第110話「大泉覚醒」
時事ネタ?社会風刺?いずれにしろ、この作品はフィクションであり、実在の企業・団体・個人とは一切関係ありません。キリッ
2028年5月。東京。防衛省。
黒田康介(元海上自衛隊将補・FEPA代表)から城島哲也(防衛省審議官)に電話が入った。
「城島さん、航空部隊が足りんぞ」
「一個飛行大隊で足りないって……45機いるでしょう」
「馬鹿か。E-350Bが24時間対空だから直掩を常時2機プラス2機を3交代だ。これでもう12機、スクランブルに8機、残り25機で稼働率が70%とすると良くて12機しか作戦に使えんよ」
城島がしばらく黙った。「今まではNATOのF-16が直掩していたでしょう?」
「参戦したらどこでも交戦してくるよ。F-16には荷が重い。ボコボコ落とされてんじゃないか。E-350Bは虎の子だぞ」
「大泉大臣と相談します」
城島が大泉進太郎(防衛大臣)に報告した。
大泉がしばらく黙った。
「やっぱりそうだよな」大泉が続けた。「とりあえず訓練部隊のT-5Aは20機はそろっているんだろ? F型仕様にして1カ月以内にアンコーナに送ってくれ。こちらは次のロットからT-5Fで納品させるよ」
「了解しました」
大泉が地図を見た。「FEPAには最終的に3個飛行大隊135機と予備機15機、合計150機体制を作ってほしい。それを黒田代表に伝えてくれ」
「——了解しました」
大泉が続けた。「それとは別に、三菱重工に話をつけてくれ。T-5Aは1,000機以上売れる確信がある。生産能力を100機/年に増強してほしい。小牧では限界だ。新工場が必要だ」
翌日。名古屋。三菱重工航空機事業部。
大泉からの直接連絡を受けた三菱重工の担当者が地図を広げた。
「——愛知のMAGI拠点と名古屋競馬場の間の農地155ヘクタールです」
「これだけあれば——」
「ジブチ型のAI型新工場を建設できます。愛知拠点の空港設備を使えば完成機をそのまま飛行搬送できます。最大限の効率化が図れます」
「——問題は?」
「工場1軒の立ち退きと——」担当者が地図を指した。「違法資材置き場と中古車集積所が数か所あります。国策として自治体に協力を要請できれば即時整理できます」
「——牧野さんに動いてもらいましょう」
数時間後。東京。内閣官房。
牧野俊介(経産省同期)が橘に報告した。「三菱重工から提案が来ました。愛知拠点と名古屋競馬場の間の農地155ヘクタールを工業用地化して新工場を建設したいとのことです。立ち退き1軒と違法資材置き場・中古車集積所の整理が必要で、国策として愛知県と名古屋市の協力をお願いしたいとのことです」
橘が少し間を置いた。「動いてくれ」
「了解しました」
「愛知拠点の空港設備を使えば搬送効率が最大化できる。100機/年は十分可能だ」
同じ頃。東京。内閣官房。
牧野が橘に別の資料を出した。「ドールAの社会浸透状況です。水産加工工場への導入が加速しています。魚の内臓処理から切り身、パック詰めまで。牧畜業も早朝の搾乳や餌やり、健康チェックをドールAが担っています。野菜集荷市場では早朝の仕分けと箱詰め。宅配便の深夜シフトも減りました」
「そうか」
「解放された人間が夜の飲食業に流れています。名古屋の錦三丁目が活況です。川崎の居酒屋街も同じです。深夜まで人が出歩くようになりました」
橘が少し間を置いた。「日本転生Rev1はここまで波及するか」
橘参事官のデスクの電話が鳴った。大泉防衛大臣だ。
「橘さん、一つ宿題を出していいか」
「なんでしょう」
「FEPAに空母を持ってほしいんだが。2隻くらいは——」
橘がしばらく黙った。「分かりました。検討します」
翌日。東京。内閣官房。
橘と城島が向かい合っていた。
橘が地図を広げた。「大泉から空母のFEPA保持の依頼が来た。艦隊編成と搭載機数を整理しよう」
城島が続けた。「中国側はJ-20だけで300機。全体では戦闘機だけで2,566機。ステルスで対抗できるのは現在F-35の145機だけだ。調達予定のGCAPが間に合っても95機。FEPAの戦線投入でもT-5Fが150機で390機」
「馬毛島から台湾海峡は遠い。馬毛島のキャパとてな・・・FEPA150機の駐留は無理だな」
「宮古島・与那国に基地を作ると——」
「開戦の口実になる」と橘が続けた。「FEPAの空母が洋上展開すれば固定基地は要らない。自衛隊の無人僚伴機もFEPA空母に搭載できる」
城島がしばらく地図を見た。「有人機空母が2隻、それだけでは足りないですね」
「そうだ。FEPAは有人機空母2隻と無人機専用空母2隻を持つ。自衛隊にはひゅうが型の後継として無人機空母を2隻、防衛予算で持ってもらう。合計6隻だ」
「有人機1機に無人機4機を組ませれば——」
「700機体制になる。自衛隊のF-35、GCAPと合わせれば約950機。全機ステルスだ」
橘がドールAを通じてMAGI-3に設計を依頼した。
「1分かけてくれ」
MAGI-3「——58秒かかりました」
「……もう少しかけてくれ」
2種類の空母の設計データが展開された。
有人機空母11万t×2隻——電磁カタパルト4基、アングルドデッキ、ゴールキーパー6基、レーザーターレット12基、乗員1,500名、miniMAGI搭載。
無人機専用空母7万t——FEPA×2隻、自衛隊×2隻——電磁カタパルト2基、3層構造、ゴールキーパー4基、レーザーターレット8基、乗員200名の超省力艦。CICなし。タンカー並みの運航監視体制。
「乗員200名か」と城島が言った。
「MAGIが動かす。人間は監視と軽整備だけでいい」
翌日。東京。財務省。
橘が片貝かつき(財務大臣)と向かい合っていた。
「空母の建造費が必要です。FEPAの有人機空母が1兆円×2隻で2兆円。FEPAの無人機空母が7,000億円×2隻で1兆4,000億円。FEPA分の合計は3兆4,000億円です。FMS特会の産業振興枠から出してください」
「また特会が減りますね」
「投資だ。スマートドックで建造すれば米国の半額以下になる。ガスタービン採用で原子炉は不要だ」
「自衛隊の無人機空母は?」
「大泉と調整してくれ。防衛予算で2隻分——1兆4,000億円だ」
片貝がしばらく資料を見た。「了解しました」
翌日。東京。総理官邸。
高道香苗(総理大臣)が資料を見た。
「空母6隻か——」
「FEPAが4隻、自衛隊が2隻です。FEPAとしての保有ですので憲法上の問題はありません」と橘が静かに言った。
高道がしばらく橘を見た。「ギリギリ国会で通せるわね。やってください」
「ありがとうございます」
東京。内閣官房。夜。
橘が城島に言った。「T-5Fは艦載機仕様のT-5FCに移行する。MAGI-3に設計させる」
「またですか」
「今後の生産は全部T-5FCにする。FEPA所持分のT-5Fは部隊単位でT-5FCに順次入れ替える」
「旧T-5Fはどうする?」
橘が少し間を置いた。「ステルス塗料を剥がしてT-5Aとして売る。定価で。売却益でT-5FCを買う。FEPAは実質タダで艦載機に換装できる」
城島がしばらく橘を見た。「マリーニが聞いたら」
「CFOの仕事だと言うだろう」
城島がため息をついた。「怖いな、お前は」
東京。内閣官房。
城島が橘に報告した。「T-5A×20機のF型転換が始まった。1カ月以内にアンコーナへ送られる。大泉が三菱重工と直接交渉を始めた。空母の建造も高道総理の決裁が下りた。愛知の新工場用地の確保も牧野が動き始めた」
「そうか」
「大泉が変わったな」
「そうだ」橘が静かに言った。「1話の頃から比べると——」
「誰かの影響ですかね」
「さあな」
橘は答えなかった。ドールA10001号が温めたコーヒーを差し出した。橘が受け取った。今日も温かかった。
窓の外に霞が関の初夏の空が広がっていた。
名古屋の錦三丁目では今夜も深夜まで人が溢れていた。川崎の居酒屋が満席だった。アンコーナではT-5Aの転換作業が始まっていた。大泉が三菱重工と直接交渉していた。愛知の農地155ヘクタールに新工場が建つ計画が動き出していた。MAGI-3が58秒で設計した空母の図面がスマートドックに送られていた。
全部同時に動いていた。
冷めたコーヒーに手を伸ばしたが、もう飲んでいた。珍しく、空のカップを持ったままだった。




