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第23話「動き出す」

時事ネタ?社会風刺?いずれにしろ、この作品はフィクションであり、実在の企業・団体・個人とは一切関係ありません。キリッ

2025年4月1日。


日本中で新年度が始まった。


三菱重工業・相模原製作所。午前七時。


桑原は工場の駐車場に立っていた。


三人の部下が荷物を車に積んでいた。設計図のファイル、工具箱、ノートPC。追浜工場への常駐は、今日から始まる。


「行ってきます」


桑原は工場の建屋を振り返った。


三十年、ここで働いてきた。装甲車を作り、艦艇のブロックを作り、ロケットのパーツを作った。


今度は何を作るのか。


桑原には分かっていた。


「行くか」


車に乗り込んだ。


日産自動車・追浜工場。午前九時。


安田誠治は工場の入口に立っていた。


大型バスが一台、正門を入ってきた。


扉が開いた。降りてきたのは二十人ほどの男たちだった。年齢はバラバラだった。五十代の熟練工、三十代の若手技術者。全員、UDトラックスの作業着を着ていた。


「安田さんですか」先頭の男が言った。「橋本と申します。よろしくお願いします」


安田は頷いた。


「よく来てくれました」


橋本が工場を見渡した。


「広いですね」


「慣れますよ」安田は静かに言った。「一緒に作りましょう」


桑原のチームが後から入ってきた。


三菱重工とUDの技術者が、初めて顔を合わせた。


国土交通省・鉄道局。午前十時。


担当官が電話を受けた。


JR貨物の運行管理部からだった。


「深夜ダイヤの優先枠の件、正式に動き始めたと聞きましたが」


「そうです」担当官は静かに言った。「安全保障上の必要性として整理します。詳細は追って」


電話を切った。


隣の席の同僚が言った。


「神田先生から連絡来てましたよ。JR東海への根回し、終わったと」


担当官は頷いた。


「早いな」


「三十八年待ってたんだそうです」


衆議院国土交通委員会。4月下旬。


神田武雄が質問に立った。


議場は半分ほどの入りだった。物流問題の委員会は、派手な話題にならない。傍聴席も閑散としていた。


それでも神田は、いつもと同じ声で話した。


「物流の効率化と安全保障インフラの整備について伺います」


神田は資料を持たなかった。三十八年間、頭の中に全部入っていた。


「JR貨物の深夜ダイヤの安定的な確保は、国内のサプライチェーン維持において不可欠です。現状、幹線の深夜ダイヤはJR旅客各社の臨時列車によって恒常的に圧迫されており、製造業の物流に深刻な影響を与えています。安全保障上の必要性という観点から、鉄道インフラの優先利用に関する法整備を、今国会中に進めるべきと考えますが、大臣のお考えは」


国交大臣が答弁台に立った。公明党の大臣だった。


「ご指摘の点、重要な課題と認識しております。関係省庁と連携しながら、早急に検討を進めてまいります」


神田が席に戻った。


隣の議員が小声で言った。


「大臣、珍しくまともな答弁でしたね」


神田は前を向いたまま言った。


「村田が根回ししてくれた」


「次官が?」


「ああ」神田は静かに言った。「あいつも三十年待っていた口だ」


議場の時計が動いていた。


通常国会の会期末まで、あと二ヶ月を切っていた。


理化学研究所・神戸センター。午前十一時。


所長室に、文科省からの通知が届いた。


「富岳NEXT開発予算、優先割当承認」


所長は封筒を持ったまま、しばらく動かなかった。


三年間、待っていた予算だった。


秘書が口を開いた。


「所長、どうされましたか」


「いや」所長は静かに言った。「何でもない」


封筒を机に置いた。


ただ、少し手が震えていた。


豊田通商・東京本社。午後二時。


アフリカ・中東部の会議室に、七人が集まっていた。


「ジブチ港湾インフラ整備支援プロジェクト」の初回キックオフだった。


担当者がスクリーンに地図を映した。


「ジブチ市南部、タジューラ湾沿いのエリアです。まず土地の確保から始めます。現地政府との調整は片桐さんの外務省ルートで済んでいます」


「着工はいつですか」


「六月を目標にしています」


「宿舎の規模は」


「第一期は二百名分。拡張できる設計にします」


誰かが言った。


「港湾の作業員の宿舎にしては、随分と頑丈な設計ですね」


担当者が静かに言った。


「丈夫に越したことはありません」


掲示板——2025年4月某日


8vYnKp2A:工場に新しい機械が入ってきた。でかいロボットアームが三台。俺の仕事、変わりそう


Xk7mNpQ3:>>8vYnKp2A どう変わる?


8vYnKp2A:>>Xk7mNpQ3 今まで手でやってた溶接をロボットがやるようになる。俺はそれを管理する側になるらしい


mR8vwZ09:待遇は?


8vYnKp2A:少し上がるって言われた。研修もある


Toshi_k9:だから言ってるだろ。見えないとこで動いてる人間がいるって


Tb3nHsW1:>>Toshi_k9 今回ばかりはちょっと信じてきたw


Toshi_k9:>>Tb3nHsW1 だろw


8vYnKp2A:親父に話したら「そういう時代が来たか」って言ってた。工場が閉まった時は泣いてたのに


pL2aKj8F:>>8vYnKp2A いい話だな


8vYnKp2A:まだ始まったばかりだけどな。頑張る


内閣官房・橘の執務室。深夜。


橘慎一郎は窓の外を見ていた。


霞が関の夜景が広がっていた。


どこかで桜が散り始めていた。


冷めたコーヒーに手を伸ばした。


歯車が回り始めた。


あとは止まらないことだ。

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