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第4話「四人の会合」

時事ネタ?社会風刺?いずれにしろ、この作品はフィクションであり、実在の企業・団体・個人とは一切関係ありません。キリッ

霞が関の地下会議室Bは、省庁の人間以外には存在すら知られていない部屋だった。予約台帳にも記録が残らない。空調の音だけが低く響いている。


午前七時三分。三人は既に揃っていた。


片桐隆文は外務省のバッジをジャケットのポケットに入れたまま来ていた。牧野俊介はコンビニのコーヒーを二つ持っていた。城島哲也は資料らしきものを抱えて、入口近くの椅子に座っていた。


橘が入ると、三人は立ち上がりもせず、説明を求めもしなかった。


これが二十年続いてきたことだった。


東大法学部の同期として出会った頃、四人はそれぞれ違う省庁を選んだ。卒業の夜、新橋の安い居酒屋で最後に集まった時、片桐は「日本の顔を作りたい」と言った。牧野は「産業がなければ国家はない」と言った。城島は何も言わなかった。ただ黙って杯を空けた。橘は「全部を繋ぐ場所が必要だ」と言った。


青くさい話だった。だから二度と口にしなかった。


ただ、深夜に呼ばれたら来る。理由を聞かずに。それだけが二十年、変わらなかった。


牧野がコーヒーを一つ橘に差し出した。橘は受け取って一口飲んだ。温かかった。久しぶりだった。


「話してくれ」と片桐が言った。


橘は立ったまま口を開いた。


「ウクライナを見ているか」


三人が黙って頷いた。


「ドローンに数億円のミサイルをぶち込み続けた結果、西側の弾薬庫が先に底をついた。一方でドイツが倉庫から引っ張り出してきたゲパルト自走対空砲が、最前線で一番役に立っている。冷戦時代に完成した35mm機関砲が、最新鋭の防空システムより確実にドローンを落としている」


「枯れた技術の復権だ」と牧野が呟いた。


「枯れているから量産できる。量産できるからコストが下がる。コストが下がるから数が揃う」


城島が腕を組んだ。


「安倍政権以降、防衛費は増えた」静かな声だった。「イージスアショアは配備直前に白紙撤回。F-35は調達単価が当初予算を大幅に超えた。オスプレイは維持費が嵩んで稼働率が上がらない。トマホークは調達したが運用体制が追いついていない」


誰も口を挟まなかった。


「高額装備の維持費で予算が食われる。弾薬が足りない。部品が届かない。数字の上では防衛費二パーセントでも、実態は空手形が積み上がっているだけだ」


片桐が口を挟んだ。


「待ってくれ。だからこそGCAPでアメリカ依存を見直そうとしているんじゃないのか。外務省はイギリス、イタリアとの調整でかなり無理をした。あれを否定するつもりか」


「否定しない」橘は片桐を見た。「GCAPは必要だ。ただし完成は2035年以降だ。今の話は今の十年をどう凌ぐかだ」


片桐が黙った。反論はなかった。


「金額ではなく、中身が間違っていた」橘が続けた。


城島が初めて顔を上げた。


「そうだ。俺はずっとそう言ってきた。誰も聞かなかったが」


「聞いていた」


橘はブリーフケースから薄いファイルを三部取り出した。一人一部ずつ置いていく。


「昨夜作った」


片桐が表紙をめくった。牧野が数字を追い始める。城島は黙って図面を見ていた。


ファイルの中身はA4で六枚。重装輪回収車をベースにした装輪自走対空砲の概念図、35mm機関砲とAESAレーダーの搭載案、想定調達コスト、量産スケジュールの叩き台、そして防衛費二パーセントの枠内での予算配分案。


「車体はどこで作る」城島が最初に口を開いた。「三菱重工だけでは量産ラインが回らない」


「重装輪回収車のシャシーをベースに流用する。12式地対艦誘導弾の車体と基本設計が共通だ。重量物搭載は最初から想定されている。MAN、メルセデス、VOLVOのシャシーを並行調達すれば量産のボトルネックは解消できる」


「AESAレーダーは」


「三菱電機のOPY-2をベースに改修する。モジュール化が条件だ。一両ごとの特注では意味がない」


牧野が顔を上げた。


「単価を抑えるなら量産効果が必要だ。自衛隊の正規枠では何両が限界だ」


「50両が限界だ」城島が即座に言った。「87式の後継として積み上げても、財務省が認める数字はそのくらいだ」


「50両では量産効果が出ない」牧野は余白に数字を書いた。「最低200両は必要だ」


「予算規模はどのくらいになる」と片桐が言った。


「一両あたり10億から15億で抑えられる。200両で最大3000億だ」


城島が眉を上げた。「PAC3が一セット100億以上だ。迎撃ミサイルは一発4億から8億する。それで200両、3000億なら——」


「同じ予算でPAC3を30セット買うか、装輪対空砲を200両揃えるかの話だ」牧野が続けた。「PAC3は守れる範囲が限定される。200両なら日本中に展開できる」


「財務省への説明としては使える数字だ」片桐が頷いた。「GCAPの年間開発費と比べても見劣りしない」


「200両を防衛費の枠内で正規調達するのはまだ難しい」城島が言った。


沈黙が落ちた。


牧野が顔を上げた。


「ウクライナはどうだ」


三人が牧野を見た。


「防衛装備移転三原則が改正された。直接供与の枠組みはまだ限定的だが、解釈の余地はある。200両を自衛隊向けとして調達して、そのうち一定数を第三国経由でウクライナに流す枠組みを作れれば——」


「量産の名目が立つ」橘が引き取った。


「第三国はどこを想定する」と城島が聞いた。


「ポーランドが現実的だ」片桐が静かに言った。「NATOの東側で、ウクライナへの装備中継実績がある。外務省ルートで非公式に打診できる」


橘が頷いた。


「片桐、そこは頼む」


「分かった」


片桐がファイルを閉じた。


「これに名前はあるか」


「09計画だ」


三人がそれぞれ顔を見合わせた。


城島が先に言った。


「やろう」


片桐が頷いた。牧野は既に余白への計算を再開していた。それが答えだった。


片桐が最後に口を開いた。


「一つだけ聞いていいか」


橘を見た。


「これの本当の目的はなんだ。防衛費の中身を変えるだけじゃないだろう」


橘はコーヒーカップを置いた。


「後で話す。まず動かしてからだ」

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