第10話「ワルシャワの画面」
時事ネタ?社会風刺?いずれにしろ、この作品はフィクションであり、実在の企業・団体・個人とは一切関係ありません。キリッ
2024年8月。午前三時。
アンナ・コワルスキはモニターの前から離れられなかった。
画面には数字が流れている。ロシア系ハッカー集団「サンドワーム」の最新の攻撃パターン。アンナの会社が防衛を請け負っているポーランドの電力インフラを狙っている。
三日間、ほとんど眠っていない。
コーヒーの残りを飲んだ。冷めていた。
攻撃側はミスをしても次の手を打てる。防衛側はミスが許されない。非対称な戦いだ。
父がよく言っていた。「戦場は残酷だが、少なくとも敵がどこにいるか分かる」
GOI——ポーランド特殊部隊の出身。父は戦場の話をほとんどしなかった。でもその一言だけは、アンナの頭に残っていた。
画面の数字が動いた。
新しい攻撃ベクターだった。アンナはキーボードを打ち始めた。手が動く。頭が動く。でも体は動かない。三日間、この椅子から離れていない。
ふと気づいた。
窓の外が明るくなっていた。
また朝になっていた。また夜を越えていた。また何かを守れたかもしれなかった。でも明日も同じことをする。来週も同じことをする。来年も。
アンナはキーボードから手を離した。
画面を見た。数字が流れ続けていた。
「戦うなら本物の戦場の方がまだ分かりやすい」
声に出して言ってみた。
誰もいないオフィスに、言葉が消えた。




