第128話「稼働」
時事ネタ?社会風刺?いずれにしろ、この作品はフィクションであり、実在の企業・団体・個人とは一切関係ありません。キリッ
2029年7月。
北京。中南海。
常務委員会の会議室は、いつもより静かだった。
経済担当の副首相が資料を開いた。
「第二四半期のGDP成長率は3.1パーセントです。年間では3.0パーセント前後に落ち着く見込みです」
誰も驚かなかった。もう驚く気力がなかった。
「日本は」と総書記が言った。
「今年度は11パーセント台の見込みです。製造業の国内回帰、ドールシリーズの社会実装、FEPA関連の輸出収益が重なっています。実質賃金は2年連続で大幅上昇。消費も伸びています」
沈黙が続いた。
「ドールとアスタコは」
「輸出禁止です。購入できません。独自開発を試みていますが——MAGIの認証システムを解析できていない。サンプルも入手できていない」
「台湾の工場は」
「TSMC高岡の第3工場が来年初頭に完成します。次世代チップの生産が始まれば、日本のAI能力はさらに跳ね上がります」
総書記は資料を閉じた。
「日本を批判する声明は出し続けろ。ただし——具体的な対抗措置は取るな。今は時期ではない」
誰も異論を言わなかった。
愛知県弥富市。
7月1日。
三菱重工業弥富製造所の正門前に、バスが止まった。小牧からの研修生を乗せたバスだった。
田村颯太は窓から外を見た。
2月に初めて見た時とは、また違う景色だった。工場棟の屋根が完成していた。煙突から白い煙が上がっていた。正門のゲートに「三菱重工業株式会社 弥富製造所」のプレートが光っていた。
松本彩花が隣でバッグを抱え直した。
「来たな」
「来た」
バスを降りると、ドールAが出迎えた。
「田村様、松本様、ご着任おめでとうございます。社員寮へご案内いたします」
社員寮の前で、担当のドールAが二人に向き直った。
「お部屋の件ですが、田村様は最終的にどちらをご希望でしょうか」
颯太は少し間を置いた。
隣で松本が正面を向いたまま、微妙に耳を傾けていた。
「3LDKで」と颯太は言った。
ドールAが一礼した。
「承りました。鍵をご用意いたします」
松本は正面を向いたまま、何も言わなかった。
ただ、少しだけ耳が赤かった。
ジブチ。
FEPA医療棟の廊下を、ジョゼフィーヌ・ベルナールは歩いていた。
FEPA医療チームへの正式合流から一週間。まだ勝手がわからないことが多かったが、ドールNが常に隣にいた。
廊下の角を曲がったところで、背の高い日本人男性と金髪の女性が話しているのが見えた。
女性が先に気づいた。
「あ、新しい先生?」
「ジョゼフィーヌ・ベルナールです。フランスから」
「ケイラ・ドナヒュー。FEPAの第1中隊長。よろしく」
ケイラが隣の男性を示した。
「こっちは田中。鹿島建設。ジブチの建物は全部この人が建ててる」
「田中です」と男性が日本語訛りの英語で言った。「ジョゼフィーヌさんが来てくれると、医療体制が助かります」
「南スーダンでドールNと一緒に働きました」とジョゼフィーヌが言った。「素晴らしかった」
ケイラが頷いた。
「うちのドールNは優秀よ」
少し間があった。
ケイラがジョゼフィーヌの腕をそっと引いた。
「ねえ、ちょっといいかな。先生として聞きたいことがあって」
田中が廊下に残された。
ジョゼフィーヌはケイラに連れられて医療棟の奥に向かいながら、彼女の様子を観察した。顔色。歩き方。手を腹部に当てる仕草——
「ケイラさん」とジョゼフィーヌが静かに言った。「もしかして——」
「声が大きい」とケイラが囁いた。「田中にはもう言ってあるけど、まだ公式じゃないから」
ジョゼフィーヌは少し笑った。
「おめでとうございます」
「ありがとう。それで、ちゃんと診てもらえる?」
「もちろんです」
廊下の向こうで、田中がひとり壁にもたれていた。
窓から港湾の景色を見るふりをしながら、口元がわずかに緩んでいた。
【弥富・愛知周辺スレ】
1 名無しさん
弥富の三菱重工、今日から本格稼働だってよ
煙突から煙出てるの高速から見えた
2 名無しさん
>>1
川崎重工の方も同じタイミングで動いてるらしい
朝から搬入のトラックが列作ってた
3 名無しさん
トラックステーションも大盛況じゃん
弥富市長よくやった
4 名無しさん
JFEの知り合いが今月の給料えぐいって言ってた
3交代になってから手取りが倍近いらしい
5 名無しさん
>>4
日鉄名古屋も同じって聞いた
製造業全体が忙しくなってるな
6 名無しさん
弥富の求人に応募したやつ受かったか?
7 名無しさん
>>6
俺は落ちた 工業系じゃないから仕方ない
でも周辺の飲食とかサービスで求人増えてるから別で探してる
8 名無しさん
地元の不動産屋が弥富周辺の物件全部埋まってきたって言ってたわ
人が来てるんだな




