表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
51/103

第51話「1セントも要らない」

時事ネタ?社会風刺?いずれにしろ、この作品はフィクションであり、実在の企業・団体・個人とは一切関係ありません。キリッ


2026年6月某日。霞が関・外務省。


赤松誠一郎——対米交渉担当大臣——が執務室で電話を取った。


相手は米国財務長官だった。


「ベセント長官、お時間をいただきありがとうございます」


「赤松大臣、何でしょうか」


「09式対空管制車両についてです。ウクライナでの運用実績はご存じですか」


「国防省から報告を受けています。ツングースカとPAC-3を組み合わせたようなシステムだと」


「そうです。巡航ミサイルと弾道ミサイルの同時対処が可能で、5両でLink 22による広域レーダー網を形成できます」


「で、何が言いたいんですか」


「米国にも供与できます」赤松は静かに言った。「日本版FMSとして、1両1000万ドル——弾薬・教育訓練は別途ですが」


電話の向こうで沈黙が続いた。


「1000万ドル——ゲパルトの後継として考えれば高く感じるのですが、予算は」


「対米投資枠を使っていただければ——米国は1セントも支払う必要がありません」


また沈黙が続いた。


「少し待ってください。国防省に確認を取ります」




翌日。ペンタゴン。


財務長官から連絡を受けた国防省が内部で検討した。


ウクライナからの戦場レポートが回覧された。


「移動式PAC-3のツングースカ」


「Link 22でNATOと完全統合」


「PAC-3の消耗を大幅に抑制」


担当者が長官室に入った。


「長官、09式——われわれも欲しいです。500両は必要です」


長官が頷いた。


「財務省に伝える」




その夜。米国財務省。


ベセント長官は執務室で考えていた。


対米投資枠なら腹は痛まない。


ただし価格の妥当性が気になった。


NSCに確認を依頼した。


翌朝、報告が上がってきた。


エシュロンとシギント情報——NATO各国への提示価格は1両15億円(約1000万ドル)。


つまり日本は米国に対しても同じ価格を提示している。


ベセントは報告書を閉じた。


「日本も必死だな」と小さく言った。


「こんな小金しか乗せずに、ドランプの機嫌を取ろうとしている——」


ベセントは窓の外を見た。


ウクライナでの実績。


対米投資枠の活用。




悪い話ではなかった。


三日後。総理官邸・執務室。


高道早苗が電話を取った。


相手はドランプ大統領だった。


執務室の隅に、橘慎一郎、片桐隆文、片貝かつき、牧野俊介、城島哲也の五人が静かに立っていた。


「ドランプ大統領、お電話ありがとうございます。大統領の中東での決断、世界が注目しています。先日も同盟国への強いメッセージ、しっかり受け止めました」


ドランプの声が通訳を介して届いた。


「高道総理、君は理解している数少ない指導者だ」


「もったいないお言葉です。ところで——09式についてのお話なのですが」


「ああ、財務省から聞いた。興味深い話だ」


「ウクライナでの実績は国防省からご報告を受けておられますか」


「受けている。500両欲しいと言ってきた」


「ありがとうございます。実は——対米投資枠を使っていただければ、米国は1セントも支払う必要がありません」


電話の向こうで少し間が空いた。


「1セントも?」


「はい。日本の対米投資枠から充当します。ヨーロッパや中東には直接納入しますので、米国さんのご負担は一切ございません」


「それは——素晴らしい」ドランプの声が弾んだ。「では700両もらおう」


高道総理が大げさに声を上げた。


「700両!大統領、なんと太っ腹なご決断!さすがはノーベル平和賞候補に挙がるお方です!」


橘の口元が僅かに動いた。


執務室の五人が互いに視線を交わした。


「ところで大統領——」高道は続けた。「中東での貢献のお話ですが、恥ずかしながら憲法の制約で兵員の派遣は難しい状況です。代わりと言ってはなんですが——サウジアラビア、UAE、トルコの製油所、油田、港湾に09式を500両配備してはいかがでしょう。こちらも対米投資枠を使えば1セントも掛かりません。もちろん現地までの輸送はこちらで手配します。取り急ぎサウジに20両、UAEに20両、納入いたしましょうか」


電話の向こうでドランプが声を上げた。


「待ってくれ。対米投資枠はjapanの投資金だ。それを戦争協力に使うのはどうなんだ!」


「おっしゃる通りです」高道総理は静かに続けた。「ただ、こちらとしても投資である以上、わずかながら利益を生むお金をここだけで消費してリターンが無いのは——。それに、元々の価格を申し上げますと、ゲパルトにPAC-3を積んで、AESAレーダーを統合したら、普通なら3倍、いや5倍はします。今回は大統領へのご配慮で特別価格にしております」


執務室でドランプが安全保障担当の補佐官を見た。


補佐官が何度も頷いていた。


「——わかった。了承しよう!」


高道総理が深々と頭を下げた。


「ありがとうございます。大統領のご英断に心より感謝申し上げます」


電話が切れた。


高道総理が振り返った。


執務室の五人が一斉に言った。


「おめでとうございます」


全員の口元に、同じ笑みが浮かんでいた。





片貝大臣が口を開いた。


「総額、幾らになるの?」


橘が答えた。


「ウクライナ向けは半分を米国向けとします。彼らも200両全部は戦後必要としないでしょう。よって——米国向け700両、ウクライナ向け実質100両、中東向け500両。合計1400両前後です」


「原価は」片貝が続けた。


牧野が答えた。


「現状1両10億円程度ですが、量産効果で9億程度に下がる予定です」


片桐が計算した。


「じゃあFMS扱いでメーカーには11億ね。売価は15億かしら」


橘が首を振った。


「違います。米国には弾薬は別と伝えてあります。売価は込々で20億です」


城島が少し間を置いた。


「えぐい——てか、米国にいつもやられてる手だなw」


片貝大臣が電卓を叩いた。


「という事は——20億×1400両で2兆8000億円。国家の取り分が1兆2600億円?」


「実際には輸送費や細々した雑費で1000億位はかかると思いますがね」橘は静かに言った。


片貝大臣が目を細めた。


「え?——PMC向けのはやぶさ改の費用、充足できるじゃない」


「いえ」橘は続けた。「せめて半分は中東の金持ち国家から引っ張りたいですね。

それと——極力日本円で各国に支払いを求めます」


「なぜ日本円で?」片貝大臣が聞いた。


「微々たるものですが、円買い介入と違って米国はモノを言えませんから。ドルを売っているわけではないので」


片貝大臣がしばらく橘を見ていた。


「——あなたは本当に怖いわね」


「城島さんによく言われます」


城島が苦笑した。


「俺も言うわw」


高道総理が五人を見渡した。


「みなさん、ありがとうございます」


橘が静かに言った。


「総理こそ、見事でした。特に『ノーベル平和賞候補』は——」


高道総理が少し笑った。


「あれは橘くんが仕込んだ台詞でしょう」


全員が橘を見た。


橘は答えなかった。


冷めたコーヒーに手を伸ばした。


飲んだ。


やはり冷めていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ