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『ドラゴンテイマーと魔人』 ~追放された不遇職の僕は、婚約者だった公爵令嬢と共に、何とか生き抜いていこうと思いました~  作者: 星衛門
2章 ヴァンパイアと魔人

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35格闘戦②




 「ああ、何て…万能感。身体に力が満ち溢れる」


 血を飲んで強化したヴァンパイア公爵のベネジクトは、自身の溢れる力に酔いしれていた。


 確かに、離れていても感じる威圧感。

 その強さのほどは。


 ビュン!


 瞬くもせず、ベネジクトを観察していたレーナだが、突如視界にベネジクトが消える。

 それと同時に、一つの突風が吹く。


 レーナは本能的に、両腕でガードする。


 突風がレーナを直撃したと思った瞬間、


 「うう?!」


 物凄い衝撃が両腕に衝突する。

 一瞬、腕が吹き飛んだのかと思ったほど。


 大きく後ろに飛ばされるレーナ。

 両腕の襲った衝撃の正体は、ベネジクトの正拳突きであると分かったのは、吹き飛ばされる途中だった。


 地面に転がるレーナ。

 転がりつつも、何とか体制を整える。


 もし、ガントレットを身に着けていなかったら、確実に骨は折れていた。


 見れば、両腕に着けているガントレットがひしゃげていた。

 レーナはガントレットを取り、無手になる。


 「ほお…防御したか」


 ベネジクトは怪しい笑みを浮かべていた。

 対するレーナは苦虫を噛み潰した顔。


 これは不味い。

 血を飲んで強くなったのは、分かったが、ここまでとは。


 距離を詰めてきた時の動きが速過ぎて、目では捉えられなかった。

 半魔人であるレーナの動体視力では、捕らえられない程の速度からの攻撃。


 身体能力に少し自信のあったレーナにとっては、絶望しかない。


 だけど、それでも戦うしかないんだ。

 リックとクロに、もう一度会うために。


 今の公爵と自身には、大きな力の差がある。


 受け身に回っては駄目だ。

 攻撃に回らないと。


 「はああ!」


 レーナは駆け出す。

 己を奮い立たせるために、気合の声を出す。


 そして、踏み込みざまに、右拳を繰り出す。


 渾身の正拳突き。


 しかし…バシ!


 「遅い。遅すぎて、欠伸が出る」


 渾身の正拳突きは、糸も容易く、ベネジクトが片手で受け止める。


 さらには、ベネジクトが右足でレーナの左足を踏みつける。

 完全に逃げられない状態にする気である。


 「く!離しなさい!」


 握り締められた右拳や踏まれた左足を解こうと思ってもビクともしない。


 まるで、鉄の塊に拳を覆われ、大岩に足を下敷きにされた様な感覚。


 「何とまぁ…柔らかい拳」

 「う?!」


 メキ…。

 握られたレーナの右拳が嫌な音を立てて軋む。


 「ふ!」


 痛みに耐えながら、レーナは自由な右足で、横蹴りをベネジクトの左足目掛けて放つ。

 ………が、微動だにしなかった。


 あたかも巨大な樹木に蹴りを撃ったかのような錯覚を覚える程の感触を感じる。


 ならばと、レーナは左拳でベネジクトの胸部を狙う。

 だが、こちらも巨大な樹木に拳を叩きこんだ感触しかしなかった。


 速度や筋力だけでなく、頑丈さも上がっているのだ。


 一向に攻撃が効かないことに、ベネジクトはニヤケる。


 「なら、ここです!」


 レーナは考えてから、左手を貫手の状態にして、ベネジクトの喉を狙う。


 ここは、人体に置いての急所。

 鍛えられようのない場所。


 それは魔人であり、ヴァンパイア公爵であるベネジクトも同じはず。


 「やはり、遅いな」


 シュン!

 喉を狙ったレーナの左の貫手は、ベネジクトが少し首を傾けられただけで、躱される。


 ベネジクトは終始、余裕の顔である。


 「せあ!」


 ならばと、連続で貫手を繰り出す。

 その全てが当たることは無かった。


 そうしている内に、気づけばベネジクトが左手を握り締め、


 「そろそろ、我の番だ」


 素早い拳がレーナの顔の中心に直撃する。


 「きゃ?!」


 レーナは軽い悲鳴を出しつつ、顔をよろけさせる。


 ポタ…ポタ…。

 地面に落ちる赤い液体。


 ベネジクトの拳がレーナの鼻に直撃したため、鼻血を出したのだ。


 「まだまだ!」


 そこから、ベネジクトの殴りつけが始まる。


 右拳を掴まれ、左足を踏みつけられ、回避する手立ての無いレーナは、ベネジクトの無差別な拳の攻撃を食らうしかなかった。


 それは、傍目には、子供を甚振る大人の光景に見えたかもしれない。




 レーナは左手でガードするも、限界があった。

 ベネジクトの殴りつけが終わった時には、


 「はぁ………はぁ………はぁ………」


 誰が見ても、レーナは消耗していた。

 ダメージが蓄積しすぎたせいだ。


 レーナの左腕は、ベネジクトの殴りつけを防御したために赤く腫れ、その左腕も、痛みで動かすことが困難。

 鎧の胸当てもベネジクトの殴りつけで激しく損傷していた。


 今のレーナには、立っているのが、やっとかもしれない。


 「ようやく、大人しくなったか」


 今のレーナには、反抗する気力は無いだろうと思い、ベネジクトはレーナの右拳と左足を解く。


 その瞬間、


 「はああ!」


 最後の気力を振り絞って、身体を前に出し、頭突きを出す。


 レーナの闘志は、まだ尽きていなかったみたいだ。


 「ぐ?!」


 その頭突きは見事に、ベネジクトの顔に命中する。

 よろけるベネジクト。


 見ると、ベネジクトの口元から少量の血が出ていた。


 「貴様」


 ベネジクトは、先程までの余裕の表情が消し、レーナを睨みつける。

 目には、怒りの火が灯っていた。


 次の瞬間、ベネジクトの体がブレる。


 それは、目にも止まらぬ速さで、レーナに迫ったからだ。


 ドン!!

 勢いをそのままに、ベネジクトは強烈な膝蹴りを、鎧の覆われていない無防備なレーナの腹部に深々と突き刺す。


 怒りに任せたベネジクトの本気の一撃。


 肺の空気が強制的に外に出る。

 城壁を破るための破城槌を人体に受けたみたいな感覚を味わうレーナ。


 人よりも頑丈であり、腹部にも腹筋がしっかりと付いているレーナでも、目尻に涙を浮かべるほどの痛み。


 「ゲボア゙ァ?!」


 女性から出てはいけない声を出すレーナ。


 「おえぇ?!」


 口から唾液やら胃液やら、いろんなものを吐き出しながら、レーナは悶絶する。


 残っていた闘志は、今ので消え失せる。

 地面に膝を突き、土下座をするような形で腹部を抑える。


 「おっと…流石に、やり過ぎたか?研究対象は丁寧に扱わねば」


 ベネジクトは、ゆっくりした動作で悶絶しているレーナのミッドナイトブルーの長い髪を無造作に掴む。


 掴んだ髪を、そのまま持ち上げる。

 体を痙攣させるレーナ。


 「終わりだ」


 ベネジクトは、両手でレーナの髪をしっかりと掴んだまま、またしても強烈な膝蹴りを放つ。


 膝蹴りは、レーナの胸当てに当たり、胸当てが全壊しながら、鳩尾を直撃する。


 「かは…」


 もう、レーナには悲鳴を上げる気力も無かった。

 そのまま、レーナは崩れ落ち、意識を手放す。




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