第15話「牧野と三菱重工」
時事ネタ?社会風刺?いずれにしろ、この作品はフィクションであり、実在の企業・団体・個人とは一切関係ありません。キリッ
2025年2月中旬。
三菱重工業・相模原製作所の応接室は、防衛装備庁の会議室より少し広かった。窓から丹沢の山が見えた。
城島哲也は桑原と向かい合って座っていた。
先月の第三会議室での会合から三週間。桑原は試作機の設計を着々と進めていた。重装輪回収車のシャシーをベースにした車体図面は、すでに三回修正されていた。城島が確認するたびに、桑原は黙って直してきた。
文句を言わない技術者だった。
「桑原さん、一つ頼みたいことがある」
「09計画の件ですか」
「そうだ。追浜に技術支援を入れてほしい」
桑原が眉を上げた。
「日産の追浜工場ですか」
「量産ラインとして使う。ただし三菱重工の設計思想を移植しないと、うちの仕様では作れない」
桑原はしばらく黙っていた。
「日産の技術者は優秀です。ただ——」
「ただ?」
「軍用車体は初めてです。自動車の設計と、重装輪の設計は違う。最低でも半年、うちの人間を常駐させないと、品質が担保できません」
「半年、出せるか」
桑原が城島を見た。
「人を出すということは、その間うちの別の仕事が遅れるということです」
「分かっている」
「09計画の優先順位はどのくらいですか」
城島は少し間を置いた。
「最優先だ」
桑原がまた黙った。窓の外の丹沢が白く光っていた。
「分かりました」桑原は静かに言った。「三人出します。設計と製造と品質管理で一人ずつ」
「助かる」
「ただし、一つだけ条件があります」
城島が桑原を見た。
「うちの人間が追浜に入ったら、設計の主導権はうちが持つ。日産のやり方に合わせるのではなく、09計画の仕様に日産が合わせる。それが守れるなら出します」
城島は頷いた。
「それで構わない」
桑原が立ち上がった。握手を求めてきた。
城島は握手した。
「桑原さん、試作機は予定通りか」
「六ヶ月で出します」桑原は静かに言った。「やると言ったので」
城島は頷いた。
応接室を出ながら、スマートフォンを取り出した。牧野へのメッセージを打った。
「三菱重工から三人、追浜に常駐させる。調整してくれ」
すぐに返信が来た。
「完璧なタイミング。今日追浜に行く」
城島はスマートフォンをしまった。
相模原の空は晴れていた。




