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第115話「鬼頭班」

時事ネタ?社会風刺?いずれにしろ、この作品はフィクションであり、実在の企業・団体・個人とは一切関係ありません。キリッ



2028年秋。ジブチ。FEPA基地。



JAPEXの担当者がMAGI-1のモニターを前に立っていた。


「初期データが出ました。天然ガスの埋蔵量が想定より遥かに大きい規模です」


ENEOSの担当者が続けた。「原油田も同様です。このサイズなら精製所の建設を急ぐ必要があります」


ケビンが言った。「MAGI-1に設計を依頼してください。過酷な地形での最短工期の設計なら——」


「何秒かかりますか?」


「2.2秒です」


2人が顔を見合わせた。


MAGI-1「——設計完了しました。製鉄所の先行稼働を最優先とします。当面は鉄鉱石と燃料を輸入して稼働させ、国内調達への移行は段階的に進めます。天然ガス田の掘削計画、パイプラインルート、精製所の建設計画、埠頭の拡張計画まで含めて最短工期で提示します。鹿島建設への下工事の発注を推奨します。川田建設の鉄橋架設部隊の投入も必要です。MICの大型クレーンを大量投入してください。設計書と発注書を各社に送信します」


「——何ページですか?」


「2,800ページです」


担当者が黙った。


JFEスチールの担当者が続けた。「製鉄所は建設が進んでいますが——燃料と鉄鉱石の輸入ルートを確立しないと稼働できません」


「スーダンからの鉄鉱石輸送は?」と ENEOSの担当者が聞いた。


「まだルートが確立していません。当面は輸入で対応します」


ケビンが頷いた。「JDETAから拠点内インフラの拡充要請も来ています。大量の作業員が入ってきますので宿舎と飲食街の拡充が必要です。費用はJDETAが負担します」


田中本部長が腕を組んだ。「——積算します」





同じ頃。日産自動車本社。


「テラノを復活させます」と開発担当者が言った。「ジブチ向けの仕様から始めます。全幅2.0m、全長5.5m、三菱トライトンの技術供与を受けます」


「電子系は?」


「簡略化します。高張力鋼は使いません。現地で直せる設計にします。価格は2万ドルです。日系企業の関係者なら即購入できます」


「——国内向けのデザイン刷新は?」


担当者が続けた。「イタリア人デザイナーを招聘します。全車種を無骨なアドベンチャーイメージに統一します。エンブレムは後部のみにします。前面には置きません。ポルシェ方式です」


「——トヨタの真逆か」


「そうです。それが勝ち筋だと判断しました」


セレナ、ノートをEV・e-POWER・ディーゼルの3本立てでフルモデルチェンジする。ADを復活させる。NV200は廃止する。キャラバンの価格帯を幅広くする。新型シーマと新型ローレルの開発を始める。


全部同時に動かす。




同じ頃。ジブチ。基地内。屋内植物園。


夕暮れ時だった。


エマとサラが植物園で走り回っていた。エマは12歳になっていた。サラは10歳だった。


田中本部長が縁石に腰を下ろしてコーヒーを飲んでいた。


ケイラ・ドナヒュー(第1中隊長・少佐)が隣に座った。「——エマが最近ジブチの子たちと遊ぶようになった」


「そうですか」


「アラビア語を少し覚えてきた。本人は気にしてないが——」ケイラが続けた。「このままここで育てていいのか、たまに考える」


田中がしばらく植物園を見た。「——インターナショナルスクールを建設する計画があります。基地内に。MAGI-3が設計しました」


「——本当ですか?」


「JDETAが費用を出します。来年度には開校できると思います。英語・日本語・フランス語・アラビア語の4言語教育です」


ケイラがしばらく黙った。「——日本語も?」


「そうです」田中が続けた。「永住権が取れたら日本の学校に行かせることもできますよ。今の日本は変わってきていますから。外国籍でも入りやすくなっています」


「——エマとサラが日本の学校に……」


「本人たちが希望するなら」


エマがこちらに走ってきた。「田中のおじさん! 今日も魚釣れた!」


「——また釣れたのか」田中が少し笑った。「今夜捌いてあげよう」


「やった!」エマが走って戻った。


ケイラがしばらく田中を見た。「——田中さん、ありがとうございます」


「何がですか」


「——色々と」


田中が照れたように視線を外した。「……建設の話に戻りましょう。明日の朝から川田建設が鉄橋の架設を始めます」


ケイラが少し笑った。「——そうですね」





同じ頃。東京。内閣官房。橘の執務室。夜。


片桐隆文と城島哲也が向かい合っていた。ドールA10001号が3人分のコーヒーを置いた。


城島が口を開いた。「中東が片付いてよかった。だが、このあとロシアとイスラエル、中国も控えてるな」


片桐が続けた。「米国がレームダックに陥ってくれたおかげでおとなしい分助かったな」


橘がコーヒーを一口飲んだ。


「お前らは何もわかってないよ」


2人が止まった。



「イランの革命防衛隊はまだ表面上ショックを受けているだけだ。だが、奴らにはまだゴッズ部隊が世界中に散らばっている。革命防衛隊はイラン革命防衛隊じゃない。イスラム革命防衛隊だ。奴らは世界に15,000人以上の構成員を潜伏させている。昔、日本でも大学教授が暗殺されただろう? ちゃんと勉強してるか?」


「知っています」と片桐が静かに言った。


「イスラエルだって、モサドの非合法諜報網や世界中のユダヤ人組織の下支えで成立してる国だぞ? いつ米国に影響力を行使するかわからん。もっと大人な判断をできるようになれ」


城島が少し間を置いた。「では、どうするんですか」


橘がしばらく窓の外を見た。



「最近、TVドラマで人気があるVIVANT知ってるな?」


城島「ああ、大泉大臣が記者会見で聞かれて、過去も現在も存在しないって回答してた。あれ?」


片桐「あんなの嘘っぱちだろ?」


橘が少し笑った。


「あながち嘘でも無くてな。確かに自衛隊にそんな組織は無い。だが、内閣調査室には秘密情報部隊はあるんだよ。これは内閣官房でもごく一部の人間しか知らない。今の総理も知らない。我々参事官がその調整指示を担っている。別班では無いが公的に存在しない自衛隊OBで編成された——鬼頭班だ」


2人が黙った。


「元々人員が少し多いだけの個人組織だったんだが、今は俺が組織を改編して指示を出している。実はMAGIの情報にはこのヒューミントも活用しているんだよ」


橘が資料を出した。


「欧州に200人、北米に100人、中南米に100人、中東に50人、アフリカに50人、インドから東南アジアに150人、オーストラリア20人、ロシア東欧に50人、中国・台湾・モンゴル・朝鮮の特亜に200人、国内に180人で合計1,000人ほどの情報部門だ」


「1,000人……」と城島がつぶやいた。


「今回は各国の動向調査とイランの革命防衛隊の詳細な動向、米国でのロビー活動にも使ってる。彼ら自身は今までは雑多な情報を上げても有効利用されないので、かなりうっぷんが溜まっていたようだ。賃金、経費は機密費で賄われている」


片桐が静かに言った。「それだけの組織をどうやって——」


「大国の国際政治の部隊は綺麗ごとではない」と橘が続けた。「自分の嫁もこの部隊の出身だよ。銀座だけでも数十人が潜ってるんじゃないか?」


城島が止まった。「橘さんの嫁が……」


「そういうことだ」


しばらく沈黙が続いた。


「ゴッズ部隊は厄介だ。鬼頭にできるのはテロ情報の察知と現地政府への情報提供を察知して時間を掛けて削るしかない。中国、ロシア、北朝鮮、トルコの武器商人ルートを潰したりな。イスラエルは兵糧攻めの間に何人かのユダヤ系団体や財閥の統率者が何十人か影響を受けるかもしれん」


片桐が静かに聞いた。「影響を受けるとは?」


橘は答えなかった。


コーヒーを一口飲んだ。


今夜は温かかった。


城島と片桐が帰った後、ドールA10001号が空になったカップを片付けた。


「今夜は3杯でしたね」


「そうだな」と橘が静かに言った。


窓の外に霞が関の夜の空が広がっていた。


ジブチでは製鉄所の建設が急ピッチで進んでいた。川田建設の架設クレーンが北西部の渓谷に向かっていた。MICの大型クレーンが港に降ろされていた。日産の設計室ではイタリア人デザイナーが新型テラノのスケッチを描いていた。銀座では今夜も灯りが点いていた。世界中の1,000人が今夜も情報を集めていた。


全部同時に動いていた。

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