予備費から閣議決定で別途支払う。異存はありますか」
誰も言わなかった。
「よし」
橘は官邸を出た。
夜の永田町。
スマートフォンを取り出した。
城島にメッセージを打った。
「掃海部隊、PMCに加える。規模が880人増える」
城島からすぐに返信が来た。
「また増えたのか」
「PMCが中古の掃海母艦2隻・掃海艇9隻を購入する。自衛隊は新造12隻で更新。掃海母艦2隻・掃海艇13隻体制に増強される」
しばらく間があった。
「日本の掃海技術なら米軍より早くホルムズを開けられる」
「そうだ」
「——湾岸戦争の時の実績がある」
「そうだ」
「橘、お前は本当に怖いな」
橘は答えなかった。
スマートフォンをしまった。
夜の永田町を歩いた。
冷めたコーヒーが飲みたかった。




