第107話「世界の変質」
時事ネタ?社会風刺?いずれにしろ、この作品はフィクションであり、実在の企業・団体・個人とは一切関係ありません。キリッ
2028年4月1日。東京。
民放NHKが放送を開始した。
SKIPシティのスタジオはまだ整備途中だった。スカイツリーとの通信が悪いのか、画質が悪かった。アナウンサーの後ろには段ボール箱が積まれている。
「——本日よりNHKが民間放送局として新たなスタートを切りました。視聴者の皆様のご支援をお願いします」
民営化前からおなじみのアナウンサーで、愛着があったのか、世間のバッシングを気にしたのか、残留し
たようで、いつもお馴染みの顔ぶれが並んでいた。
視聴率は2.3%だった。
渋谷。NHK跡地。
民放NHKが川口で放送を開始した同じ朝——
大成建設と大林組のタチコマが渋谷に入った。
まず内部の一部を解体してスペースを作った。仮囲いが設置された。現場事務所が建った。タコマとタチコマの充電ステーションが設置された。
「——建造を止めずに進める」と現場監督が言った。
「MAGI-3の指示通りに動いてくれ」
同じ頃。世界が動いていた。
ブダペスト。ハンガリー。
ハンガリー首相が演説した。「我が国はロシアとの友好関係を維持する。NATO加盟国でもないウクライナの支援はすべて打ち切る、ハンガリー国民の利益を優先する」
翌日。ルーマニア国境にハンガリー軍が集結し始めた。
NATO本部が静まり返った。
「——加盟国同士が……」
「NATO規約第5条は?」
誰も答えられなかった。
同じ日。ベラルーシが正式にロシア側での参戦を宣言した。ウクライナの北部国境に圧力がかかり始めた。
テルアビブ。イスラエル。
イスラエル軍がレバノン南部に進攻を開始した。ヒズボラの拠点を次々と制圧していった。中東が再び燃え上がった。
東京。内閣官房。
城島が橘に報告した。「ハンガリーがルーマニアへの進攻準備を始めた。ベラルーシが参戦した。イスラエルがレバノンに進攻した」
「そうかNATO瓦解したか・・・」
「NATO加盟国同士の対立だ——第5条が発動できない」
「だからFEPAへの依頼が来たんだ」と橘が静かに言った。「E-350Bを動かす」
「——E-350Bですか。E-350とは違うんですよね?」
「そうだ」と橘が続けた。
「E-350はA350にE-3のシステムを移植しただけの機体だ。レーダー出力を1.5倍に強化してあるだけのな。E-350BはA350に純日本製のレドームとレーダーを搭載した全く別物だ。
早期警戒の対象が、航空・情報・陸上・海上の全域に対応して監視統制をMAGIが行う。言わば、MAGIの目だ。
MAGIコントロールの09式装輪管制車や、はやぶさ改などの兵器はMAGIが直接コントロールし、発砲も自動で行う。言わばMAGIの手となる。戦場を変える別の兵器だ」
城島がしばらく橘を見た。「——そのE-350Bをイランの監視に使うのか」
「そうだ。イラン国内の陸海空の移動目標、通信から割り出した基地、すべてを掌握する。だからMAGI-1のリソースを80%投入する。2週間で全目標を選定する。その間は生産系はMAGI-3、戦術系はMAGI-2が代替する」
同じ頃。ジブチ。FEPA基地。
E-350B×2機が滑走路に引き出された。
ケビンがMAGI-1のモニターを見ていた。「E-350BのリンクがMAGI-1と確認完了です。リソース80%を投入します。生産系はMAGI-3に移管。戦術系はMAGI-2に移管します」
黒田が無線を入れた。「E-350B、イラン監視任務を開始する」
2機が離陸した。
イランの空へ向かった。
弾道ミサイル部隊の位置、ドローン工場の座標、革命防衛隊海軍基地の配置——全てのデータがMAGI-1に流れ込み始めた。
同じ頃。イラク。クルド人自治区。国境付近。
夜だった。
FEPA特殊作戦中隊の2個小隊が静かに動いていた。
3人編成×50あまりのチームが山岳地帯に向けて散っていった。
チーム1番。指揮官が小声で言った。「——位置確認」
「確認した。目標まで42km」
「明日の夜明け前に移動を開始する」
ザグロス山脈の稜線に月が沈んでいた。
同じ頃。東京。経産省。
牧野が橘に報告した。「TSMCとの交渉が最終局面です。高岡への第3工場建設に前向きです。熊本の第1・第2工場に続く第3工場として——2nm世代の生産拠点になります」
「条件は?」
「新工場建設費の50%を投資します。AI自動化建築による物納です。優遇税制も提示します。見返りは生産品の優先購入権と議決権なし株です。費用はFMS特会の産業振興枠です」
「——北上は?」
「来週、現地に行ってきます」
橘が少し間を置いた。「お前もできるようになったな」
牧野が少し照れた。「橘さんの真似をしていたら——」
「いいことだ」
【掲示板】日欧共闘まとめスレ
1: ID:Xk7mNpQ3
民放NHKが始まったのか。視聴率2.3%って……
2: ID:mR8vwZ09
段ボール箱がスタジオの後ろに見えてたwww
3: ID:Tb3nHsW1
ハンガリーがルーマニアに進攻準備か。NATO加盟国同士じゃないか
4: ID:nQ0vXc7R
第5条が発動できないのか……NATOが詰んでるな
5: ID:zW4qRm5S
ベラルーシも動いた。イスラエルもレバノンへ。世界が一気に燃え始めた
6: ID:Toshi_k9
こういう時に見えないとこで動いてた人間は何を考えてるんだろ
7: ID:8vYnKp2A
栃木から来ました。親父が「世界がおかしくなってきた」って心配してた
8: ID:Toshi_k9
おかしくなってるんじゃなくて変質してるんだよ。日本だけが準備できてる
9: ID:nQ0vXc7R
TSMCが高岡に第3工場を建設するって話が出てるな。熊本に続いて富山か
10: ID:mR8vwZ09
キオクシアとTSMCが同時に動いてる。半導体の国産化が本格的に始まるのか
11: ID:Toshi_k9
見えないとこで全部設計してた人間が——ここまで見通してたということだ
東京。内閣官房。
城島が橘に最後の報告をした。「E-350Bがイランの監視を開始した。FEPA特殊作戦中隊が山岳地帯に散った。TSMCとの交渉が最終局面だ。」
「そうか」
「——世界が変質し始めている」
「そうだ」と橘が静かに言った。
城島がしばらく橘を見た。「——全部設計の内か?」
「さあな」
橘は答えなかった。ドールA10001号が温めたコーヒーを差し出した。橘が受け取った。今日も温かかった。
窓の外に霞が関の春の空が広がっていた。
E-350Bがイランの空を静かに飛んでいた。FEPA特殊作戦中隊がザグロス山脈の稜線を越え始めていた。
民放NHKがSKIPシティで悪戦苦闘していた。TSMCが高岡の地図を広げていた。ハンガリーがルーマニア国境に兵力を集結させていた。ベラルーシが動いていた。イスラエルがレバノンを進んでいた。
全部同時に動いていた。
冷めたコーヒーに手を伸ばしたが、もう飲んでいた。珍しく、空のカップを持ったままだった。
TAKOCO
TACHIKOMA




