第104話「欧州底支え」
時事ネタ?社会風刺?いずれにしろ、この作品はフィクションであり、実在の企業・団体・個人とは一切関係ありません。キリッ
2028年2月。東京。内閣官房。
片桐から報告が届いた。
城島が橘に読み上げた。「英国——LEO-PNTへの参加に積極的。GCAPとの連携を条件に受け入れる方針です。イタリア——レオナルド社を通じた衛星製造参加を希望。参加表明の方向です。フランス——ギアナ宇宙センターの優先使用権を条件に参加表明。ガリレオとの統合も前向きです。ドイツ——カール・ハインツ・ブランド経由で望月さんが引き込みました。NATO全体での参加を検討中とのことです」
「そうか」
「——LEO-PNT(超小型衛星コンステレーションによって、妨害活動等により既存GNSSが利用できない状況でも、GNSSに依存せずに位置・時刻情報を提供できるシステム)がNATOの測位網になるということか?」
「そうだ。GPS・北斗・GLONASSを上書きする——日欧の測位網が完成する」
城島がしばらく橘を見た。「NATOへの追加提案は?」
「E-350を4機全機派遣する。今すぐウクライナ戦線に送れる。An-124BはNATO向けにセールスを始める」
「An-124Bを?」
「在庫が4機ある。即納できる。3ヶ月で追加4機も用意できる。FMS価格で500億円/機だ。ウクライナへの補給はFEPAだけでは維持しきれない。NATOに自前の輸送機を持ってもらう」
「見返りは?」
「LEO-PNTへのNATO全体での参加だ」
同じ頃。ジブチ。FEPA基地。
マリーニが黒田の執務室に入ってきた。電卓を持っていた。
「報告があります」
「なんだ」
「はやぶさ改の第三期——本日、最終艦が完納しました」
黒田がしばらく黙った。
「——150隻か」
「そうです」
黒田が窓の外を見た。港に隼が並んでいた。2年半前、最初の50隻がアデン湾に展開した日のことを思い出した。あの頃は全部が手探りだった。
「——黒田代表」とマリーニが続けた。「収益計算をしてよろしいですか?」
「いつでもやってる」
「150隻全艦稼働になれば護衛業務の月収益が——」
「いい。後でくれ」
「後では駄目です」マリーニが電卓を叩いた。「護衛業務が現在の60億円から90億円超になります。掃海業務と合わせると月収益が250億円を超えます。FMS特会への開発支援費と合わせると——」
「マリーニ」
「はい」
「今日だけは計算を後にしてくれ」
マリーニがしばらく黒田を見た。
「——了解しました」と静かに言った。
同じ頃。アデン湾沖。隼1番艦。
ケイラが報告を受けた。
「——150隻完納か」とケイラがつぶやいた。
マルコが隣で言った。「感慨深いですね、少佐」
「そうだな」
エマとサラの声が通信に混じった。「ママ~今日お魚釣れたよ!」
ケイラが少し笑った。「すごいじゃないか。何が釣れた?」
「大きいやつ!田中のおじさんが捌いてくれた!」
「——田中さんが?」
「うん、上手だったよ!」
ケイラがしばらく通信機を持ったまま黙った。
マルコが気を利かせて離れた。
同じ頃。東京。内閣官房。
橘がブリッグス准将と通信していた。
「——E-350を4機全機、ウクライナ戦線に派遣します。2機を常時オンステージで運用します。費用は50億円/月/機です」
ブリッグスがしばらく黙った。「——4機全機ですか?」
「そうです。ウクライナのGPS妨害に対処するには戦域管制が必要です。E-350があれば09式の迎撃精度が大幅に上がります。弾薬の節約にもなります」
「——E-350Bの話は?」
「3月末に認証が取れます。4月に2機、9月にさらに2機投入します。E-350Bは150億円/月/機です。USC管制で09式を自動操作します。迎撃誘導に制限はありません」
ブリッグスが止まった。「——USCが09式を自動操作する?」
「そうです。GPS妨害下でも完全に機能します」
「——それは……」
「An-124Bの販売も始めます。在庫4機、即納可能です。3ヶ月で追加4機用意できます。FMS価格で500億円/機です。ウクライナへの補給をFEPAだけでは維持しきれない——NATOに自前の輸送機を持ってもらいたい」
「——条件は?」
「LEO-PNTへのNATO全体での参加です」
ブリッグスがしばらく黙った。「——本部に報告します」
翌日。ジブチ基地。エプロン。
E-350×4機が並んでいた。
整備士たちが最終確認をしていた。
ケビンがMAGI-1のモニターを見ていた。「——全機、MAGIとのリンク確認完了です」
黒田が無線を入れた。「E-350、ウクライナ戦線への展開を許可する」
4機が動き出した。
滑走路を進んだ。
離陸した。
北西の空へ消えていった。
ケビンがしばらく空を見ていた。「——中東から欧州へ。FEPAの活動範囲が変わりますね」
「そうだ」と黒田が静かに言った。
「——これがFEPAの本来の役割ですか?」
黒田がしばらく空を見た。「——さあな」
数日後。ウクライナ。キーウ近郊。
夜明け前。サイレンが鳴り始めた。
09式のレーダーが反応した。
「——弾道ミサイル6発、巡航ミサイル15発、ドローン推定80機以上」
オペレーターが叫んだ。「弾薬残量——」
その時、別のモニターが反応した。
「——E-350から戦域情報が来ています」
担当者が止まった。
モニターに全目標の軌道が映し出された。優先順位が自動的に割り振られていた。迎撃シーケンスが展開されていた。
「——これは……」
「09式に送信します」と別の担当者が言った。
09式が動き出した。
今夜はいつもと違った。
6発の弾道ミサイルを全弾迎撃した。
巡航ミサイルは12発を落とした。残り3発が着弾したが——変電所は無事だった。
ドローンは大半を落とした。
夜明け前に煙は見えなかった。
ウクライナ軍の司令部で将校たちが顔を見合わせた。
「——今夜は違う」と将校が言った。
「E-350です」と担当者が答えた。
「——日本の機体が——」
「はい」
しばらく沈黙が続いた。
「——礼を言え」と将校が静かに言った。
東京。内閣官房。
城島が橘に報告した。「E-350がウクライナ戦線で初稼働した。迎撃率が大幅に上がったそうだ。弾道ミサイルを全弾迎撃した」
「そうか」
「ウクライナ軍が礼を言っているそうだ」
「そうか」
「An-124BのNATOからの問い合わせも来始めた。在庫4機に引き合いが来ている」
「そうか」
「ブリッグス准将からLEO-PNTの件——NATOとして前向きに検討するとの返答が来た」
橘が少し間を置いた。「そうか」
城島がしばらく橘を見た。「——全部設計の内か?」
「さあな」
橘は答えなかった。ドールA10001号が温めたコーヒーを差し出した。橘が受け取った。今日も温かかった。
窓の外に霞が関の冬の空が広がっていた。
キーウでは今夜初めて、夜明け前に煙が上がらなかった。E-350が戦域を見ていた。ジブチではマリーニがようやく電卓を叩き始めた。片桐が次の折衝先へ向かっていた。はやぶさ改150隻が海上に展開していた。
全部同時に動いていた。
冷めたコーヒーに手を伸ばしたが、もう飲んでいた。珍しく、空のカップを持ったままだった。




