第164話「崩落」
時事ネタ?社会風刺?いずれにしろ、この作品はフィクションであり、実在の企業・団体・個人とは一切関係ありません。キリッ
2030年11月。
世界連合安全保障理事会。
採決が続いた。
「中国・北朝鮮の在外資産を全て凍結します。賛成の方は——」
賛成7。反対0。棄権0。
「中国・北朝鮮への輸出入を全面禁止します——」
賛成7。反対0。棄権0。
「中国を支援するインドネシア・パキスタンに対して経済制裁を発動します——」
賛成7。反対0。棄権0。
拒否権は存在しなかった。決議が次々と採択された。
世界連合への加盟申請が相次いでいた。
ブラジル。アルゼンチン。コロンビア。サウジアラビア。UAE。クウェート。ナイジェリア。ケニア。タンザニア。
加盟国が89カ国に達した。
橘は数字を見た。
「miniMAGIのサブスクを入れた国が、軒並み加盟してきています」とナカムラが言った。
「そうですね」と橘は答えた。「縁というのはそういうものです」
深圳。
香港への流入を阻止しようと、人民解放軍の部隊が境界に展開した。
民衆が押し寄せた。
最初は警告だった。
次の瞬間、発砲が始まった。
欧米のジャーナリストがカメラを向けていた。映像が世界中に配信された。
第二の天安門事件と呼ばれた。
世界中の非難が中国に向いた。
成都。
市内の複数の地区で銃声が聞こえた。
人民解放軍の部隊同士が交戦していた。
指導部の命令に従う部隊と、従わない部隊に分裂していた。
MAGIがその状況をリアルタイムで記録した。
【MAGIログ:中国国内情勢評価】
軍部の統制喪失:確認
成都:軍部内部交戦を確認
指導部の有効な命令系統:著しく低下
黄海。米第7艦隊。
USSロナルド・レーガンの戦況室でオペレーターが画面を見ていた。
MAGIからの情報が流れてきた。しかしLINK22経由だった。
「MAGIの情報は受信できているか」
「受信できています。ただしMAGIコントロールには対応していません。座標データを受信して、こちら側のシステムに手入力する形になります」
「どれくらい遅れる」
「最大で2〜3分です」
2〜3分。精密攻撃の世界では永遠に等しかった。
米軍は散発的な動きに終始した。
佐賀空港。
オーストラリア空軍のT-5ACが12機並んでいた。
カナダ空軍のT-5Aが8機続いた。
全機のコンピュータにMAGIリンクが接続されていた。LEO-PNTで座標が補正されていた。
「MAGIから目標データが来ています。北朝鮮のミサイル工場、生産施設、軍事基地——優先順位の高い順に座標が送信されています」
「出撃準備」
朝鮮半島北部上空。
T-5ACが低空を飛んだ。
MAGIが誘導した。
弾倉が開いた。精密誘導爆弾が降下した。
北朝鮮のミサイル組立工場が崩れた。
燃料備蓄施設が炎上した。
発射台が破壊された。
LINKなしのリアルタイム誘導。距離ゼロの遅延。着実に成果が上がっていた。
愛知県。JDETA中部拠点。
ナカムラが作戦ログを更新した。
「オーストラリア・カナダ空軍、北朝鮮への精密爆撃を継続中。目標の47%を無効化しました」
「米軍は」
「LINK22経由での情報共有は続いています。ただし独自の作戦行動は散発的です」
橘はそのコントラストを見た。
T-5AユーザーはMAGIと一体になって動けた。
そうでない国は、情報を受け取ることしかできなかった。
橘はしばらく画面を見ていた。
「これも最初から計算していた、と思われますか」と10001号が聞いた。
「さあ」と橘は答えた。「ただ、技術は縁を作ると言いました。縁は時に、こういう形で現れます」
中国。北京。中南海。
誰も何も言わなかった。
画面に深圳の映像が流れていた。
成都の報告が届いていた。
台湾海峡では、FEPAの艦隊が制空権を掌握していた。
香港の非戦都市宣言が世界中で報道されていた。
加盟国が89カ国になった世界連合が、次々と制裁を採択していた。
「もう……」と誰かが呟いた。
総書記は黙っていた。
中国。各地のWeChat。
「深圳で撃たれた人が出た」
「映像を見た。天安門と同じだ」
「香港に逃げた人たちは今どこにいるんだろう」
「息子と連絡が取れない。もう4週間」
「成都で軍同士が戦ってるって本当か」
「本当だとしたら、もう終わりだ」
「終わりでいい。もう終わりにしてくれ」




