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第116話「黒海」

時事ネタ?社会風刺?いずれにしろ、この作品はフィクションであり、実在の企業・団体・個人とは一切関係ありません。キリッ



2028年秋。イタリア。アンコーナ港。


夜明け前だった。


港に52隻が並んでいた。


つくよみが先頭に立っていた。18,000t。双胴船。全長220m。レールガンの砲身が夜明けの光を反射していた。


補給艦が続いた。


はやぶさ改50隻が後に並んだ。


黒田康介(元海上自衛隊将補・FEPA代表)が艦橋から港を見下ろしていた。


「——全艦出港する」


52隻が速度を少しずつ増し出した。


アドリア海に出た。


上空に5機のT-5Fが現れたやけに低く飛んでいる。


レーダーには何も映っていなかった。





同じ頃。東京。内閣官房。橘の執務室。


「——第一機動艦隊がアンコーナを出港しました」と城島が報告した。


「そうか」


「——52隻です。つくよみ、補給艦、はやぶさ改50隻」


「そうだ」


「——未完成の艦隊だが」


「今はこれで十分だ」


地中海を南東に進んでエーゲ海に進入する。


ダーダネルス海峡が見えてきた。





同じ頃。キーウ。ウクライナ大統領府。


外務担当者がトルコ大使館に通知を送った。


「——ウクライナが雇用するFEPA社のPMC艦隊が、モントルー条約に基づいてボスポラス海峡を通過します」


ボスポラス海峡は、モントルー条約により黒海沿岸諸国以外の15000tを超える軍艦は通過する事が出来ない。トルコの要撃を受ける政治的難所だ。




アンカラ。トルコ大統領府。


担当者が通知を受け取った。


「——ウクライナのPMCから通過通知が来ています」


「——何隻だ」


「——52隻です。旗艦は18,000tの双胴艦です」


大統領府に沈黙が広がった。


「——モントルー条約上は問題ないのか?」


法律顧問が答えた。「——沿岸国であるウクライナが雇用するPMCの艦船です。条約上の問題はありません」


「——日本からは何か連絡はあったか?」


「——何もありません」


「——……了解した。通過を認める」




トルコ。防空管制室。


「——ボスポラスを52隻が通過中です」


「了解。PMCだな」


「直掩機が5機いるんですが——」


「PMCの直掩機だろ」


「レーダーに映っていません!」


「「「……」」」


「つまり・・・何もいない」


「——そうだ。何もいない」


「了解しました」


担当者がしばらくモニターを見た。



「T-5Aの契約を急いだ方がいいかもしれません」


「今すぐ大使館に連絡しろ」





FEPA第一艦隊はボスポラス海峡を抜け黒海に入った。


MAGI-2が全域のスキャンを開始した。


「ロシア黒海艦隊の残党を確認しました。巡洋艦1隻、フリゲート2隻、小型艦4隻。西方270km付近に展開しています」


黒田が静かに言った。「レールガンの射程内か」


「400km以内です。十分です」


「データが欲しい。撃て」


「了解しました。目標、ロシア巡洋艦。距離270km」


砲身が動いた。


三式弾が装填された。


発射された。


音がだいぶ遅れて届く。


270km先で爆発が起きた。


「——命中。巡洋艦、大破炎上」


「——次」


フリゲート1隻目。250km。


命中。


フリゲート2隻目。280km。


命中。


小型艦は逃走を開始している。


「逃がせ」と黒田が静かに言った。「報告を持って帰らせる」


ケビンが静かに言った。「砲身消費9発。残り141発です」


「問題ない」





翌日。黒海西部。オデーサ沖。


52隻がオデーサ沖に展開した。


ウクライナ軍の連絡将校が艦橋に乗り込んできた。「ザポリージャ原発の防空支援をお願いしたい。ロシアのドローンと巡航ミサイルが繰り返し攻撃している」


黒田が頷いた。「MAGI-2、ザポリージャ原発周辺の防空を開始しろ」


「了解しました。レールガンとレーザーターレットを連携させます。有効射程150km以内の全目標を自動迎撃します」


その夜。ロシアのシャヘドドローン60機が飛来した。


レールガン三式弾が発射され炸裂するとフレシェッドが面となって広がり衝突した。


60機中57機が撃墜された。


残り3機はレーザーターレットによるレーザーが処理した。


「全機撃墜」とケビンが報告した。


「原発への着弾はゼロです」


「やはり、レールガンは質量兵器なので三式弾(フレシェット弾)との相性が良いですね」


ウクライナ軍の連絡将校がしばらく黙った。


「圧倒的だ、400km先なのに・・・ありがとうございます」と静かに言った。


「——仕事です」と黒田が答えた。





翌朝。アンコーナ。T-5F第4飛行大隊。


コール(FEPA T-5F第一飛行隊長・コールサイン「カウボーイ」)がコックピットに収まった。


「——クリミア半島の空軍機がスクランブルをかけてきたそうだ」とMAGI-2が通知した。「——Su-27が8機。クリミア基地から発進中です」


「——来るのか」


「——射程に入り次第、対処してください」


コールがバイザーを確認した。


8機のマーカーが展開されていた。


「——バイザーの情報に従うだけの簡単なお使いですよッと」


Su-27が距離を詰めてきた。



AAM-4が発射された。


8機のうち6機が撃墜され残り2機は反転して全速で逃走に移った。


「楽しいな」とコールがつぶやいた。


「楽しんでいただけて何よりです」とMAGI-2が答えた。


「お前が言うと怖いな」





数日後。クリミア半島。ロシア航空基地。


「黒海に入った日本のPMCに6機が撃墜された」という報告が届いた。


「何の機体だ」


「レーダーに映らなかった」


「「「……」」」


「もうスクランブルはかけるな、損害が広がるだけだ」


「了解しました」





【掲示板】日欧共闘まとめスレ


1: ID:Xk7mNpQ3

FEPAが黒海に入ったのか。52隻って本当か


2: ID:mR8vwZ09

ボスポラスをウクライナのPMCとして通過したらしい。日本からは何も通知しなかったって


3: ID:Tb3nHsW1

トルコが混乱したらしいなwww


4: ID:nQ0vXc7R

レーダーに映らない直掩機付きだったって話が出てる


5: ID:zW4qRm5S

ロシアの黒海艦隊残党がレールガンで試し打ちにされたって本当か


6: ID:Toshi_k9

ザポリージャ原発のドローン攻撃を全機撃墜したらしい。原発への着弾ゼロ


7: ID:8vYnKp2A

栃木から来ました。クリミアのスホーイが6機撃墜されたって話が流れてるぞ


8: ID:nQ0vXc7R

ロシアがスクランブルをかけるのをやめたって本当か


9: ID:Toshi_k9

レーダーに映らない機体に6機落とされたらそうなるだろwww


10: ID:mR8vwZ09

見えないとこで動いてた人間が黒海まで動かしてるのか


11: ID:Toshi_k9

全部同時に動いてるんだよ。見えないとこで





東京。内閣官房。


城島が橘に防衛関連の報告をした。「第一機動艦隊が黒海に展開しました。ロシア黒海艦隊の残党を撃破しました。ザポリージャ原発の防空を開始しました。クリミアのSu-27を6機撃墜しました。ロシアがスクランブルをやめたようです」


「そうか」


「レールガンのデータは?」


「MAGI-2が全弾の着弾データを解析中です。三式弾の相性が良いとケビンから報告が来ています。砲身消費は9発。残り141発です」


「そうか」


「未完成の艦隊で十分すぎましたね」


「今はこれで十分だ」


橘は答えなかった。ドールA10001号が温めたコーヒーを差し出した。橘が受け取った。今日も温かかった。


窓の外に霞が関の秋の空が広がっていた。


黒海ではつくよみが静かにオデーサ沖に浮かんでいた。レールガンの砲身が次の任務を待っていた。コールが牛丼を食べていた。トルコがT-5Aの契約を急いでいた。クリミアのロシア空軍基地ではスクランブルの命令が出なくなっていた。


全部同時に動いていた。


冷めたコーヒーに手を伸ばしたが、もう飲んでいた。珍しく、空のカップを持ったままだった。

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