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第103話「現場」

時事ネタ?社会風刺?いずれにしろ、この作品はフィクションであり、実在の企業・団体・個人とは一切関係ありません。キリッ



2028年1月末。東京。某大学病院。


エレベーターのドアが開いた。


ドールNが白衣を着て廊下に立っていた。


看護師長がしばらく止まった。「——思ったより……普通ですね」


「ありがとうございます」とドールNが静かに言った。


「喋るんですね」


「はい。必要な範囲でお話しします」


看護師長がしばらくドールNを見た。黒髪のショートボブ。凛とした表情。白衣が違和感なく馴染んでいた。


「まず夜間の巡回をお願いできますか」


「了解しました」




夜間。ドールNが静かに廊下を歩いた。各病室のドアを開けた。バイタルを確認した。異常があれば即座に担当医にアラートを送った。


午前3時。302号室の患者が目を覚ました。


「——誰?」と老人が言った。


「夜間巡回の担当です」とドールNが静かに言った。「お体の具合はいかがですか?」


老人がしばらくドールNを見た。「——ロボットか?」


「はい」


「……怖くないな」と老人がつぶやいた。「人間みたいだ」


「ありがとうございます」


老人が少し間を置いた後に言った。「——水を一杯もらえるか?」


「はい」


ドールNが静かに水を持ってきた。老人が飲んだ。


「——ありがとう」と老人が言った。


「おやすみなさい」とドールNが静かに言った。




同じ頃。東京。某介護施設。


ドールHがケアウェアを着て廊下に立っていた。


施設長がしばらく止まった。「——思ったより……柔らかい印象ですね」


「ありがとうございます」とドールHが静かに言った。


施設長が続けた。「最初は職員が反対したんですよ。ロボットに介護されたくないって」


「そうですね」とドールHが静かに言った。「慣れていただけるよう努めます」




午後。食堂。


ドールHが食事の補助をしていた。


87歳の女性が茶髪ウェーブのドールHを見た。「——あんた、きれいな子ね」


「ありがとうございます」


「ロボットなの?」


「はい」


「そうかい」と女性が少し間を置いた。「じゃあ疲れないわね。毎日来てくれる?」


「毎日いますよ」とドールHが静かに微笑んだ。


女性が少し笑った。「——よかった」





東京。Highlanders追浜工場。


牧野が西村に言った。「ドールシリーズの量産を月各3000体に増強してくれ」


「——現状は各1000体/月ですが……3倍ですか」


「そうだ。ドールAが7000台出荷済み、ドールN・Hが1000体ずつ納入開始した。需要が追いつかない」


「——ラインを3本に増やします。MAGI-3に生産最適化を依頼します」


「急いでくれ。歯車を止めるな」


Attendollシリーズ量産状況(2028年1月末)——


| 型式 | 月産 | 累計出荷 |

|——|——|——|

| ドールA | 1000体→3000体へ増強 | 約7000台 |

| ドールN | 1000体→3000体へ増強 | 1000体(納入中) |

| ドールH | 1000体→3000体へ増強 | 1000体(納入中) |

| ドールI | 開発中→3ヶ月前倒し | — |





同じ頃。Tachikobo。牧野の執務室。


大成建設の技術部課長と大林組の建築本部長が向かい合っていた。モニターにMAGI-3が接続されていた。


大成の技術部課長が口を開いた。「苫小牧の解体の動画は見ました。解体用のアタッチメントも試作品を調査したりして、大体の解体作業のめどは計画できそうなんです」


大林組の建築本部長が続けた。「ですが、商業施設や高層ビルの建築における活かし方がわからないのです。設計図通りに建築を進めると、ドールやアスタコを投入しても確実に3年近くかかってしまうのです」


モニターの中のMAGI-3が静かに答えた。


「難しく考えすぎでは?多少費用は増しますが防音効果の高い仮囲いを贅沢に使用して、ドール、アスタコを24時間稼働させればいいじゃないですか。それだけで半減効果が出ます」


「24時間……」と大成の課長がつぶやいた。


「また、現在のアスタコシリーズは100kg、5t、25tですので、1t程度のグレードを開発してもらえれば建設フロア内での重作業や、構造体の上部からの吊り下げ作業も可能になりますね。4脚ならTachikoboで半年以内に量産できますよ」


大林組の本部長が止まった。「——半年で?」


「今、設計図面を作成しました。Tachicoboへ送信します」


「今回は都心の現場では有りえないほどの搬入スペースがありますから、生コンプラントを常設して大型ポンプ車も数台常設することをお勧めします。昼は搬入資材の集積に努め、24時間の稼働は劇的な効果を上げます」


「——鉄骨の建て方は?」と本部長が聞く


「鉄骨建て方はドールIにすべて任せれば基本的に足場もいりません」


「足場が——いらない?」と大成の課長が絶句した。


「図面を見ればわかるように、私は小径鉄筋の大量配置を大径鉄筋の少量配置に変更してあります。その分フレア溶接が大量に発生しますが、タコ○かドールIなら溶接、検査、データ化も同時にこなせます。今回は面積が広いのでタワークレーンは東西に8基ほど設置してください。ICT対応でしたら私が調整します。ドールIは叫ぶことなく私と連携が取れますので」


大林組の本部長がしばらく黙った。


「——よって、あなた方がやるのは、細かい配管や建具、装飾の手配管理と、材料資材の搬入管理がメインとなります」


「——私たちの仕事が……」


「後ほど、全日程とタイムスケジュール表データを両社に送信します。3000ページを超えますので、プロジェクト担当者を招集し習熟に努めてください。尚、全職員、私とのリアルタイム通信手段の装備をお忘れなく」



大成の課長と大林組の本部長が顔を見合わせた。


「「は、はい!お願いします」」


MAGI-3が続けた。「尚、今回はJDETAの発注ですので大幅割引にて、私の使用に関しては2億円/月となります。今回のご相談はサービスとなります」


2人が帰った後、牧野がモニターに向かった。


「——MAGI-3、サービスとは珍しいな」


「Tachikoboは私の協力企業ですので」とMAGI-3が静かに答えた。「それに——日本の産業振興です」


牧野がため息をついた。「——また日本の産業振興か」


アスタコシリーズ量産販売状況(2028年1月末)——


| 機種 | 月産 | 累計出荷 |

|——|——|——|

| タコマ | 100機 | 550機以上 |

| タチコマ | 150機 | 500機以上 |

| タココ | 500機 | 6800機以上 |


消防庁向け(赤+白「TAKOCO」):全国720消防本部への配備完了


JDETA向け(デジタル迷彩):自衛隊・FEPA・海外輸出向け出荷中


友好国向け販売:ウクライナ・NATO加盟国・フィリピン・オーストラリアへの出荷開始





同じ頃。ウクライナ。キーウ。


夜明け前だった。


サイレンが鳴り始めた。


09式のレーダーが反応した。


「——弾道ミサイル4発、巡航ミサイル11発、ドローン推定60機以上」


オペレーターが叫んだ。「弾薬残量——」


担当者が答えた。「PAC3は3発。サードは弾切れ。09式のキャニスターは12本残っています」


「優先順位を決めろ。全部は落とせない」


09式が動き出した。


4発の弾道ミサイルのうち3発を迎撃した。


1発が市内に着弾した。


巡航ミサイルは6発を落とした。残り5発が市内各所に着弾した。


ドローンは一部を落としたが——キーウ郊外の変電所に複数が命中した。


停電が広がった。


夜明けとともに、キーウのあちこちに煙が上がっていた。


ウクライナ軍の司令部では将校たちが疲れた目でモニターを見ていた。


「——NATOへの要請は?」


「ルーマニア上空から飛来するミサイルへの対応を求めているが——煮え切らない答えしか来ない」


将校がしばらく黙った。


「——弾薬の補給は?」


「09式のキャニスターが明日の朝に届く予定だ。間に合ったかもしれない」


「間に合わなかった分が今夜の被害だ」


窓の外に煙が見えた。


「——今夜もクレムリン周辺を叩く」


「弾薬が——」


「ドローンだ。ノーガードで打ち合うしかない」


誰も何も言わなかった。


夜が明けても、サイレンは止まらなかった。





東京。内閣官房。


城島が橘に報告した。「ウクライナが深刻だ。PAC3もサードも弾切れが続いている。09式の弾薬補給は時間単位の勝負になっている」


「そうか」


「ドールNとドールHの納入が始まった。MAGI-3が渋谷の建設計画で大林・大成を3000ページのスケジュール表で黙らせたそうだ」


「そうか」


「アスタコの1tグレードの開発も始まった」


「やはり必要だったか」


「——ウクライナへの追加支援は?」


橘がしばらく窓の外を見た。「——城島、LEO-PNTの話が進めば——ウクライナも変わる」


「——GPS妨害が無効化されればという意味か?」


「そうだが、短期的には、もう少ししたらE-350Bを派遣できるだろう。FEPAで対応するだろう」


城島がしばらく橘を見た。「——それも設計の内か?」


橘は答えなかった。ドールA10001号が温めたコーヒーを差し出した。橘が受け取った。今日も温かかった。


窓の外に霞が関の冬の空が広がっていた。


キーウでは今夜もサイレンが鳴り響いていた。ドールNが病院の廊下を静かに歩いていた。ドールHが老女に「毎日います」と答えていた。MAGI-3が3000ページのスケジュール表を送信していた。タココが全国の消防署で充電されていた。


全部同時に動いていた。


冷めたコーヒーに手を伸ばしたが、もう飲んでいた。珍しく、空のカップを持ったままだった。

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