第117話「クリミア」
時事ネタ?社会風刺?いずれにしろ、この作品はフィクションであり、実在の企業・団体・個人とは一切関係ありません。キリッ
2028年秋。黒海。オデーサ沖。つくよみ艦橋。
MAGI-2がモニターを展開した。
「クリミア半島の空軍基地を確認しました。サキ基地、ベルベク基地、ジャンコイ基地、サラブズ基地の4か所です。航空機の配備状況、格納庫の位置、燃料タンクの座標、防空システムの配置——全て把握しています」
黒田康介(元海上自衛隊将補・FEPA代表)が静かに言った。「始めろ」
「了解しました」
アンコーナ。格納庫。
コール(FEPA T-5F第一飛行隊長)がコックピットに収まった。
「今日のお使いは?」
「クリミアの空軍基地4か所です」とMAGI-2が答えた。「順番に更地にしてください」
「更地に?」
「繰り返し攻撃して、使用不能になるまで続けます」
「丁寧だな」
「日本人ですから」
コールが少し笑った。「バイザーの情報に従うだけの簡単なお使いですよッと」
T-5F第4飛行大隊が離陸した。電波を一切発しなかった。
第1波——サキ基地
ウェポンズベイが開いた。GBU-31が投下された。
格納庫が炎上した。燃料タンクが爆発した。滑走路がクレーターだらけになった。
MAGI-2「サキ基地、第1波完了。格納庫3棟全損、航空機14機炎上、燃料タンク全損、滑走路使用不能」
「次波を準備してください」
第2波——ベルベク基地
格納庫が消えた。滑走路が砂漠になった。
MAGI-2「ベルベク基地、完了」
クリミア半島。ロシア軍司令部。
「サキとベルベクが攻撃を受けた! 対空レーダーに——」
「何も映っていません」
「スクランブルを——」
「ジャンコイが攻撃を受けています」
「どこから来ている」
「分かりません」
「見えません」
第3波・第4波——ジャンコイ・サラブズ基地
1日では終わらなかった。
翌日も。翌々日も。T-5F隊は飛び続けた。
3日後——クリミア半島の空軍基地4か所は使用不能になった。
コール「更地になりましたよ」
MAGI-2「確認しました。クリミア半島における航空作戦能力はゼロになりました」
「牛丼食ってくる」
モスクワ。クレムリン。
プーチンが赤い顔で立っていた。
「戦術核の使用を検討しろ」
側近が静かに答えた。「依頼者はNATOです。西側と全面戦争になります」
「FEPAの発進基地はどこだ」
「イタリアです。EUのTOP3の一角です」
「……」
「海上部隊を攻撃しようとしても——バタバタ落とされています」
プーチンが長い沈黙の後に言った。「FEPAとは何者だ」
誰も答えられなかった。
キーウ。ウクライナ大統領府。
ゼレンスキーが黒田に電話した。
「黒田代表! そのままロシアの陸軍も殲滅してくれ!」
黒田が静かに答えた。「我々の雇用者はNATOです。あなたではない。NATOの依頼は戦争拡大の防止と抑制です」
「では私が依頼する!」
「構いません。ただし我々は高いですよ。あなたの国のドローン技術の対価では——あの空軍部隊の1ソーティにもなりませんが、払えますか?」
ゼレンスキーが黙った。
「……検討します」
「いつでもどうぞ」
同じ頃。ボスニア・セルビア・ルーマニア。
T-5F第4飛行大隊の一部が北上した。
ルーマニア東部——ルーマニア進攻を企む、ハンガリー軍の集結地に近い国境沿い——
T-5Fが超低空で飛行した。高度50m。マッハ1.2。
轟音が地上に響いた。
ハンガリー軍の集結地——
「何だ今のは!」
「レーダーに何も映っていません」
「あれはソニックブームだ!あの山肌の森林を見ろ!」
指さす先の山肌にはくっきり見えるように、数本の筋状に木々が割き倒されていた。
「でもレーダーには何もいません」
翌日も同じだった。翌々日も同じだった。
ハンガリー軍の前線司令官が本国に連絡した。「目に見えない何かが繰り返し上空を通過しています。クリミアの空軍基地が全部消えました。進攻の再検討をお願いしたい」
3日後——ハンガリー軍がルーマニア国境から後退し始めた。
同じ頃。東京。渋谷。NHK跡地。
10月に入っていた。解体工事が完了していた。広大な更地が広がっていた。
夜中だった。タコマとタチコマが動いていた。基礎杭の打設が始まっていた。
MAGI-3が3,000ページのスケジュール表通りに管理していた。
「このペースなら2029年10月のしゅん工は問題ありません」とMAGI-3が静かに言った。
大成建設の現場監督が夜空を見上げた。
「JDETAツインタワーか……」と現場監督がつぶやいた。
「しゅん工後は屋根に『JDETA♪』と大書します。衛星から見えるように」とMAGI-3が答えた。
「お前が喋るのか!?」
「状況判断の範囲内です」
「怖い会社だな、JDETAは」
【掲示板】日欧共闘まとめスレ
1: ID:Xk7mNpQ3
クリミアの空軍基地が全部更地になったって本当か
2: ID:mR8vwZ09
4か所を順番に更地にしていったらしい。丁寧だなwww
3: ID:Tb3nHsW1
ロシアがスクランブルもかけられなくなったのか。レーダーに映らないから
4: ID:nQ0vXc7R
プーチンがブチギレれて、真っ赤にヤカンみたいになってるだろうな
5: ID:zW4qRm5S
でも依頼者はNATOでイタリアが発進基地だから全面戦争になるだろ。使えないわ
6: ID:Toshi_k9
ゼレンスキーが陸軍の殲滅を依頼しようとしたが断られたらしいな
7: ID:8vYnKp2A
栃木から来ました。まあ、FEPAはNATOの依頼だしな
8: ID:nQ0vXc7R
ハンガリー軍がルーマニア国境から後退し始めたって話が出てるぞ
9: ID:mR8vwZ09
目に見えない何かが繰り返し上空を通過してたらそうなるだろ
10: ID:Toshi_k9
渋谷のNHK跡地で夜中もタコマとタチコマが動いてる。全部同時に動いてるんだよ
東京。内閣官房。
城島が橘に防衛関連の報告をした。「クリミアの空軍基地4か所が使用不能になりました。ゼレンスキーが陸軍殲滅を依頼しようとしましたが黒田代表が断りました。ハンガリー軍がルーマニア国境から後退し始めました。渋谷の基礎工事が始まりました」
「そうか」橘が静かに続けた。「プーチンが戦術核の使用を検討したのは知ってるか?」
城島が止まった。「——いつの話ですか」
「クリミアが更地になった翌日だ。側近に止められた。依頼者はNATOでイタリアが発進基地だから全面戦争になると」
「——どこからその情報が……」
「さあな」
城島がしばらく橘を見た。「——鬼頭か」
橘は答えなかった。ドールA10001号が温めたコーヒーを差し出した。橘が受け取った。今日も温かかった。




