第25話「試作車両」
時事ネタ?社会風刺?いずれにしろ、この作品はフィクションであり、実在の企業・団体・個人とは一切関係ありません。キリッ
2025年6月某日。岐阜県・各務原市。
航空自衛隊岐阜基地の一角に、防衛装備庁の試験施設があった。
城島哲也は格納庫の前に立っていた。
朝五時。まだ空が白み始めたばかりだった。
格納庫のシャッターが上がった。
中から、それは出てきた。
重装輪回収車のシャシーをベースにした車体。その上に、35mm砲塔とOPY-2の縮小版レーダーが載っていた。塗装はまだ施されていない。鉄の地肌が朝の光に鈍く光っていた。
醜かった。
継ぎ接ぎだらけで、どこかアンバランスで、洗練とはほど遠い。
でも動いていた。
城島はしばらく黙って見ていた。
桑原が隣に来た。
「どうですか」
「醜いな」城島は静かに言った。
「そうですね」桑原も静かに言った。「でも動きます」
「ああ」
二人は格納庫の前に立っていた。
試験は午前六時から始まった。
野中誠一が試験項目のチェックリストを持って立っていた。
「第一項目、走行試験」
09式が動き出した。
砂利の試験場を、ゆっくりと走った。
足回りは問題なかった。重装輪のシャシーは安定していた。
「第二項目、レーダー起動」
OPY-2の縮小版が回り始めた。
富岳との通信ウィンドウが開いた。データが流れた。
「正常です」オペレーターが言った。
「第三項目、IHI・IM400補助電源起動」
車体後部からガスタービンの音が聞こえた。電力供給が安定した。
「第四項目、砲塔旋回」
35mm砲塔がゆっくり回った。
左へ。右へ。仰角を上げた。下げた。
「第五項目、模擬射撃」
砲塔が止まった。
照準が合った。
引き金が引かれた。
空砲だった。
それでも音は大きかった。格納庫の壁が震えた。
午後三時。試験終了。
野中がチェックリストを閉じた。
「全項目、クリアです」
桑原が城島を見た。
城島は何も言わなかった。
しばらく09式を見ていた。
まだ醜かった。
でも動いた。撃てた。
「桑原さん」城島は静かに言った。
「はい」
「六ヶ月で出すと言った」
「言いました」
「やったな」
桑原が少し笑った。
「やりました」
城島はスマートフォンを取り出した。
橘へのメッセージを打った。
「09式試作機、全試験項目クリア」
数秒後、返信が来た。
「了解。次の指示がある」
城島はスマートフォンを取り出した。
橘の声が聞こえた。
「城島、試作機に暫定で11式のキャニスターを2本後付けしてくれ」
城島が止まった。
「……暫定ですか」
「そうだ。ただし量産型には条件がある」
「何ですか」
「三菱が開発中のBMDキャニスターに換装する前提で設計しろ。SM-3の技術を転用した新型だ。弾道ミサイルへの対処を可能にする」
城島は電話を切った。
桑原が隣に立っていた。
「何ですか」
「暫定で11式を載せる。でも量産型はSM-3派生型のBMDキャニスターに換装する前提で設計しろと」
桑原が夕暮れの空を見た。
「プラモじゃないんですが」
「俺もそう言った」
「何と言いましたか」
「3ヶ月やると言っている、と」
桑原が深く息を吸った。
「……やります」
城島が頷いた。
「やれ」
二人は格納庫を振り返った。
09式がまだそこに立っていた。
また仕事が増えた。
夕暮れの岐阜の空が、赤く染まっていた。
その夜。桑原は部下三人と居酒屋に入った。
岐阜の地酒を頼んだ。
「お疲れ様でした」
四人で杯を重ねた。
誰も大きな声を出さなかった。
ただ、静かに飲んだ。
プラモじゃない話は、明日からだ。
それで十分だった。




