第14話「ミラノの求人」
時事ネタ?社会風刺?いずれにしろ、この作品はフィクションであり、実在の企業・団体・個人とは一切関係ありません。キリッ
2024年10月。ミラノ近郊の療養施設。
リハビリを終えて病室に戻ると、同室のセルゲイがタブレットを見ていた。
ドネツクで右腕を失った男だった。元砲兵。陽気さだけが取り柄で、療養施設の中で一番よく笑った。
「ヴォルコフ、こんな求人があるぞ」
画面を見せてきた。英語と、その下にウクライナ語の粗い翻訳が並んでいた。
「海洋警備施設の陸上警備員。勤務地ジブチ。任期二年。報酬として日本国永住権および住居を提供」
ディミトリは一度だけ画面を見た。
「陸上警備員か」
「悪くないだろ。日本だぞ。安全で、飯が旨くて、地震以外は何もない国だ」
「俺は機関科だ」
それだけ言って、ベッドに横になった。
セルゲイが何か言いかけて、やめた。
ディミトリは天井を見た。
左足がまだ鈍く痛んだ。雨が降る前はいつもこうだった。体がまだ戦場を覚えている。
機関科の将校が陸の警備をする。それがどういうことか、セルゲイには分からないだろう。銃を持って砂漠に立つことと、エンジンルームでタービンの音を聞くことは、同じ仕事ではない。
窓の外でアルプスの稜線が夕陽に染まっていた。
雪が光っていた。
「セルゲイ、お前は応募するのか」
「考えてる。片腕でも警備員はできるだろ」
「そうだな」
ディミトリは目を閉じた。
エンジンの音が頭の中に残っていた。LM2500の巡航時のリズム。あの音はもう聞けないかもしれない。でも忘れられなかった。
「日本か」
呟いたのは、寝入る直前だった。




