第144話「謀議」
時事ネタ?社会風刺?いずれにしろ、この作品はフィクションであり、実在の企業・団体・個人とは一切関係ありません。キリッ
2030年6月。
ソウル。サムスン電子本社。
役員会議室。
「どうする。1ドル2000ウォンを超えた。もう日本からシリコンウェハーやフォトレジストを仕入れる余力もない。労働組合はまたストを予告している。成果給で渡したストックオプションが下がったから補てんしろって——気でも狂ってるのか」
「労組が気が狂っているのはいつものことです」と米国人副社長が言った。「だいたい成果給騒ぎの時に分かっていた話じゃないですか。奴らはブルーワーカーである自覚がない。取れる時に大騒ぎすれば得ができると学習しただけのサルと一緒ですよ」
「君はアメリカ人だから韓国を下に見てるんだろう」
「いやいや。じゃあ、あの判断が正しかったとでも?日本とまでは言わないが、あんな政府主導半導体工場集約地に工場を建てて、水も電気も毎年現地住民との配分交渉で法外な資金を垂れ流すだけで、何回あの工場は停止したんですか。インドでもベトナムでも工場を移転すべきだったでしょう」
「まあ、待ってくれ」と会長が手を上げた。「先見の明がなかったのは認める。だが、事ここにあたってこの国から逃げ出すのは無理だ。空港で八つ裂きにあいかねない。国賊企業として、三菱重工とは違って韓国政府は我々を守ってはくれない」
室内が静まった。
「わかりました」と副社長が言った。「では、消極的で先の見えない場当たり的な手法なら——日本のキオクシア、米国マイクロン、台湾TSMCに我々の持つ特許技術の60%を売却しましょう」
「可能ならそれを理由に徐々にラインを閉めましょう。幸い来年には米国に新しいファブが完成します。そちらに核心リソースを5年ほどかけて移動すればいい。政府には対米投資の一環に力を入れただけと言えるし、米国サムスン側で売上して韓国での納税額も抑えられます」
「致し方ないか……」と会長が呟いた。
「関係企業に話を持って行って反応を探ってください。あと、くれぐれもこの会議の内容を労組に漏らさないように。物理的に首が飛びますよ」
ポスコ本社。
「ダメです」と担当役員が報告した。「現代重工、サムスン重工及びハンファオーシャンからの受注が3年前比20%を下回り、建設需要も下回りました。また、20年の努力で受注を可能にした日系自動車メーカー及び造船メーカーの発注はついに0になりました。日本の高炉の復活の影響です。また世界販売についてもJFEのジブチ製鉄所の高炉が増設され、世界シェアの8%程度に躍り出ましたが、ほとんどが我々の顧客です」
「ジブチはダンピングじゃないのか」
「いえ。そもそも労働者依存率が低い次世代高炉で、なおかつアフリカの安い人件費と安い燃料費です。JFEの決算を見ても逆に国内高炉や日鉄高炉、USスチールよりも利益率は高い。ダンピング提訴しても勝てないでしょう。そもそも彼らも煩いEUや北米に積極的に販売しているわけでもありません」
「くそっ」と社長が言った。「そもそも現代重工やハンファオーシャンなんて米国の造船所の再建にリソースを取られている上に、艦船は一時期搬入したらその後は数年大きな鉄鋼需要はないからな。日欧の自動車メーカーはスト率と賃金の高い韓国での委託生産もすべて引き上げられたし」
「このままでは社債の償還ができません」
「我々は半導体のように本拠を移動することは不可能だからな……」
しばらく沈黙が続いた。
「日鉄に特許技術を売ればいいんでは」と一人が言った。「以前の訴訟和解以来、日鉄とは友好関係を維持して資本の持ち合いもしています。彼らもむげにしないと思いますが」
「日鉄に救済を求めよう。一部特許の売却も視野に入れる」
北京。中南海。
指導部の会議は非公式だった。
「ブーチンは追い詰められすぎています。核戦争を始めるのではないかと懸念しています」
「スパイからの報告では、クレムリンでは戦術核の使用場所を検討しているようです」
「将軍様からはもう兵力もミサイルも資金も枯渇で、支援を打診してきています」
「韓国は使い物になりません」と別の委員が続けた。「日本は韓国に対して完全な情報封鎖を行っている上に、メモリバブルが弾けて1ドル2000ウォンを超えました。サムスンもポスコも特許技術を日本に売却することを本気で検討しているようです」
「韓国はIMF行きだな」
「いや、IMF自体が韓国の支援に消極的だそうです」
「我々のAIIBで支えますか」
「冗談ではない」と別の委員が即座に言った。「あの国に100億ドル投資したとしても焼け石に水だ。砂地に水を撒くようなものだ」
「日本がスワップで支えるのではないか」
「今の政権は腹黒いよ。100億ドル以上にスワップ枠を増枠しなかったが、今年のスワップは更新しないようだ」
「では、そのタイミングでデフォルトか」
「あの馬鹿共は未だに金も無いくせに軍備増強に予算を増やしているのだぞ。日本のようなお人好しでも流石に見限るだろう。ドランプは日本に何か言える立場じゃなくなってるしな」
室内に沈黙が落ちた。
別の委員が呟いた。
「結局、日本か。長年コツコツと債務で縛って来たアフリカも日本に奪われた。NATOが余力を残しているのも日本のPMC戦略だ。なんなんだあのFEPAとは……EU全体よりも戦力があるじゃないか。国だったら防衛費トップ5くらいになるんじゃないか」
「すでにオーストラリアの空母を受注して、最初の空母の建造に入っているらしいな」
「では、どうする」
長い沈黙の後、軍事委員会の幹部が口を開いた。
「FEPAがヨーロッパ戦線に注力しているうちに、台湾を武力統一するべきです」
「それしかあるまい。同時に目障りな沖縄周辺の島々も占領すべきでは」
「いや」と軍部代表が首を振った。「日本が米国介入と同時に介入することは確定路線です。しかし日本は我々と戦闘する法的根拠がない。いっそ、日本が実効支配する諸島は無視して台湾本島を占拠すべきです。韓国にわずかばかりの支援を与えて、彼らの強力なロビー団体と共に、米国の参戦について可能な限り遅らせるべきです。台湾さえ獲ってしまえば日本のライフラインを抑えられます。逆に米国・台湾・日本の連合では、わが軍の勝率は2割以下です」
総書記が頷いた。
「軍部の意見を尊重しよう。以前の責任者たちのように進攻自体に反対するわけでなく、わが軍の能力と敵戦力を冷静に俯瞰した上での慎重な立案だ。戦争は事前の計画が重要だ。ブーチンの二の舞はごめんだからな」
「では指導部の方針はそのように。開戦は半年後。それまでに韓国に大々的だが実行の遅い支援を協議して、先払いとして米国ロビーでの強力な活動により、台湾支援に関する首輪をはめよ」
「ロシアは放っておけ。先払いでの商売のみ可とする」
総書記が立ち上がった。
「以上だ」
東京。内閣官房。
橘慎一郎はスクリーンを見ていた。
鬼頭班からの暗号報告だった。要約は簡潔だった。
中国が動く。半年以内。
橘はしばらく画面を見た。それから10001号に言った。
「高道総理と大泉大臣に連絡を。非公式で構いません」
「内容は」
「台湾の件です」
【国内ニュース・防衛スレ】
1 名無しさん
韓国ウォンが2000超えたって本当か
2 名無しさん
>>1
サムスンがやばいらしいな
特許を日本に売るって話が出てるとか
3 名無しさん
ポスコも日鉄に救済求めるって噂が出てる
4 名無しさん
>>3
韓国の鉄鋼と半導体が同時に詰んでるの草
5 名無しさん
IMFも韓国の支援に消極的らしい
日本のスワップも更新なしとか
6 名無しさん
>>5
詰んでるじゃん
7 名無しさん
橘さんが非公式に動いてるって噂が出てる
台湾関係らしいが
8 名無しさん
>>7
知らない方がいいやつだと思う




