第50話「引き合い」
時事ネタ?社会風刺?いずれにしろ、この作品はフィクションであり、実在の企業・団体・個人とは一切関係ありません。キリッ
2026年6月初旬。
テレビのニュースが一斉に流れた。
「原油価格が再び高騰しています。WTI先物は一バレル140ドルを突破しました。イラン情勢の長期化によりホルムズ海峡の封鎖が続いており、ペルシャ湾内のタンカーの動きが依然として制限されています」
別のチャンネルでは——
「ドランプ大統領は本日の記者会見で、NATOの対応について強い不満を示しました」
ドランプの映像が流れた。
「われわれは中東の安全のために戦っている。しかしNATOは力を貸さない。イタリアはどこにいる?みんなどこにいる?われわれだけが血を流している」
アナウンサーが続けた。
「日本政府は『適切な貢献を検討している』とコメントしています」
【掲示板】2026年6月・原油高騰スレ
【速報】原油140ドル突破!ドランプ「NATOが力を貸さない」イタリア名指し Part1
1: 2026/06/01(月) 20:11:22 ID:Xk7mNpQ3
原油140ドル突破した。ガソリン代やばいことになるぞ
2: 2026/06/01(月) 20:12:44 ID:mR8vwZ09
ドランプがまたNATOを叩いてる。今度はイタリア名指しか
3: 2026/06/01(月) 20:13:33 ID:Tb3nHsW1
ホルムズ封鎖、いつまで続くんだ。停戦したんじゃなかったのか
4: 2026/06/01(月) 20:14:11 ID:nQ0vXc7R
>>3 停戦は一時的だった。実態は封鎖継続してる
5: 2026/06/01(月) 20:15:44 ID:zW4qRm5S
日本のエネルギーの9割が中東から来てるのに、政府のコメントが毎回「適切な貢献を検討している」だもんな
6: 2026/06/01(月) 20:16:55 ID:pL2aKj8F
検討してるだけで何もしないやつ
7: 2026/06/01(月) 20:17:33 ID:Xk7mNpQ3
ドランプはNATOを再三批判してるな。イタリアを名指しにしたのは珍しい
8: 2026/06/01(月) 20:18:44 ID:mR8vwZ09
イタリアは防衛費が少ないから狙い撃ちされたんだろ
9: 2026/06/01(月) 20:19:55 ID:Tb3nHsW1
日本も人のこと言えないけどな
10: 2026/06/01(月) 20:20:33 ID:nQ0vXc7R
ガソリン代、また上がるのか。勘弁してくれ
11: 2026/06/01(月) 20:21:22 ID:zW4qRm5S
原油140ドルって去年の倍近いじゃないか
12: 2026/06/01(月) 20:22:11 ID:8vYnKp2A
工場から来ました。先週からラインがさらに増えた。急いでる感じがする
13: 2026/06/01(月) 20:23:44 ID:pL2aKj8F
>>12 また来たw 何が急いでるんだ
14: 2026/06/01(月) 20:24:55 ID:8vYnKp2A
>>13 分からん。でもでかいものが出ていく雰囲気がある
15: 2026/06/01(月) 20:25:33 ID:Xk7mNpQ3
>>14 輸出でもするのか
16: 2026/06/01(月) 20:26:22 ID:8vYnKp2A
>>15 さあ。でも急いでるのは確かだ
17: 2026/06/01(月) 20:27:11 ID:mR8vwZ09
ドランプに名指しされたイタリア、どう動くんだろうな
18: 2026/06/01(月) 20:28:44 ID:Tb3nHsW1
NATOの防衛費問題、日本は関係ないと思ってたけど原油高騰で直撃されてるな
19: 2026/06/01(月) 20:29:55 ID:nQ0vXc7R
結局、中東が安定しないと日本も困る
20: 2026/06/01(月) 20:30:33 ID:zW4qRm5S
>>19 それな。エネルギー安保って言葉、最近やっと実感できるようになった
21: 2026/06/01(月) 20:31:22 ID:8vYnKp2A
親父が「日本、大丈夫か」って聞いてきた
22: 2026/06/01(月) 20:32:11 ID:pL2aKj8F
>>21 親父さん、いつも鋭いなw
23: 2026/06/01(月) 20:33:44 ID:Xk7mNpQ3
大丈夫かどうか、政府が「検討中」しか言わないのが不安だよな
24: 2026/06/01(月) 20:34:55 ID:Toshi_k9
見えないとこで動いてる人間がいるよ
25: 2026/06/01(月) 20:35:33 ID:mR8vwZ09
>>24 またお前かw 根拠は?
26: 2026/06/01(月) 20:36:22 ID:Toshi_k9
工場が急いでるだろw
27: 2026/06/01(月) 20:37:11 ID:8vYnKp2A
>>26 俺のことかw
28: 2026/06/01(月) 20:38:44 ID:Toshi_k9
>>27 そうだw お前の工場が動いてる限り日本は大丈夫だ
29: 2026/06/01(月) 20:39:55 ID:Tb3nHsW1
>>28 お前ほんとブレないなw
30: 2026/06/01(月) 20:40:33 ID:Toshi_k9
うるさいw
同じ日。総理官邸。
高道早苗の執務室に、緊急の連絡が入った。
秘書が言った。
「総理、デレンスキー大統領からの直電です」
高道が受話器を取った。
通訳を介して声が流れた。
「高道総理、突然の連絡をお許しください。本題に入ります。ポーランドで我が軍が運用している09式——あれをもっと欲しい。最低でも100両。できれば200両」
高道は少し間を置いた。
「性能については確認済みということですね」
「ウクライナ軍の評価は最高です。移動式PAC-3のツングースカと呼んでいます。ロシアの巡航ミサイルとドローンに対して、これほど効果的な装備は他にない」
「前向きに検討します」高道は静かに言った。「ただし供給の優先順位と生産能力の問題があります。担当者から改めて連絡させます」
「感謝します。急いでください」
電話が切れた。
高道は秘書を呼んだ。
「橘くんに連絡を入れてくれる?」
同じ頃。外務省。
片桐隆文の執務室に、メッセージが届き続けていた。
NATO各国の大使館からの問い合わせだった。
ポーランド大使館:「09式について詳細を伺いたい。30両の調達を検討している」
エストニア大使館:「09式の性能評価を入手した。20両の見積もりを要請したい」
ラトビア大使館:「09式の調達について協議したい」
リトアニア大使館:「バルト三国共同での調達を検討している。合計60両」
ルーマニア大使館:「40両の調達について」
スロバキア大使館:「15両の見積もりを」
チェコ大使館:「20両の調達を検討している」
片桐は画面を見ていた。
問い合わせの数を数えた。
七カ国。合計185両。
一つの国の名前が入っていないことに気づいた。
英国。ドイツ。フランス。
主要三カ国からの問い合わせはなかった。
様子を見ている。
それでいい。今は小国から固めていく。
片桐は電話を取った。
橘への直通だった。
「橘、片桐だ。今すぐ話せるか」
「話せる」
「NATO七カ国から09式の問い合わせが来ている。合計185両だ。それとデレンスキーから高道総理に直電があった。100〜200両の要求だ」
電話の向こうで橘が少し沈黙した。
「合計で最大385両か」
「そうだ。英・独・仏は動いていない」
「それでいい」橘は静かに言った。「まず小国から固める。主要国は後だ」
「意図的か」
「そうだ。主要国が動く前に実績を作る。実績があれば、主要国は断れない」
「どうする」
「城島と牧野を呼んでくれ。在庫の確認が先だ」
霞が関・内閣官房。
橘、城島、牧野の三人が集まった。
橘が状況を説明した。
城島が資料を開いた。
「現在の在庫を確認する。三ライン3交代制で月産85両として、本格稼働から約3ヶ月——現時点で約255両の在庫がある」
「富士の教導隊向けは」橘が聞いた。
「1小隊5両で十分です。教導隊なら5両あれば訓練は回せる」
「残り250両か」
「そうです」
橘が計算した。
「NATO七カ国に15両ずつで105両。ウクライナに100両——50両をC-2で空輸、50両を船便。残り45両は保管」
城島が頷いた。
「ちょうど収まりますね」
「輸送は」橘が牧野を見た。
「ウクライナへのC-2便は継続できます」牧野が答えた。「船便は——民間の自動車運搬船を手配できます。09式は40トンの装輪車両ですから、自動車運搬船で対応できるはずです」
「荷揚げはイタリアだ」橘は静かに言った。
城島が地図を見た。
「アデン湾はまだ発火していない。地中海ルートが使える」
「そうだ」橘は続けた。「イタリアに揚げれば、イタリア軍が09式を目の当たりにする」
城島が少し笑った。
「次の発注への布石か」
「そういうことだ」
「牧野、民間自動車運搬船の手配を頼む」
「了解です。今週中に確保します」
「価格設定はどうする」城島が聞いた。
橘が片桐に電話を入れた。
「片桐、各国への価格の連絡を頼む。日本版FMSとして1両15億円だ。ただし米国との調整後の支払いとする。FMSの枠組みを使う」
「米国との調整が必要ということか」
「そうだ。日本の武器輸出にアメリカが絡む場合の手続きを踏む。それと——円借款も検討中と伝えてくれ。中小国には支払いの柔軟性が必要だ」
「了解。各国大使館への連絡を入れる」
電話が切れた。
牧野が橘を見た。
「1両15億円。105両で1575億円ですね」
「そうだ」
「それとウクライナの100両は」
「別途交渉だ。デレンスキーへの回答は片桐が入れる」
城島が資料を閉じた。
「45両の保管分は何に使う」
「次の問い合わせに備える」橘は静かに言った。「英・独・仏が動いた時のためだ」
城島が橘を見た。
「計算通りに動くか」
「動く」橘は静かに言った。「イタリアに09式が揚がれば、イタリアが動く。イタリアが動けば、フランスが焦る。フランスが動けば、ドイツが動く。ドイツが動けば、英国は断れない」
牧野がしばらく黙っていた。
「——ドミノですね」
「そうだ」
城島が苦笑した。
「お前は本当に怖いな」
橘は答えなかった。
スマートフォンを取り出した。
高道へメッセージを打った。
「総理、デレンスキーへの回答——在庫から100両を優先供給します。50両はC-2便で先行、50両は船便で続送します。詳細は追って」
高道からすぐに返信が来た。
「了解。橘くん、よくやってくれている」
橘はスマートフォンをしまった。
窓の外に霞が関の初夏の夜が広がっていた。
ヨーロッパ。中東。日本。
全部繋がっていた。
冷めたコーヒーに手を伸ばした。
飲んだ。
やはり冷めていた。




