第22話「予算の迷彩」
時事ネタ?社会風刺?いずれにしろ、この作品はフィクションであり、実在の企業・団体・個人とは一切関係ありません。キリッ
2025年3月下旬。
予算委員会の中継が、橘の執務室のモニターに映っていた。
音量は小さくしてあった。
冷めたコーヒーを一口飲みながら、橘は画面を見ていた。
衆議院予算委員会・第三分科会
野党議員の藤本が質問に立った。五十代の細身の男だった。少数野党の中では比較的鋭い質問をすることで知られていた。
「文部科学省に伺います。富岳NEXTの予算増額について、具体的な用途を説明してください」
文科省の担当官が立った。
「次世代スーパーコンピュータの開発予算として、理化学研究所に優先的にリソースを配分するものです。製造業のDX推進および素材開発のシミュレーションに活用します」
「素材開発のシミュレーションとは具体的に」
「鉄鋼材料の強度解析および複合素材の設計最適化です」
藤本が少し考えた。
「それは民間企業が自前でやるべきことではないですか」
「官民連携の枠組みで進めております」
藤本が次の質問に移った。
「経済産業省に伺います。国内製造業基盤強化事業の予算増額について。MAN、メルセデス、VOLVOとの技術協力協定とありますが、これは自動車産業の話ですか」
経産省の担当官が立った。
「装輪車体の製造技術に関する国際技術協力です。国内製造業の競争力強化を目的としています」
「装輪車体とは」
「トラックおよび特殊車両のシャシー製造技術です」
「日産の追浜工場との関連は」
「国内製造ラインの多角化支援として、複数の工場で活用を検討しています」
藤本が首を傾げた。
「多角化支援というのは具体的に何を作るんですか」
「現時点では研究開発段階です」
藤本がもう一度首を傾げて、次の質問に移った。
「国土交通省に伺います。スマート造船所実証実験の予算について。呉、長崎、舞鶴の休眠ドックを活用するとありますが、何を建造するんですか」
国交省の担当官が立った。
「次世代造船技術の実証実験として、AI制御による自動化ドックの整備を進めます。造船業の人手不足対策として国内製造基盤を強化します」
「何を建造するかは決まっていないんですか」
「実証実験の段階では、汎用的な船体ブロックの製造を想定しています」
「汎用的な船体ブロック」藤本が繰り返した。「それは民間の需要がありますか」
「防衛関連も含めた複数の用途を想定しています」
「防衛関連」藤本が少し前のめりになった。「防衛省の予算とはどう整理されていますか」
「それぞれ独立した予算として処理されています」
藤本がさらに質問しようとした。
委員長が時間を告げた。
藤本が席に戻った。
「外務省に伺います。ジブチ共和国へのODA支援について。港湾インフラ整備および関連施設とありますが、具体的な内容を説明してください」
外務省の担当官が立った。片桐の部下だった。
「ジブチ共和国の港湾機能強化を支援するため、浮き桟橋の整備および周辺施設の建設を行います。現地の経済発展と雇用創出に貢献するものです」
「周辺施設とは」
「港湾管理施設および作業員の宿舎です」
「宿舎の規模は」
「現地の需要に応じた規模で整備します」
「何人分ですか」
「詳細は現地との調整中です」
藤本が資料を見た。
「かなりの規模の宿舎ですね。これは自衛隊の施設と関連がありますか」
「ジブチには既存の自衛隊拠点がございますが、今回のODA支援は民間の港湾開発支援として別途処理しております」
藤本がもう一度資料を見た。
「民間の港湾開発支援に、なぜ宿舎が必要なんですか」
「現地の港湾作業員および技術指導員の滞在施設として必要です」
藤本が何か言いかけた。
委員長が時間を告げた。
「防衛省に伺います。装輪車体を活用した研究開発案件について。09式という名称が予算書にありますが、これは何ですか」
防衛省の担当官が立った。
「装輪型多目的車体を活用した防衛技術の研究開発案件です」
「多目的とは」
「対空、対地を含む複合的な防衛用途を想定した研究開発です」
「試作機の完成時期は」
「本年度内を目標としております」
「予算規模が経産省の装輪車体関連予算と重複しているように見えますが」
「それぞれ独立した事業として処理されております」
藤本が資料を見比べた。
「文科省の富岳予算、経産省の製造業基盤強化、国交省のスマート造船所、外務省のジブチODA、防衛省の09式研究開発——これ、全部繋がっていませんか」
担当官が答えた。
「それぞれ独立した事業として処理されております」
「同じ答えですね」
「はい」
委員長が時間を告げた。
藤本が席に戻った。険しい顔をしていた。
橘はモニターの音量を下げた。
牧野からメッセージが来た。
「藤本、気づきかけてるな」
橘は返信を打った。
「気づいても証明できない」
「なんで」
「全部本当のことだから」
牧野からすぐに返信が来た。
「なるほどw」
橘はスマートフォンをしまった。
モニターの中で、予算委員会が続いていた。
藤本が別の省庁に質問を移していた。
三月三十一日。午後十一時五十七分。
参議院本会議で、2025年度予算案が可決された。
賛成多数。
石破内閣の少数与党が、何とか予算を通した。
橘はモニターを消した。
執務室に静寂が戻った。
スマートフォンに、四人からほぼ同時にメッセージが来た。
片桐「通った」
牧野「通った」
城島「通った」
倉橋「確認しました」
橘は四人に同じ返信を打った。
「動かす」
コーヒーカップを手に取った。
冷めていた。
それでも飲んだ。
窓の外に霞が関の夜景が広がっていた。
どこかで桜が咲き始めていた。
【掲示板③】予算通過スレ 2025年3月
【速報】2025年度予算案、参院可決 西破内閣が綱渡り Part12
1: 2025/03/31(月) 23:58:01 ID:Xk7mNpQ3
通ったか。綱渡りだったな
2: 2025/03/31(月) 23:58:44 ID:mR8vwZ09
野党が情けなさすぎる。あれだけ議席があって止められないのか
3: 2025/03/31(月) 23:59:12 ID:Tb3nHsW1
石破続けていいのかこれ
4: 2025/03/31(月) 23:59:33 ID:nQ0vXc7R
どうせ秋には選挙だろ
5: 2025/04/01(火) 00:00:11 ID:zW4qRm5S
予算の中身見た?富岳NEXTとかジブチODAとか謎の項目が多い
6: 2025/04/01(火) 00:01:22 ID:pL2aKj8F
>>5 ジブチODAって何に使うんだ
7: 2025/04/01(火) 00:02:08 ID:Xk7mNpQ3
>>6 港湾整備らしいけど詳細不明
8: 2025/04/01(火) 00:03:44 ID:mR8vwZ09
藤本が予算委員会で追及してたけど、全部「独立した事業です」で終わったな
9: 2025/04/01(火) 00:04:33 ID:Tb3nHsW1
>>8 あれ何か繋がってそうだったよな
10: 2025/04/01(火) 00:05:11 ID:nQ0vXc7R
>>9 でも証明できないんだろ。全部本当のことっぽいし
11: 2025/04/01(火) 00:06:44 ID:zW4qRm5S
政府が何かやってるのは分かる。でも何をやってるのかが分からない
12: 2025/04/01(火) 00:07:55 ID:8vYnKp2A
仕事見つかった。鉄鋼関係で求人が出てた。栃木だけど
13: 2025/04/01(火) 00:08:33 ID:pL2aKj8F
>>12 おお、よかった
14: 2025/04/01(火) 00:09:11 ID:Xk7mNpQ3
>>12 栃木ならUDトラックスの関連か?
15: 2025/04/01(火) 00:10:22 ID:8vYnKp2A
>>14 そうかもしれん。詳しくは分からんけど、とにかく採用された
16: 2025/04/01(火) 00:11:33 ID:mR8vwZ09
>>15 よかったな。頑張れ
17: 2025/04/01(火) 00:12:44 ID:Toshi_k9
>>12 よかった!やっぱり見えないとこで動いてる人間がいるんだよ
18: 2025/04/01(火) 00:13:55 ID:Tb3nHsW1
>>17 またお前かw でも今回はちょっと信じたくなってきたw
19: 2025/04/01(火) 00:14:22 ID:Toshi_k9
>>18 だろw
20: 2025/04/01(火) 00:15:11 ID:nQ0vXc7R
>>12 栃木でも仕事あるならいい。北関東の製造業、少し動き始めてるのかもな
21: 2025/04/01(火) 00:16:33 ID:8vYnKp2A
親父に報告したら泣いてた。工場閉まってから半年、やっと見つかった
22: 2025/04/01(火) 00:17:44 ID:pL2aKj8F
>>21 親父さんにもよかったな
23: 2025/04/01(火) 00:18:55 ID:zW4qRm5S
>>21 お疲れ様でした。ゆっくり休んで来月から頑張れ
24: 2025/04/01(火) 00:19:11 ID:Toshi_k9
>>21 本当によかった




