第165話「降伏」
時事ネタ?社会風刺?いずれにしろ、この作品はフィクションであり、実在の企業・団体・個人とは一切関係ありません。キリッ
2030年11月。
東京。内閣官房。
暗号化された通信が届いた。
発信元は北京だった。
橘慎一郎は画面を見た。
「日本政府に停戦を求める。台湾進攻は間違いだった。世界連合にも加入する。今後は対話による交渉に努める」
橘は少し考えた。
それから答えた。
「え?我々は停戦を望んでいませんよ?」
北京側が戸惑った。
「我々が望んでいるのだ。もう経済も持たない。内戦になるぞ?それは世界も望まぬはずだ」
「いえ?構いませんよ?今更です」と橘は言った。「そうなれば新疆ウイグルやチベット、モンゴルの独立勢力を承認しますよ」
北京側の声が強くなった。
「世界中に華僑は居る。世界中で騒ぎを起こしても良いのだぞ?」
「どうぞ」と橘は答えた。「資本主義に毒された彼らがどこまでやるかは分かりませんが、そういうとこですよ」
橘は続けた。
「世界はあなた方中華人民の移住に寛容に答えてきた。だから世界の都市に中華街がある。でもね。言ってるでしょ?恩を仇で返すあなた方にこれ以上寛容の心は持てません」
沈黙が続いた。
「……判った。総書記が辞任すればいいのか?」
「いえ」と橘は言った。「中国共産党の解体、人民解放軍の解体は絶対です。各自治区と台湾の領有権の放棄もですね」
「そこまで要求するのか」と北京側が言った。「内政干渉ではないか。ならば核戦力を投入するぞ」
橘は少し間を置いた。
「お好きにどうぞ」と橘は言った。「数百発でしょ?第二艦隊も居るので落とすのは比較的容易です。MAGIは弾道ミサイル発射基地の70%をすでに監視中です。撃ってくれるなら手間が省けます」
長い沈黙があった。
「くっ……も、もう一度指導部で協議する」
東京。内閣官房。
橘は通信を一時停止した。
10001号が珈琲を置いた。
「……随分と強気ですね」と10001号が言った。
「本当のことを言っているだけです」と橘は答えた。「MAGIは実際に70%を監視しています。撃てば落とします。それだけのことです」
数時間後。
北京から再び通信が来た。
「共産党及び人民解放軍の解体は受け入れる。自治区と台湾の領有権も放棄する。だが、この広大な国を統治しなくてはならない。無政府状態には出来んだろう?」
「そうですね」と橘は言った。「では移行の条件を申し上げます」
橘が話し始めた。
「まず、総書記は責任を取って辞任してください。指導体制は合議制に移行してください」
「次に、軍はPKFが展開するまで如何なる武力行使も禁止します。ただし公官庁はそのまま運営してください。民衆の生活を守る機能は必要です」
「政治局員は企業・公官庁・軍部から全員引き揚げてください。一旦、上海に集めてください」
「政府系報道機関にて停戦と本当の死傷者数を公開してください。そして引責の発表を行ってください」
「軍部と経済統制に関しては世界連合に委託すると宣言してください」
「48時間差し上げます」
「それと——海洋に出ている全ての軍艦・潜水艦・海警船を港に戻してください。台湾は現在のラインで停戦とします。武装解除はその後に行います」
長い沈黙があった。
「……わかった」
東京。内閣官房。
橘は通信を終えた。
10001号が画面を見ていた。
「終わりましたね」と10001号が言った。
「始まりです」と橘は答えた。「中国を解体して再建する。そちらの方がずっと大変な仕事です」
珈琲を一口飲んだ。
「高道総理に報告してください。それから世界連合安保理に連絡を。中国が条件を受け入れました」
北京。
政府系テレビが緊急放送を開始した。
アナウンサーの顔が青かった。
「本日、中国政府は世界連合との停戦交渉において……」
街頭の大型スクリーンで流れた。
人が立ち止まった。
聞いた。
泣いている人がいた。
笑っている人がいた。
誰かが空を見上げた。
中国。各地のWeChat。
「本当に終わったのか」
「死傷者数が……こんなに多かったのか」
「息子はどこだ」
「家族を探しています。○○省出身の○○○。台湾に行ったまま連絡が取れません」
「同じです。情報を持っている方はいますか」
「台湾のラインで停戦だって」
「息子がまだ台湾にいる」
「無事に帰ってきてくれ」




