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第127話「包囲」

時事ネタ?社会風刺?いずれにしろ、この作品はフィクションであり、実在の企業・団体・個人とは一切関係ありません。キリッ


 2029年6月。


 ソウル。青瓦台。


 国家安全保障会議は、今日も重い空気の中で始まった。


 国防部長官が画面を指した。


「昨夜、北朝鮮から弾道ミサイル2発が発射されました」


 大統領が眉を上げた。


「迎撃状況は」


「……われわれが探知する前に、撃墜が完了していました」


 沈黙が落ちた。



「もう一度言ってください」


「韓国軍のレーダーが探知する前に、長崎沖展開中の日本のASEV艦『くらま』がレールガンで撃墜していました。われわれの画面に警報が出た時点で、すでに破片が日本海に落下していました」


 誰も口を開かなかった。


 しばらくして、大統領が静かに言った。


「……わが国の防空システムは、何のためにあるんですか」


 国防部長官は答えられなかった。




 その会議から数時間後。


 韓国の主要メディアが一斉に報じた。


「日本ASEV艦、北朝鮮ミサイルをわが国より先に撃墜——韓国軍の存在意義に疑問」


 コメント欄は炎上した。


「韓国軍は何をしてたんだ」

「日本に守ってもらってるのか」

「09式を断った意味は何だったんだ」


 財閥系のロビイストが国防部に電話を入れた。


「09式の件、再交渉できないか」


 国防部の担当者は沈黙したあとで言った。


「……向こうが応じるかどうか」


「とにかく打診してくれ」





 地中海。


 「かぐつち」の艦橋で、矢島誠一艦長は夜明けの海を見ていた。


 イスラエル沿岸から50海里。はやぶさ改第2大隊が内側の封鎖ラインを引き、かぐつちを旗艦とする第二機動艦隊がその外縁に展開していた。


 交戦はない。必要がなかった。


 MAGI-2の試算では、イスラエルの輸入量は封鎖開始から8ヶ月で47パーセント減少していた。燃料備蓄は残り4ヶ月。食料は国内農業でなんとか補っているが、肥料と農薬の輸入が止まって久しかった。来年の収穫は期待できない。


 副長が近づいてきた。


「テルアビブから打診が来ているそうです。FEPAへの再交渉の打診を、今度はカタール経由で」


「黒田代表の返答は」


「また断るそうです」


 矢島は海を見たまま言った。


「そうか」


 それだけだった。





 テルアビブ。首相府。


 燃料備蓄の数字が画面に出ていた。誰も口を開かなかった。


 参謀総長が重い口を開いた。


「フェパへの再度の打診も断られました。カタール経由でも結果は同じです」


「EU側の動きは」


「非難決議の強化を検討しているようです。ドイツとフランスが主導しています」


 首相は窓の外の地中海を見た。水平線の向こうに、かぐつちがいる。レーダーには映らない。しかし確実にそこにいる。


「ドランプは」


「イスラエル支持を表明しています。ただ——具体的な行動は何もありません」


 支持を表明するだけで何もしない同盟国。海の向こうで静かに包囲を続けるPMC。


 首相はしばらく沈黙した。


「選択肢を全て並べてください」


 誰も答えられなかった。





 東京。内閣官房。


 橘慎一郎は、朝のブリーフィングでソウルの報告を読んだ。


 韓国のマスコミが「軍部不要論」で騒いでいる。財閥が09式の再交渉を打診してきた。


 橘はブリーフィングシートを閉じた。


 ドールA10001号が珈琲を置いた。


「韓国からの打診はどうしますか」と城島から電話が来た。


「断ってください」


「理由は」


「生産ラインが満杯です。それだけで十分です」


 電話を切った。珈琲を一口飲んだ。


 窓の外の永田町は、梅雨の雨に濡れていた。





 愛知県名古屋市。


 栄の居酒屋は、金曜の夜で混んでいた。


 田村颯太と松本彩花は、カウンター席に並んで座っていた。研修が終わった金曜の、ごく自然な流れだった。


 松本が生ビールを頼みながら言った。


「小牧、思ったより良かったな」


「設備がえぐかった」と颯太が言った。「XF9-1の燃焼試験、あの音は忘れない」


「イヤーマフしてても腹に来るやつ」


「そう」


 二人は笑った。


 しばらく串焼きを食べながら、どちらも黙っていた。外の雨が強くなってきた。


「弥富の寮、どうするか決めた?」と松本が言った。画面を見ながら、独り言のように。


「まだ」と颯太が答えた。「1LDKか3LDKか」


「3LDKって広いな」


「広い」


 また沈黙が落ちた。


 カウンターの向こうで、ドールAが黙々とグラスを拭いていた。胸のロゴは「栄食品」だった。


 松本が串を置いて、少しだけ颯太の方を向いた。


「……どっちにするか、決まったら教えて」


 颯太はビールを一口飲んだ。


「うん」





 名古屋市内。


 深夜のコンビニに、40代の男性が入ってきた。作業着姿だった。JFE知多製造所の夜勤明けだった。


 レジに並びながら、スマートフォンを見た。給与明細の通知が来ていた。


 24時間3交代体制になってから2ヶ月。残業代と深夜割増を合わせた今月の手取りは、以前の倍近かった。


 男性はしばらく画面を見てから、缶ビールを一本追加でカゴに入れた。





【日欧共闘スレ】


ID:8vYnKp2A

韓国のニュース見たけど草も生えない

くらまに守ってもらっといて軍部不要論とか


ID:mJ3kPp7T

財閥が09式の再交渉打診したらしいけど

断られるに決まってるだろwww


ID:vLx3Nn8A

JFEの知り合いが今月の給料えぐいって言ってた

3交代になってから別人みたいな額らしい


ID:k4RrQw2X

イスラエル燃料備蓄4ヶ月って相当追い詰められてるな

カタール経由で打診してまた断られてる


ID:rYtK3z1B

くらまに守ってもらってる韓国が09式の再交渉要請とか

図々しいにも程があるwww


ID:8vYnKp2A

「生産ラインが満杯です」←これだけで切るの草


ID:Toshi_k9

(みんな鋭いな……)

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