第139話「街」
時事ネタ?社会風刺?いずれにしろ、この作品はフィクションであり、実在の企業・団体・個人とは一切関係ありません。キリッ
2030年4月。
渋谷。JDETAツインタワー。
引っ越しの季節だった。
当選倍率83倍。抽選に当たった住民たちが次々と搬入を始めていた。
地下駐車場から直結するエレベーターが各所に設置されていた。25人乗り・2トン積載。引っ越し業者のトラックが地下に入り、そのままエレベーターで荷物を上層階まで運べる設計だった。
「こんな設計、初めて見た。階段も廊下も傷つけなくて済む」
エレベーターのドアが閉まる瞬間、ドールAが会釈した。胸のロゴは「JDETA」だった。
商業フロアに降り立った住民の女性は、しばらく動けなかった。
「これ……全部このビルの中?」
夫が地図アプリを開いた。
「1〜10Fが商業施設。B1F東が高級飲食、B1F西が大衆飲食……200店舗全部埋まってるらしい」
「ファミレスもあるの?」
「あるらしい。回転寿司も数店舗」
「外に出る必要がない」
「保育園も小学校もある」
「外に出る必要が全くない」
保育園の前でドールHが子供の荷物を受け取っていた。子供が「ロボットだ!」と叫んだ。ドールHが「よろしくお願いします」と言った。母親が「よろしくお願いします」と深々と頭を下げた。
東タワーの低層階。
廊下のあちこちで見慣れない国旗が掲げられていた。ジブチ共和国大使館。エリトリア大使館。ジョージア大使館。ウズベキスタン大使館——。
様々な言語が飛び交っていた。アムハラ語、アラビア語、スペイン語、フランス語——。しかしどの顔にも共通した表情があった。驚嘆と、笑い。
ジブチ大使が廊下を歩きながら同僚に言った。
「ゲレ大統領が視察に来た時に何と言うかな」
「また建てろと言うんじゃないですか」
二人は笑った。
東タワー53〜55F。
スーツ姿の男たちが出勤していた。
ごく普通のオフィス勤務に見えた。しかし彼らは自衛隊員だった。53〜55Fは自衛隊施設——都内に新設された実質的な駐屯地だった。特殊部隊と高射部隊、その他必要な部隊が自由に使える。
54Fから内階段で屋上に上がれた。
屋上には自衛隊専用ヘリパットが10機分あった。その一角、電源モジュールユニットに囲まれた区画には近づけなかった。一般の隊員でも詳細は知らされていなかった。
「あの区画、何ですか」と新任の隊員が先輩に聞いた。
「電源設備だ」
「でもなんか形が……」
「電源設備だ」
東タワー最上階に近い一室。
水島義雄は車椅子のまま、窓の外を眺めていた。
新宿の高層ビル群が西の空に並んでいた。スクランブル交差点が遠く見えた。2年前まで放送センターがあった場所に、今自分が座っている。
「ようやくここまで来た」
誰に言うでもなく、呟いた。
【渋谷・JDETAツインタワースレ】
1 名無しさん
引っ越した
エレベーターが2トン積めるの反則すぎる
2 名無しさん
B1Fの飲食街200店舗全部埋まってるの草
高級フレンチからファミレスまで全部あるの意味わからん
3 名無しさん
保育園のドールHに子供が懐いてて草
4 名無しさん
東タワーの大使館街、各国語が飛び交っててカオス
でも雰囲気がいい
5 名無しさん
西タワーはスタートアップしか入れないって本当か
電通と丸紅は東タワーでもはじかれたらしいwww
6 名無しさん
東タワーの53〜55F、スーツ姿の人がいるけどなんか雰囲気が違う
7 名無しさん
>>6
自衛隊の施設らしい
都内駐屯地を移転したとか
8 名無しさん
屋上の電源設備みたいなやつ、なんか形がおかしくないか
9 名無しさん
>>8
知らない方がいいやつだと思う
10 名無しさん
水島老人が最高顧問室から渋谷を眺めてる絵、なんかいいな




