第146話「制裁」
時事ネタ?社会風刺?いずれにしろ、この作品はフィクションであり、実在の企業・団体・個人とは一切関係ありません。キリッ
2030年7月。
ジブチ国際空港。上空。
彼は窓から眼下を眺めた。
青島の工業地帯を思い出した。いや、それ以上だった。舗装されていない道路は一本も見えなかった。工業プラントが並び、製鉄所の炉が昼間でも赤く光っていた。あちこちに建設現場があり、クレーンが林立していた。
工場の屋根にNISSANと書かれた広大な施設。その車両置き場には膨大な台数のピックアップトラックが並んでいた。接岸する自動車運搬船。沖合に待機するコンテナ船の列。
「ここは本当にジブチなのか?」
彼は元中国人民解放軍の駐留経験者だった。3年前まで、このジブチに中国軍の基地があった。
「撤収からまだ3年だぞ……!」
着陸した。
空港コンコース。
羽田か成田かと見紛うほど清潔だった。国際ハイブランドの店が軒を連ねていた。カルティエ。ルイ・ヴィトン。ブルガリ。
「ここは日本の植民地か?」
FEPAホテルを希望したが予約できなかった。新規オープンの空港ホテルに案内された。部屋は広く、清潔で、窓からJFEの製鉄所が見えた。
その夜。
彼は目立たない服装に着替え、身分の手がかりになるものをすべて隠した。市街地に食事に行くふりで外出した。
JDETAの敷地に近寄っていった。
塀の外から、民生品のドローンを取り出した。コントローラーを構えた。
ドローンが塀を超えた瞬間。
「ジュッ」
音を発して、真っ逆さまに落下した。
彼は即座にスマートフォンとコントローラーを放り出した。走り出した。
タンッ——タタンッ。
首筋に熱を感じた。次の瞬間、血圧が急速に低下していく感覚だけがあった。
そのまま生命活動を停止した。
「クリアッ」
デジタル迷彩にインカム、電子ゴーグルを装着した特殊部隊員が2人現れた。素早く到着したテラノの後部に遺体を収めた。
「MAGI、状況終了」
「了解」とMAGI-1が答えた。「彼は中国発、タイ経由で進入した中国人民解放軍の特殊部隊員です。空港ホテルはドールがきれいにしますので、指定ポイントで荷物を回収して処理してください」
「コピー」
テラノが静かに走り去った。
今月も、懲りない諜報員狩りが盛況のようだった。
ウクライナ。キーウ上空。
MAGI-2が警報を発した。
ロシア領内から大規模な航空機の離陸を検知した。
Tu-22Mバックファイア、10機。
Tu-95ベア、90機。
同時に西方。クリミア方面から。
Tu-16バジャー、200機。
MAGI-2はコンマ数秒で全機の目標を算出した。
キーウに向かうKh-26巡航ミサイル、200発。そのうち20発に異常な特徴があった。熱源プロファイルが通常弾頭と異なる。
戦術核弾頭だった。
クリミア方面からのKh-26通常弾頭、400発。飽和攻撃だった。
第一艦隊。
「T-5FC、全機発艦」と黒田が命令した。
たけみかずちの甲板からT-5FCが次々と発艦した。電磁カタパルトが機体を弾き出す。無人機が続く。
機体はロシア領内ギリギリまで進出した。
AAM-4が一斉に放たれた。
MAGIコントロール。衛星とE-350Bと各種センサーの統合データが誘導した。ミサイルは発射母機を正確に捉えた。
バックファイア、1機を除いて撃墜。
バジャー、5機を除いて撃墜。
生き残った機体も損傷が激しく、機体規模から不時着が出来ただけで実質的な戦線復帰は不可能な状態だった。
これは極秘だった。
キーウ上空。
放たれたKh-26が殺到した。
09式が迎撃を開始した。30式が続いた。MAGI-2が全弾の軌道を同時に追跡し、最適な迎撃順序を0.01秒で算出した。
全弾、撃墜。
戦術核弾頭の20発も例外なく撃墜された。
クリミア方面。
つくよみが砲門を開いた。あまつくにが続いた。さるたひこ、たけはづち、やましろひこ——6隻のレールガンが遠方から迎撃を開始した。
はやぶさ改50隻が打ち漏らしを担当した。
クリミアに向かったKh-26通常弾頭400発。
全弾、撃墜。
MAGI-2からNATO司令部への通信。
「桁が足りません」
NATO司令部が聞き返した。
「……どういう意味ですか」
「今回の攻撃に対して30式の消費弾薬は想定の12%以下でした。同規模の攻撃であれば補給なしであと3回は対処可能です」
沈黙。
「なお、一点お願いがあります。撃墜したミサイルの落下地点に放射能反応がないか、NATO軍による確認を依頼します」
「放射能……戦術核が含まれていたということですか」
「確認をお願いします。以上です」
モスクワ。クレムリン。
室内が沈黙していた。
「一発も着弾しない」と誰かが言った。
「待て。戦術核の使用がバレただけではないか」
「ブーチン大統領。これでは世界中の非難を受けます。もう停戦した方が——」
ターンッ。
ブーチンは血走った目で、白煙を上げる拳銃を手に構えて言った。
「停戦だと?無能が!まともな軍人に据え替えろ!」
室内が静まり返った。
床に倒れた幕僚を誰も見なかった。
東京。内閣官房。
橘慎一郎は報告を読んだ。
戦術核が使用された。全弾撃墜された。ブーチンが幕僚を射殺した。
橘はしばらく画面を見た。
10001号が珈琲を置いた。
「どうなりますか」と10001号が聞いた。
「ロシアの崩壊が近いか、もっと危険な方向に行くかです」と橘は答えた。
「どちらだと思いますか」
「両方の可能性があります」
【国際情勢スレ】
1 名無しさん
キーウ上空で何かが爆発してたって映像が出てる
でも地上には何も落ちてないらしい
2 名無しさん
>>1
ロシアが大規模空爆を仕掛けたけど全部撃墜されたって話だぞ
3 名無しさん
クリミア方面でも爆発音が大量に聞こえたらしい
地上への被害はゼロだって
4 名無しさん
NATO軍がキーウ周辺で何かを調査してるらしい
放射線測定器を持って歩き回ってるって目撃情報が
5 名無しさん
>>4
知らない方がいいやつだと思う
6 名無しさん
クレムリンで銃声があったって情報が漏れてる
真偽不明だが
7 名無しさん
ロシア詰んでないか?




